Column

世界からみた採用の未来:カリフォルニアより
碇 邦生

タレント獲得戦争
優秀な人材の獲得は、企業にとって重要な課題の一つだ。日本においても、新卒、中途と場面を問わず、人材の奪い合いは激化し、採用の難易度は年々高まっている。このような人材獲得競争の激化は、なにも日本だけに起こっている問題ではない。どちらかというと、外部労働市場が発達している海外の方が、競争が激しいといえるかもしれない。それこそ、戦争(”War for Talent”)に見立てられるほどだ。

本コラムは、2016年4月に米国カリフォルニア州で開催された国際学会“Society for Industrial and Organizational Psychology(SIOP:米国産業組織心理学会)”の現地レポートである。日本ではあまり馴染みがないが、心理学が発達している米国では、採用は心理学の文脈で語られることが多い。FacebookやWalmartのような大企業では、採用部門に心理学の博士号を持ったメンバーが数多く所属している。

採用とテクノロジー
学会とはいえ、産業組織心理学はビジネスとの関係性が強いため、実務家の参加者も多い。そのため、実務家による最新動向を紹介するパネル・ディスカッションも複数企画されている。登壇者は、GoogleやFacebook、LinkedIn、IBM、Walmart、United Airline等の米国を代表する大企業の採用・選抜責任者やピープル・アナリストだ。
これらの発表を聞いていると、未来に向けた採用の方向性が見えてくる。それは、採用とテクノロジーの融合だ。参加者の多くが、採用はテクノロジーによって、時間が短縮し、簡素化され、有効性も向上すると述べている。これは、面接官による見立てや、募集広告の打ち方など、属人的な熟練によって担保されることの多かった採用の質が、テクノロジーによって変化することを意味する。

具体例をあげると、ソーシャルメディアは推薦機能の進化によって、既存の履歴書よりも信頼性の高い応募媒体となる可能性を秘めている。しかも、データベースを利用して、採用担当者がいつでもアクセスすることのできる求職者プールを提供することも可能だ。採用担当者は、ネットで夕食のレシピを検索するように、ソーシャルメディアを活用して欲しい人材を探すようになる。そうなると、既存の採用構造に大きな変化が生まれる。採用担当者と求職者は直接接点を持つことが容易となり、スカウト活動のようなピンポイントで行われる採用の重要性が増してくる。

また、ソーシャルメディア上のデータを分析することで、どのような経験を積んだ人材が高い成果を出すことができるのか、精度の高い予測を行うことも可能となる。発表では、入社後のパフォーマンスを予測する要因として、学生時代の経験に注目していると語られた。米国では、学生時代の専攻や成績、学位の高さが、職務内容やポジションに直接影響を及ぼすことが多い。そのため、MBAホルダーが卒業直後から年収1000万円をもらうこともあり得る。しかし、どのような経験が入社後の成果に結びついているのか、科学的に明らかになっているわけではない。経験と入社後のパフォーマンスの関係性を明らかにするために、ソーシャルメディアを活用したデータ分析が注目を集めている。

このように、テクノロジーを活用することで、採用の効率と効果を最大化させようという試みが、米国企業で積極的に行われている。それと同時に、多くの実務家が、採用は難易度が高く、コストの高い活動という問題意識を持っていた。このことは、冒頭に述べた、タレント獲得競争の激化が背景にある。そのため、テクノロジーによって、採用の新たなカタチをつくることが求められている。未来の採用をつくるためのキーワードは ”Simple, Easy, but Effective(単純、簡単、効果的)” だ。近い将来、テクノロジーの革新によって、今とはまったく異なる採用が当たり前となっているかもしれない。

碇 邦生


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