Column

共有メンタルモデルで採用と人材育成を連携させる
碇 邦生

「採用と人材育成を連携させたいと考えているのだが、なかなか難しい」
このような問題意識を持つ採用や人材育成の担当者は多い。この問題意識の背景として、人事部の縦割り体制や現場任せとなってしまっているOJT(On-the-Job Training)など、いくつかの要因が考えられるだろう。しかし、ここでは人事部の構造やOJTの体制など組織論的なアプローチではなく、チームワーク理論という観点から解決策を検討してみたい。

チームのパフォーマンスを向上させる共有メンタルモデル
チームでプロジェクトを遂行していくうえで、メンバー同士が連携するためには、情報共有は基本とも言える。しかし、ただ情報共有をしただけでは十分とは言えない。これが、採用と育成を連携させるような異なるチーム同士になれば、より連携をとっていくことが難しくなる。重要なことは、情報共有することで、メンバー同士がメンタルモデルを共有できるかどうかにある。
チームワーク理論では、関係者が多く、複雑性の高い業務を成功に導くために、チーム内で共通のメンタルモデル(物事の見方や行動を決める際の前提となるイメージ)を持つことが重要だと考えられている。このことを共有メンタルモデル(Shared Mental Models)と呼ぶ。米国のチームワーク研究者であるキャノン・ボワーズらの研究によれば、共有メンタルモデルとは、メンバー同士で共有されている体系化された知識や相互理解とその心的表象(イメージ)として定義される。

米国ペンシルバニア州立大のマシューらの研究によると、チーム内で共有される知識や相互理解(「ナレッジ」と呼称される)は、タスクに関連するものとチームに関連するものに大別することができる。また、大別された2つのカテゴリーはそれぞれ2つのサブカテゴリーで構成される(図表1参照)。この4つのサブカテゴリーの中でも、特に重要なものは「職務とタスク」と「チーム内の相互作用」とされる。

図表1 チームにおける共有メンタルモデルの類型
出所:Mathieu et al. (2000) を筆者翻訳

「テクノロジーと設備」と「チーム」に関連するナレッジは、最も一般的であり、共有されないことはほとんどない。しかし、「職務とタスク」と「チーム内の相互作用」に関連するナレッジの共有は、曖昧な状態で進んでしまうことが多い。特に、複雑性が高くタスクの細分化が困難な業務や、多様な関係者が存在する業務の場合、情報伝達のコストが上昇し、ナレッジを共有することが難しくなる。ナレッジが十分に共有されていないと、チーム内の連携の不備から作業効率の悪化などの問題を招き、チームのパフォーマンスが低下してしまう。経営学における数多くの研究でも、メンタルモデルの共有の度合いが、チームのパフォーマンスに大きな影響を与えると実証されている。

採用と人材育成を連動させるための共有メンタルモデル
メンタルモデルを共有することは、1つのチーム内だけではなく、複数のチームにまたがる横断的な業務のパフォーマンスを高めるのにも有用である。その際は、個々のチーム内でメンタルモデルを共有し、同時に、各チームのキーパーソン(リーダーやマネジャーであることが多い)同士でメンタルモデルを共有することが多い。この際、各チームのキーパーソン同士は、「人材獲得チーム」のように組織化されていなくとも、あたかも仮想のチームがあるかのごとく、密接に情報やナレッジを共有し合い、共通のメンタルモデルを形成していく。
採用と人材育成についても、優れた人材を確保するという共通のミッションを持った仲間として、キーパーソン同士がメンタルモデルを共有することで、採用と人材育成を連携させることが可能となるだろう。実際には、図表2のように、キーパーソン同士が各チームを横断する共有メンタルモデルを構築することが想定される。

図表2 採用と人材育成を連動させるための共有メンタルモデル

実際に、図表2で示されるように、育成と採用を横断するキーパーソンを設けることによって、共有メンタルモデルを構築させようという事例がいくつかある。例えば、あるIT企業ではITエンジニアの調達について、採用と育成を横断したプロジェクトとして考え、ITエンジニア獲得プロジェクトのリーダーが採用と育成のマネジャーを巻き込んでいくことによって、メンタルモデルの共有を行っている。ほかにも、フランスのあるグローバル企業では、3か月に1回、採用と育成のミッションを持つ全世界の人事マネジャーを本社に集め、採用と育成の状況についての情報共有と目線合わせを行うことで、メンタルモデルの共有を行っている。

採用と人材育成を連携させるには、採用チームや人材育成チームが個別にメンタルモデルを共有するだけではなく、各チームのキーパーソンが、あたかも同じチームに所属するメンバーであるかのごとく、コミュニケーションを密にし、メンタルモデルを共有することが重要となる。

参考文献
1. Converse, S., Cannon-Bowers, J. A., & Salas, E. (1993). Shared mental models in expert team decision making. In N. J. Castellan, Jr. (Ed.), Current issues in individual and group decision making (pp. 221-246). Hillsdale, N J: Erlbaum.
2. Mathieu, J. E., Heffner, T. S., Goodwin, G. F., Salas, E., & Cannon-Bowers, J. A. (2000). The influence of shared mental models on team process and performance. Journal of applied psychology, 85(2), 273.

 

碇 邦生


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2017年09月05日