学生記者が日本中から発掘&突撃取材“イケてるゼミ”を探せ!外国語学部で日本語教育!? 言葉と向き合うことで見えてくる世界【Vol.9 名城大学外国語学部藤原ゼミ】

イケてるゼミ第9弾は、外国語学部にあるゼミ。外国語学部では、外国語の学習を通じて、文法、会話、文化などを習得するのが一般的。そんな中で、このゼミはかなりユニークな存在だ。まず、英語教育を専門としている。だから、英語の教員になりたい学生、英語教育に興味のある学生が入る。しかし、3年次に日本語を教える。外国語学部なのに、なぜ日本語教育なのか? 自らも英語教員を目指し、公開講座を探す中でこのゼミを見つけた学生記者が、その謎に迫る。

取材・文 中村 星瑛 (白百合女子大学2年)
取材 松本 結 (椙山女学園大学3年)
中島 莉央 (白百合女子大学3年)

【Seminar Data】
教員:藤原康弘(フジワラ ヤスヒロ)教授/名城大学 外国語学部
研究分野:第二言語習得論、応用言語学
ゼミ開設年:2018年
構成員:3~4年生で各学年8~12人
位置づけ:必修のゼミ
単位数:3~4年生で計8単位
卒業研究:有

名城大学外国語学部藤原ゼミの皆さん名城大学外国語学部藤原ゼミの皆さん
1段目:青木颯汰、中村(学生記者)、中島(学生記者)、豊田(ゼミナール研究会メンバー)、藤原康弘先生、野田萌栞
2段目:内田朱音、畑仲萌絵、渥美菜奈子、竹中愛実莉、福水啓太
3段目;佐藤瑛奈、木村友南、松本佳蓮、細川更、山田鷹大
4段目:野口ゆきは、日下裕太、浅野真実子

【藤原ゼミってどんなゼミ?】

名城大学外国語学部国際英語学科に開設されている藤原ゼミは、外国語学部の中で英語教育について学ぶことができるゼミだ。ゼミでは英語教育に関する専門的知識や技能を身につけ、研究を進める。ゼミ外では、ゼミ旅行を3年次2月頃に実施。また、誕生日会、忘年会、新年会など、行事が学生主導で企画される。そんな藤原ゼミには教育に興味のある学生が多く集まる。ゼミ生の多くが教職課程を履修しており、「将来は教員になりたい」と将来への希望を熱く語った。藤原先生は「教員を目指す人の力になりたい」と話した。教員志望の学生にとって非常に心強い言葉だ。

藤原先生の専門分野は第二言語習得論、応用言語学だ。これらの学問分野に興味を持ったのは効率のよい勉強法を藤原先生自身が見つけたいと思ったからだ。藤原先生は学部生時代に、英語のできる同級生と出会った。同級生の一部は英語圏に行っていたりして、英語を流暢に話していたが、藤原先生は英語圏に一度も行ったことがなく、ほとんど英語を話せなかった。当時は英語のできる同級生を見て、「このままだと仕事ないな」とまで感じたそうだ。そこで、自分はどうすれば同級生に追いつけるのかと考えた。藤原先生が語ったこの経験は、後述する藤原ゼミの日本語交流につながる。

写真:ゼミ旅行の様子・藤原先生の専門分野に関する本

【ベトナムとの日本語交流】

一般的に外国語学部では、外国語の学習を通じて、文法、会話、文化などを習得するが、藤原ゼミでは、3年次に日本語教育で学習支援に携わる。他ゼミにない藤原ゼミ特有の特徴は、まさにこの日本語教育。学生にとっては最も印象深く、学生自身を成長させてくれる活動の一つだ。外国語学部でなぜ日本語交流を実施しているのか。

藤原先生は大学院に進み、日本の小・中学校・高校の外国人児童・生徒に日本語の学習支援を行うボランティアに参加した。学部生時代に言語ができないことの大変さを実感していたため、その経験を活かし、親の都合で日本に来た日本語が話せない外国人児童・生徒の支援をしようと強く思った。

そして時を経て、2022年度から始まった日本語交流。名城大学での日本語学習支援の目的は大きく分けて2つあるそうだ。1つ目は母語の日本語を教えたり、日本語学習者と出会ったりすることで、第二言語の英語を教えることや、英語学習者である自分を相対化することだ。藤原先生によると、日本語教育の経験は英語教育に大きく貢献しているという。

2つ目は外国人との共生について考えること。愛知県は日本語指導が必要な外国人の児童・生徒が全国で最も多く、中でもベトナム出身の生徒が増加している。愛知県には支援が必要な外国人生徒を支援する団体もある。4年生はNPO法人学び舎つばさが運営する日本語学校の生徒と交流を行った。学生が日本語を教えるためにイラストを用いたパワーポイントを作成し、ベトナムの生徒に日本語を教えた。

3年生はベトナム企業のARISTEEL社の社員との交流を行った。ARISTEEL社はベトナムのホーチミンに本社のある会社で、日本の企業と多く仕事をしている。日本語交流をした際には、留学や仕事のために日本を訪れたことのある社員の方と交流をしたそうだ。共生が必要なのは外国人生徒だけではない。ビジネスもグローバルな関わりが増加している。日本は特にアジア諸国との関係が強い。お互いの国の食べ物や生活、最新のトレンドなど様々なトピックについて情報を交換し、主に日本語を通じて交流を行った。ベトナムのトロピカル・フルーツ、マンゴスチンを現地の方に紹介していただいたこともあったそうだ。その際には、日本でそのフルーツを手に入れて試食会をした。

交流を振り返り、細川さんは、「ゆっくりと話すことがいつも相手にとってわかりやすいという訳ではなかった」と話した。また、渥美さんは「ベトナムの人目線で考えないと伝わらないことが多い」と話した。学生が日本語交流で得たものは相手に対する「共感」だ。学生は「言語が話せない」ことがどれほど大変なのかについて考えた。相手に共感することは容易ではない。相手の立場に立つために、まず相手のことを隅々まで知る必要がある。ベトナムの文化について学び、体験することで学生は新たな知識を得ていた。相手の立場に立ってみると、多くの学生が新たな気づきを得ていたことが、取材を通してわかった。山田さんは「ベトナムの文化だけでなくお互いの文化について知れたことがよかった」と話した。日本語交流では、海外の方との共生について考えることを通して、日本人である自分たちが日本語や日本文化などの身近なものほど、思ったより知らないという学生の気づきにつながっている。

写真:ベトナム側の発表を聞いている様ベトナム側の発表を聞いている様

写真: マンゴスチンの試食会の様子マンゴスチンの試食会の様子

【ゼミ内での気づきを個人の成長へ】

「(ゼミを通して)嬉しかったことは、(自分一人では)気づけない学びを感じ取ることができることです」。ゼミ長である青木さんはゼミでの活動を通して嬉しかったこと、という質問に対し、このように答えた。ベトナムの方と交流することで得た日本語交流の「気づき」も同様に学生のそれぞれの成長につながっている。学生に日本語交流で学んだことをどのように活かしているかを伺うと、教員志望の学生からは「生徒目線で考えることが大事だと思った。どこにポイントを置いたら生徒に伝わるか生徒目線で考えていきたい」という答えが返ってきた。教員として働くうえで日本語交流の経験を活かしていきたいと思っているそうだ。また、エアライン業界を志望する学生は「異文化を理解して接客することに活かしたい」と話した。学生によって得た気づきは様々だが、将来に向けて日本語交流で学んだことを活かしたいという学生が多かった。

学生に「気づき」を提供しているのは「日本語交流」に限らない。3年生が量的研究・質的研究を行っているが、その研究プロジェクトをプレゼンテーションで発表する機会が多く設けられていた。そこでは藤原先生からゼミ生へのフィードバックの時間が必ずあり、自分では気づくことのできなかった点に気づくことができたという。また他のゼミ生からフィードバックをもらい、自分の何がいけなかったのか、という反省点に気づくことができる。そして、新たな学びを次に活かし、研究プロジェクトを進めている。

筆者にも自身の気づきが成長につながった経験がある。筆者は10月に実施された名城大学の公開講座(※)に参加した。
(※)【名城大学外国語学部公開講座:ドラマを通じた新たな英語学習法】 
https://www.meijo-u.ac.jp/sp/foreign/manabi/detail/29308.html

ドラマによる英語学習をテーマにワークショップが行われた。藤原先生はコーディネーターとのこと。英語教員を目指す筆者は、生徒たちが楽しく効果的な英語を学べる方法について興味があった。そこで見つけたのがドラマ教育。ドラマは英語学習にも応用できるという点に興味を惹かれた。しかし、日本にはドラマ教師の数が少なく、あまり知られていないのが現状だ。名城大学はドラマ教育を教えることのできる教員が3名も在籍している。主催していたのは教育を専門とするゼミではなかったが、体験してみようと思い、参加に至った。

そこでの活動で印象的だったのは、一つのアクティビティだ。言語が通じない国に入国しようとする移民になりきり、入国審査を受けてみるというものだ。審査官が「どちらの国から来たのですか?」と尋ねるが、私は審査官に言いたいことを伝えることができなかった。私はここで、言語が通じないことのもどかしさを身に染みて実感した。「言語が話せないってこんなにもつらいことなのか・・・」 私が自分の中で感じた気づきは今でも忘れられない。筆者も教員を目指しているが、ドラマ学習は楽しく英語を学ぶのに効果的であると知ることができたのと同時に、言語ができない生徒に対する支援について改めて考えようと決意したきっかけになった。

写真:藤原先生がフィードバックをする様子藤原先生がフィードバックをする様子

【気づきを得る雰囲気作り】

「気づき」が学生にとっての成長の機会を提供する藤原ゼミ。その「気づき」はどのように生まれるのだろうか。

筆者の体験に戻るが、「気づき」はまず好奇心から始まる。自分が興味のある分野だからこそ、知りたいと思い、自ら調べることを通して、もともとあった知識とのギャップに気づく。好奇心は知識となって、自信に変わる。取材で学生の皆さんに話を伺ったが、全員が自信を持って話す様子がとても印象的であった。取材をした筆者の方がたじろいでしまったほどだ。学生一人ひとりが好奇心を持って常に学びに貪欲であり続けることが「気づき」を生み出している要因の一つだといえるだろう。

さらに、印象的だったのは取材時に行われていたプレゼンの発表中の他の学生の様子である。学生は発表者の意見に耳を傾け、時折うなずく様子が見えた。学生の皆さんにゼミの雰囲気について伺った。ゼミ長である青木さんは「やっぱり、ゼミ内で積極的に意見交換ができる場があり、なんでも言い合える環境がいいですね」と語った。学生同士の交流はゼミ内の活動のみにとどまらない。現在、3年生はゼミで量的研究・質的研究を行っている。学生はアンケート・プレゼン資料作成までに1週間ほどしかなく、準備に十分な時間が取れなかった。その中でも、SNSを利用してやり取りを行い、活発な意見交換を行った。どんな意見でも言い合え、受け入れてくれる環境。その中で学生同士が積極的に意見交換を行っていることが気づきを生み出すもう一つの要因だといえる。そして何よりその環境を提供し、ゼミの学生に心強い言葉をかけ続ける藤原先生の存在が最も大きな要因といえるのではないだろうか。

【これからの藤原ゼミ】

名城大学外国語学部では学科を超えて「英語学習」に新しい選択肢を与え、公開講座などの学ぶ場を提供している。筆者は名城大学の公開講座に参加しようと決め、調べている中で藤原ゼミを見つけた。なぜ「外国語学部」で「日本語教育」をしているのか、確かめずにはいられなかった。もともと興味のあったものから新しくさらに強い興味が生まれた。教育はこういった横断的な側面を持つ。教育について学ぶゼミであれば、ゼミ内だけで英語教育について考えるのではなく、外部の企業や団体と連携して考えれば新たな知見も増える。藤原ゼミでは、今後もゼミ内外で密に連携して英語教育、ひいては言語教育の可能性を広げていくだろう。

【Student’s Eye】
■藤原先生には公開講座の時にはじめてお話しさせていただきました。突然押しかけ、取材のお願いをしてしまいましたが、快く受け入れてくださったこと、誠に感謝しております。また、取材では学生の皆様の温かさに触れ、ゼミの雰囲気を感じることができました。教員を目指す私自身、今回取材させていただいた経験は忘れられないものになりました。(中村)

■「なんでも言い合える環境」があるからこそ、学生同士の意見交換が活発になり、新たな気づきを得ることにつながっているのではないかと感じました。また、ゼミの活動で得た新たな気づきが、学生それぞれの成長や、今後の学びを広げることにつながっていると思いました。インタビューでは、藤原先生と学生の皆様の温かい雰囲気が伝わってきて、素敵なゼミだなと感じました。(松本)