フランスの「働く」を考える週休3日制を導入するフランス企業の取り組み事例

イントロダクション

フランスで週休1⽇制(⽇曜休⽇)が全国で導⼊されたのは1906年である。その30年後の1936 年に現在の週休2⽇制(⼟⽇休⽇)が導⼊された。2019年に実施された調査では、84%のフランス人が週休3日制の導入に賛成しているとし(※1)、制度に対する議論がますます活発となっている。仏政府は現在、完全雇用の達成を目指す法案の骨子を準備中であるが(※2)、この法案の柱の一つに週休3日制の試験導入が組み込まれることが予定されており、一連の動きからも制度が全国的に導入される日が遠くないことがうかがえる。

こうして政府がやっと重い腰を上げたなか、すでに400以上のフランス企業が法制化を待たずに動き出している。賃下げなし・労働時間延長なしに労働生産性を改善することで週休3日制を導入する「フレンチ・スタンダード」は、試験導入した英国をはじめ、世界の様々な国や企業が注目している。今回のコラムでは、実際に導入した企業の例を検証する

週休3⽇制のパイオニア

資材リサイクルのYprema(※3)は1997年に減給を伴わない週休3⽇制を導⼊した。以降25年にわたり制度を維持し続けている。現在は、週30時間労働へとさらなる短縮を試みており、⾃他共に認める時短のパイオニアである。

Ypremaは、まず⾁体的に⼀番過酷な作業を行う現場の⼯員から導入し、週35時間労働を週4⽇に振り分けた。⼯員はシフト制で働き、3⽇の休⽇は基本的に固定にしている。オフィスの社員は各部署で最低2⼈(部署によっては3⼈)が稼働できるようにシフトし、3⽇の休⽇は各部署内で業務に差し⽀えないように話し合いをして決定する。

Ypremaでは、週休3⽇制が導⼊されてから「Polyvalence(複数の技能を有すること)」という考えが浸透した。例えば、⼈事部では通常は、給料計算担当の1名、⼈事・総務担当が1名、労務関係1名の3⼈体制であるが、1名が休みの時は他の2名が仕事を代替できるように、スキルを向上させる必要があり徹底して学ばせた。専⾨以外のスキルを得た社員は、これをきっかけにキャリアアップのための研修を受け、管理職ポストに就任するというケースが増えた。

社内では上昇機運が広まり、世代間のスキル伝達においても大きな効果がみられた。ターンオーバー制を全ての業種で行った結果、導⼊から7年後の2005年には、週の労働時間を短縮したにもかかわらず、機械の稼働時間は以前の39時間から44時間へと増加することができた。これは1年あたり1カ⽉分の稼働量に匹敵する、大きな上昇となった。なお、ビジネス・ケイパビリティも40%上昇しているという。

「脳神経科学」を用いて週休3日制の効果を分析する

Welcome to the Jungle(※4)では2019年に5カ月間にわたる試行期間を設け、2020年に正式に週休3⽇制を導⼊した。その際、導入による社員への精神的インパクトを「脳神経科学」の観点から科学的に証明するという世界初の実験を試みた。研究には著名なニューロサイエンティストを起用し、毎週、選択された各部署の代表ら(54〜72人)と面談を行い、ある一定の質問を交差して問い、その結果を分析した。

賃下げなし・労働時間延長なしに制度を導入し成功させるためには、労働生産性を抜本的に改善する必要がある。現場では、マネジャーと従業員が、プロジェクトごとに優先順位を定め、必要な作業を明確化した上で、本来あるべき正当な作業方法を改めて見直した。限られた時間を最大限効率的に使うべく「無駄」を徹底的に省く努力がなされた。

社員の大半が9時に出勤して18〜19時に帰宅するが、変化があったのは昼の休憩時間で、平均1時間から45分に短縮した。その他の休憩時間も一般社員が12分から5分に、マネジャーが13分から3分へと短縮した。休憩の短縮は会社から押し付けられたのではなく、時間を効果的に使い始めた従業員自らの行動であった。全社員が集まる週1回の全体ミーティングも2週間に1回となり、もう一回はリモートで開催することになった。

営業のように結果が数値でみえやすく、また、短・中期のミッションと、長期で追う必要のあるミッションに分けられる業務では、時間に迫られるとどうしても長期のミッションを後回しにしがちだ。しかし、それは会社の運営においては大きなリスクに繋がる。リスクを避けるために新たな人員を増やすなど、新しいチームを構成するといった対処は必要である。こうしてWelcome to the Jungleの5カ月間試行期間はおおむね成功に終わった。

従業員のさらなるウェルビーイングを求めて

Groupe LDLC(※5)はリヨンに本社を置く大手ハイテク機器販売会社である。LDLCでは2021 年から全従業員を対象に、減給を伴わない週休3⽇制を導⼊した。設立者でCEOであるドゥ・ラ・クレジュリー氏が、金曜日の午後に疲れ果てた従業員の姿をみて、「⾦曜⽇の作業が進まないのなら、いっそ⾦曜⽇を休みにしたら、平⽇の作業効率が上がるのではないか」と考え、⽇本マイクロソフトの事例を思い出し、⾃社への導⼊を決定したという。

オフィスは一律で⾦曜⽇を休みにした。店舗スタッフなどはローテーションで3⽇⽬の休⽇の曜⽇を決定している。週休3⽇制を導⼊する際に最も慎重に行動したのは、物流倉庫で働くパッキングスタッフである。オフィススタッフの1時間と⾁体労働の彼らの1時間は同じものさしで測ることはできない。1⽇のパッキング量を30箱から35箱へと5箱増やすには生産性を向上させなければならないと思われていた。ところが、実際に週休3⽇制を導⼊したところ、作業効率は下がるどころか⼤幅にアップし、以前の労働時間である7時間で35箱を完了することができたという。

公共機関による初の試み

社会保障費徴収機関(URSSAF)のピカルディ事務局では、公共機関として初めて週休3日制を導入した。労組代表との1年にわたる話し合いの末、300人の従業員に対するフレキシブルな労働時間に関する協定に調印し、協定の枠内において2023年1月1日から1年間にわたり、希望者に週休3日制の試験導入を行っている。

評価するには時期尚早であるが、従業員とその上司の最初のフィードバックは非常にポジティブなものであった。ピカルディ事務局が提案した週休3日制のスキームは、賃下げはないものの、1日の労働時間の延長がある。具体的には、週休3日制を導入する職員は、1日の労働時間を7.20時間から9時間に延長する必要があった。

幼い子供を夕方に迎えに行く必要がある親などは制度の導入を見送ったという。また、1日9時間労働は耐えられないと思った社員も多く、導入後に断念したケースもある。ピカルディ事務局は採用難の時代に候補者を惹きつける方法として週休3日制導入を考えたが、1日の労働時間延長は全ての人に適しているわけではないため、長期的な導入を検討する際は労働時間の延長について再考する必要があるだろう。この試験導入に対する評価は1年後に公表される予定である。

100%テレワークと同時に導入

スタートアップのBizay(※6)では、フレキシブル・ワークをさらに進展するために、100%のテレワークと週休3日制を同時に取り入れている。まず、2022年9月に100%のテレワークを採用している。2022年10月からは、200名の従業員のほぼ全員(98%)が週休3日制導入を選択し、2年にわたる試験導入が実施されている。

Bizayは週の労働時間の36時間を週4日に分配する方法で週休3日制を2年間の実験的なパイロット期間として導入している。このアプローチは、年間労働日数の17%の削減(186日勤務)と労働時間の7%削減(1672労働時間)に繋がった。3日目の休日は固定曜日ではなく、各チームで調整し、日々の活動の継続性を確保できるような形で決定している。また、給与の減給はなく、100%テレワークの従業員は、給料はそのままで、1日1時間余分に働くこととしたという。試験導入の結果は、四半期ごとに仕事組織に対する影響を測定し公表している。

コンサルティング会社のデロイトは組織変革のアドバイスを行っており、チームの生産性、満足度、健康状態、人材確保・定着に与える影響を分析している。従業員の83%が、「家族や友人と過ごす時間が増え、満足度が大幅に向上した」と回答している。また、88%の管理職が、「新しい労働形態のもとでのチームのパフォーマンスが向上し満足している」と回答している。当初は想定していなかったが、週休3日制導入後の同社の求人応募数は導入前と比較して約300%増加し、従業員の離職率は前年同期比で35%減少した。

Bizayは100%のテレワークと週休3日制の両方を導入する稀なケースであるが、同社は、週休3日制が同社の飛躍的な成長に適合するソリューションであり、従業員の満足度と幸福度を高め、モチベーションとコミットメントの向上にも繋がると確信している。

終わりに

「フレキシビリティ」は、労働市場における新しいキーワードとなった。パンデミックが発⽣し、働き方を問う人々が増えるなか、企業は恒常的な人材不足に悩まされている。レゼコー紙はADP Research Instituteによる調査(※7)で、18〜24歳の若い世代では、半数以上(53%)が「働く会社で100%のオフィス出勤を余儀なくされ、テレワークができなければ退職する(※8)」と表明した、と報道した。今後、こうした傾向はますます顕著になると予想している。優秀な人材を惹きつけるための策として「フルリモート」「週休3日」などのフレキシブル・ワーク提案する企業がますます増えている。

(※1)Citrixによる2019年11月に実施された週休3日制に関する調査結果
(※2)ル・モンド紙ウェブ版記事より:https://www.lemonde.fr/politique/article/2023/04/03/le-gouvernement-prepare-une-loi-sur-le-travail-pour-tenter-de-tourner-la-page-des-retraites_6168089_823448.html
(※3)資材リサイクル業。2020 年の売り上げは2350 万ユーロ。従業員数は100 ⼈。パリ近郊を中⼼に16の拠点がある
(※4)⼈材系メディア、シンクタンク。従業員数は150人
(※5)1996 年創業のハイテク機器販売でフランスの最⼤⼿。2020 年の売り上げは8 億ユーロ。従業員数は1000 ⼈
(※6)世界最大のカスタマイズ可能な製品カタログへのアクセスを提供するオンラインショップ
(※7)https://www.fr.adp.com/a-propos-adp/communiques-de-presse/13-07-22--le-100-pour-100-presentiel-un-motif-de-demission-pour-plus-de-la-moitie-des-18-24-ans.aspx
(※8)レゼコー紙のウェブ版記事より:https://start.lesechos.fr/travailler-mieux/flexibilite-au-travail/la-moitie-des-jeunes-prets-a-demissionner-si-le-100-presentiel-leur-est-impose-1776364

TEXT=田中美紀(客員研究員)