研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.4「コミュニケーション能力」は採用基準であるべきか?──中村星斗

新卒採用で問われるコミュニケーション能力

新卒採用で求められる能力の 1 つに「コミュニケーション能力」がある。試しに「コミュニケーション能力とは」とインターネットで検索するとさまざまな説明がヒットする。その内容は自己表現、意思疎通、対人関係構築、共感など多様であり、はっきりとした定義にたどり着くことは難しい。

例えば、厚生労働省が若年者就職基礎能力支援事業(YES-プログラム)の中で定めた「コミュニケーション能力」は、意思疎通、協調性、自己表現能力の 3 つで構成されている。また、直接的に「コミュニケーション能力」と表現されてはいないが、経済産業省の社会人基礎力にはチームで働く力(チームワーク)という要素があり、これは発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力の 6 つで構成されている。

定義はさまざまながら、企業は新卒採用の選考で「コミュニケーション能力」を重視している。日本経済団体連合会の新卒採用に関するアンケートで尋ねられた「選考にあたって特に重視した点」では、「コミュニケーション能力」が 15 年連続で 1 位であった(※1)。実際、新卒採用では「コミュニケーション能力」が評価されるという話をよく耳にする。

本当にチームで仕事をしているのか?

厚生労働省の「コミュニケーション能力」、経済産業省の社会人基礎力(チームで働く力)の定義を見ると、企業が「コミュニケーション能力」を採用選考で求めるのは、集団の中で協働すること、チームで働くことを職場で求めているからだと推察される。日々仕事をする中で他者との協働は確かにあり、重要でもある。しかし反対に、実際には 1 人で実務を進める時間もそれなりにあるはずで、それがなければ仕事は進まない。

我々は本当にチームで仕事をしているのだろうか? そうであれば、どの程度の時間、他者と働いているのだろう。

以下の図は、リクルートワークス研究所で実施した全国就業実態パネル調査 2023(以降、JPSED と表記)を用いて、実際にどのくらいの人が、どのくらいの割合でほかの人と一緒に仕事をしているのかを可視化したものである(※2)。横軸は年齢階級を、縦軸はほかの人と一緒に仕事をする割合を表している。例えば、22~24 歳のうち 7.9% の人は、ほかの人と一緒に仕事をする割合が 0~20% 未満である。また、25~34 歳のうち 11.7% の人でも同様に、ほかの人と一緒に仕事をする割合が 0~20% 未満である。

この図から、全体的にほかの人と仕事をする割合の大きな人が多く、我々は本当にチームで仕事をしていることがわかる。中でも 22~24 歳について、ほかの人と一緒に仕事をする割合が 60% 以上の人は 44.6%(80%~100% が 19.8%、60~80% 未満が 24.8%)であり、ほかの年齢階級と比べてその割合の大きな人が多い。また、年齢階級が上がるほど 1 人で仕事をする割合の大きな人が増える傾向が見られた。直感的には、年齢が上がればマネジメントやリーダーなどの役割を担う機会が増え、より多くの時間をほかの人と働くことに費やすのではと想定していたが、結果は逆であった。とはいえ最もほかの人と一緒に仕事をする割合が小さい 55~64 歳でも、その割合が 60% 以上の人は 26.2%(同 11.7%、同 14.5%)おり、やはり多くの人が長い時間、ほかの人と一緒に働いているようだ。

年齢階級別 ほかの人と一緒に仕事をする割合
年齢階級別 ほかの人と一緒に仕事をする割合

「コミュニケーション能力」は採用基準であるべきか?

JPSED の集計から、多くの人が長い時間、ほかの人と一緒に仕事をしていることがわかった。特に、新入社員や若手社員ほどその傾向は強く見られ、その意味において、新卒採用の場面で「コミュニケーション能力」が注目されることにはある程度納得がいく。

しかしここではあえて、「コミュニケーション能力」を採用選考、特に面接で見極めるべきか、そしてそれは妥当かについて再検討する必要性を考えたい。これには大きく 2 つの理由がある。第 1 に、面接でのコミュニケーションと、日々の仕事場面でのコミュニケーションはその性質が大きく異なることである。面接でよく問われるのは「学生時代に力を入れたこと」「志望動機」「入社後にやりたいこと」等であり、学生にとっては事前準備や練習が可能だ。しかし日々の仕事場面では事前準備可能なコミュニケーションばかりではない(※3)。すなわち、面接でうまくコミュニケーションを取れる能力は、仕事場面でうまくコミュニケーションを取れる能力を必ずしも予測しないのではという疑問が湧く。第 2 に、新卒採用の場合、面接官にとって目の前の候補者(就活生)が入社後に自分の部下にならないケースも多いはずだ。どこで誰と何の仕事をするかわからない人に対して、仕事から離れた場面で、仕事に必要な「コミュニケーション能力」を短時間で測定することには限界があるだろう。このような現実を踏まえると、面接で確認できる「コミュニケーション能力」といっても最低限のやり取りができたかどうか、といったところではないだろうか。

上記の 1 点目は、面接で「コミュニケーション能力」を適切に評価できたとして、それは職務遂行に必要な「コミュニケーション」を予測するものではないのではと考える視点、2 点目は、そもそも面接で「コミュニケーション能力」を評価すること自体には限界があるのではと考える視点である。

またこれに加え、そもそもコミュニケーションを「能力」とみなして選考すべきかという視点もある。例として、最もほかの人と働く割合の大きい若手に焦点を当ててみる。この人たちが「ほかの人と一緒に仕事をする」シーンを具体的に考えると、「相談をする」「支援やアドバイスを求める」「何らかの確認を取る」といったものが多いだろう。このような行動は援助(サポート)希求などの領域で研究されている(例えば、山内 ほか, 2023)。この前提に立ち、若い人にとってのコミュニケーションの目的が支援や確認を求めることにあるのなら、コミュニケーションを個人の「能力」に求めるより、健全なコミュニケーションを取りやすい組織を目指す方が有効な施策になるだろう。この場合、「コミュニケーション能力」での選考は過剰な(もったいない)選抜につながる可能性もある。

本稿で示した観点については、実際に現場で採用面接を担当したことのある人なら感じたことがあるのではないだろうか。もちろん、さまざまな限界を踏まえながらも採用場面で「コミュニケーション能力」を測定するという意思決定自体は否定されない。一方、コロナ禍以降のビジネスチャットによる非同期的なコミュニケーションの増加(※4)など、環境変化が大きい状況においては、上述の限界も踏まえつつ、これまでと同様にコミュニケーションを「能力」として確認することが本当に妥当か、ほかのより適切な採用基準はないかを再検討することも必要だろう。

引用文献
伊藤忠テクノソリューションズ. (2017). 大手企業のビジネスチャットツール導入実態調査を実施.
就職みらい研究所. (2023). 就職白書2023.
山内貴史・島崎崇史・須賀万智. (2023). 職場風土と労働者の援助希求行動. 産業医学ジャーナル, 46(3), 77–81.

(※1)公開情報から同じ調査を確認できたのは 2004~2018 年であり、いずれも重視する項目に対して複数回答を求めている(引用文献には最新の 2018 年度調査のみを掲載)。解釈上の注意点として、複数選択の場合、選択率の高さと優先順位の高さが一致しない場合がある。例えば「コミュニケーション能力」を多くの企業が重視していることは間違いないが、全ての企業において最も重視されているかはわからない。
(※2)対象者の条件は次のとおり。年齢: 22 歳以上、学歴: 大卒以上、就業形態: 2022年12月時点で正規の職員・従業員かつ2022年の 1 年間が「就業」で変化なし、職種: 2022年12月時点で管理職、事務職、営業職、専門職・技術職のいずれか、役職: 制限なし。集計にはクロスセクションウエイト XA を用いた。なお、22~24 歳、65 歳以上はサンプルサイズが小さいため解釈には注意が必要である。
(※3)事前準備や練習が可能なコミュニケーションもある。
(※4)伊藤忠テクノソリューションズ (2017) の調査では、大手企業の約 3 割がビジネスチャットツールを導入していると報告されている。