学生記者が日本中から発掘&突撃取材“イケてるゼミ”を探せ!創造的で遊び心のある「未来のリーダー」を育てる【Vol.5 立教大学 経営学部 舘野ゼミ】

イケてるゼミ第5弾は、リーダーシップの専門家が率いるゼミ。
世に数々のリーダーシップ論が存在しても、VUCAの時代に大きな不安を抱える若者たちの心をしっかり受け止められているものは少ない。今回取材した舘野ゼミでは、迷える若者が自分自身を前向きに受け入れ「プレイフル」に学ぶ体験を重ねる中でリーダーシップを身につけている。取材した学生記者も目を開かされ「生き方が変わった!」と大きな影響を受けて目を輝かせているのだから、間違いないだろう。
そんなゼミの魅力を限られた文字数にまとめるのはひと苦労で、紆余曲折を経てようやく記事が完成! じっくりお読みいただきたい。

取材・文 篠﨑 海音(青山学院大学4年)
取材 栗原 未夢(産業能率大学4年)
山本 瑠奈(文京学院大学3年)
正司 豪(早稲田大学大学院2年)

Seminar Data
・ゼミ概要:「世の中に存在する矛盾に満ちた(パラドキシカルな)問題に対して、遊び心(プレイフル)を武器に学び続けることでリーダーシップを発揮し、創造的(クリエイティブ)なアイデアを実現する」をミッションに、ワークショップ活動や個人研究を進めていく。
・教員:舘野泰一(たての よしかず)立教大学 経営学部 准教授
 専門分野:リーダーシップ教育
・開設年:2020年
・構成員:2〜4年 それぞれ18名
・位置づけ:選択制
・単位数:各学期2単位の合計12単位
・卒業研究:卒業論文の提出は選択制

取材に応じてくださった舘野ゼミの皆さんと一緒に記念撮影取材に応じてくださった舘野ゼミの皆さんと一緒に記念撮影 ※学年は取材時のもの
上段左から:李彩那さん(4年生)、舘野泰一准教授、阿野苑さん(3年生)、山本綾音さん(3年生)、岩崎理子さん(2年生)、鵜飼美里さん(2年生)、上野由佳氏(白百合女子大学准教授)
下段左から:山本瑠奈(学生記者)、篠﨑海音(学生記者)、正司豪(学生記者)

舘野ゼミはなぜ“遊ぶ”のか?

「“真面目で優等生”といわれる学生ほど、将来に対する不安や他者からの期待を最優先にしてしまう」と舘野先生は語る。そして振り回された結果、「ガス欠」のような状態に陥り、思うように活動できなくなった学生を、これまで何度も見てきたそうだ。こうした学生たちを救うためにも、舘野ゼミでは制作などの表現活動を通じて、各々が目の前の活動に“没頭”することで、「遊びの感覚」を取り戻すワークを取り入れている。「心のガス欠」状態から、「ワクワクと心踊るような遊び心(プレイフル)」に置き換える“前代未聞のエネルギー改革”に挑戦する、それが舘野ゼミだ。
人間にもエネルギー革命がやってきた!クリーンエネルギー“プレイフル”とは何か?~舘野先生インタビューを通して~

「プレイフルを武器に学び続けることでそれぞれのリーダーシップを発揮し、世の中に存在する矛盾に満ちた問題に対して、クリエイティブなアイデアで問題解決を実現していく」というのが、このゼミの目標である。この目標には、「自分の『好き』のパワーを信じ、それらを制作というカタチで表現し、世の中をプレイフルに巻き込んでいってほしい」という、舘野先生のゼミに対する熱い想いが込められている。

時に真剣に、時に談笑を交えながら、和気あいあいと進むインタビュー当日の様子時に真剣に、時に談笑を交えながら、和気あいあいと進むインタビュー当日の様子

ちゃんと学ぶ、けど楽しい

では、実際にどのような活動を行っているのか。先で紹介したゼミの目標を達成するため、舘野ゼミでは「ゼミでの学び」を活かしたワークショップや、自らが抱える矛盾に自分なりの解決策を提示する個人研究が行われている。「ゼミでの学び」では、読書や講義以上に、ゼミ生それぞれが用意するプレゼン内の「体験ワーク」に力が入れられている。

本は読んで終わり、講義は受けて終わりにするのではなく、その書籍や講義のテーマにちなんだ「体験ワーク」を用意し、ゼミ全体で内容を体現しながら楽しく学べるように工夫する。経営学や心理学、リーダーシップ教育学について幅広く、プレイフルに学ぶことができる仕様になっており、「本を読むのは大変だけど楽しく、いつのまにか学ぶことができている現象の連続」と、ゼミ生からの評価も高い。このように「学び×遊び」「真面目にインプット、楽しくアウトプット」の実現こそが、舘野ゼミの活動の本質である。ここにも、「遊ぶように真剣になるからこそ、深く学べる」という、舘野先生のこだわりが秘められているのだ。

自分と向き合うワークショップ


自身の弱みである「着火待ち」にゃんこを一度、隣のゼミ生に預け、演じてもらっている様子自身の弱みである「着火待ち」にゃんこを一度、隣のゼミ生に預け、演じてもらっている様子
体験ワークの具体的な例として、「にゃんコーチング・ワークショップ」を紹介する。自身の弱みを「悪いにゃんこ」として表現し、一度他のゼミ生に自身のにゃんこを預け演じてもらうことで、にゃんこの特徴を探り、共存していく方法を考えるというものだ。

弱みを「にゃんこ」として外在化することで客観視ができ、「自分の弱みは、悪さをしているだけではなく、自分を助けてくれることもある」ということを理解する。「弱みも自身の特徴の一つ」として認めることで、自身の弱みを無理に克服するのではなく、弱みと共に成長していく「セルフ・コンパッション(ありのままの自分を受け入れ、親しい友人に対するのと同じくらい自分自身を思いやる考え方の獲得)」を狙いとしている。本来セルフ・コンパッションは、「自分自身と対話すること」や「自分に対して手紙を書くこと」が有効な手段であると言われているが、自己内対話にハードルを感じる学生も多いだろう。「できないからやらない」のではなく、「どうしたらみんなが『やりたい』と思えるような方法で実現できるか?」を工夫し考えることができる、「舘野ゼミらしさ」が非常に表れているワークといえる。

このワークショップから自分も他人も批評せず、自分自身を純粋に理解して考えることで、正しい自己認識・自己理解につなげることが可能になる。特に舘野ゼミでは、ゼミ生それぞれが自分に合った、効果的なリーダーシップを発揮できるようになるためにも、この「自己認識能力」を高める活動が重要視されているのだ。
仮装もセルフ・コンパッションも全力で‼自分のモヤモヤポイントもプラスに変えていこう!~第6回ゼミの振り返りレポート~

仮装しながらゼミを行うことで、授業とハロウィンイベントを両立させ、全力で楽しみながら学ぶ舘野ゼミ仮装しながらゼミを行うことで、授業とハロウィンイベントを両立させ、全力で楽しみながら学ぶ舘野ゼミ

「自己理解↔︎他者理解」の好循環

先で紹介した体験ワークの他にも、「自己認識能力」を高める活動の一環として「多様なメディアを駆使したアウトプット」の機会が数多く設けられている。より良いリーダーシップの発揮に加え、クリエイティブかつ実現可能なアイデアを生み出せるようになるために、舘野ゼミではゼミ生の個性を開花させる機会をふんだんに用意する。長い時間をかけての自己理解、そして他者理解を行うことも、舘野ゼミならではの特徴であるといえる。

ゼミ生それぞれが持つリーダーシップを、自身の好きな色やビーズといった装飾品を組み合わせて作るアロマキャンドルで表現したり、スクラップブックやプロトタイプの制作といった工作ワークで、それぞれが思いのままに楽しく自身の個性を表現したりと、表現の手段は多岐にわたる。ダンスといった身体表現を行う授業も珍しくない。また、授業の振り返りではNotionというアプリを活用し、文字だけでなく写真やイラストも組み合わせて自身の発見や考えをまとめることで、唯一無二のゼミ生の個性で溢れたページができあがる。これらの活動では無理に個性を出そうとしなくても、ゼミ生が活動そのものを楽しみ、没頭して取り組むことによって自然と「その人らしさ」が溢れ出るものだと舘野先生は語る。

舘野ゼミでの表現活動は、文字や言葉の言語表現だけに留まらない。身体表現やアートでの表現活動など、その都度表現の仕方や扱う媒体を変化させることによって、ゼミ生は自身に対する発見だけではなく、他のゼミ生の意外な一面や魅力にも気づくことができる。一見完璧で、素の自分を見せたがらないような学生でも、苦手としているものに対して一生懸命に取り組む様子から周囲と打ち解け、自己開示が苦にならなくなったこともあったそうだ。このように、他者から見た自分を知ることで、より正確な「自己認識」につなげることが可能になる。様々な面から自分にも他者にもアプローチしていくことで、確かな自己理解・他者理解につながっていくと舘野先生は確信している。

アロマキャンドル作りで、自身のリーダーシップを表現するゼミ生の様子アロマキャンドル作りで、自身のリーダーシップを表現するゼミ生の様子

舘野ゼミという名の「触発コミュニティ」

これまで紹介した活動を振り返ると、「なんとなく楽しそうなことをやっているキラキラ系のゼミなのだろう」といった印象を持たれた方もいるかもしれない。しかし、舘野ゼミはただ楽しそうなことを「楽しい」と思える範囲でしかやらないようなぬるい集団ではない。自分の「好き」を究めることができる環境が備わっているからこそ、そしてみんなが本気で取り組んでいるからこそ、大変でつらいと感じるときも存在する。一見キラキラしているように見えるゼミ生たちも悩み、試行錯誤を繰り返しながら成長を続けている。「楽しい」よりもっと先、もっと深いところまで、飽くなき探求と挑戦を続ける実践的な“触発コミュニティ”、これこそが舘野ゼミの本質であるといえる。
加えて舘野ゼミには、それぞれがお互いの「好き」を尊重し合い、自分の好きなことに愛を持って没頭することができる環境が備わっている。その結果、先輩・後輩の垣根を越えて、縦でも横でも「触発」の化学反応が起こり、「好奇心旺盛なアイデアの源泉」ができあがる。

その最たる例として、2023年1月に行われた「た展」を紹介する。コロナ禍に見舞われる中で誕生した舘野ゼミにとって、1期生から3期生までの3代合同で行われた初の展示会であり、3年間の集大成ともいえるものだ。ゼミ生一人ひとりが個人研究をテーマに展示やワークショップを開き、グループとしての統一した世界観も魅せている。その様子はまさしく、「それぞれの『好き』と『個性』が炸裂し織りなす化学反応」といえ、参加しているこちらも巨大なプレイフルの渦に巻き込まれた。またただ楽しませるだけではなく、世の中に対する率直な疑問や課題に一石を投じ、その都度考えさせられるような学びの要素も溢れる、「『遊び×学び』の体験型アトラクション」であったといえる。
まだ開設から3年しか経っていないゼミであるが、今後もたくさんの人を巻き込み、触発し合いながら大きく成長していくコミュニティになるに違いないと筆者は考えている。

た展気になる「た展」の様子は、舘野ゼミ公式インスタグラムからチェック!
た展2023当日!後日振り返りでゼミへの愛が溢れました~ラスト振り返り投稿~

誰よりも「プレイフルマインド」を体現する、舘野先生の存在

これまで、「舘野ゼミはなぜ“遊ぶ”のか?」という問いに対する答えと、舘野ゼミの主な活動内容とその意義について解説してきた。自分を、そして他者を深く知ることで、「創造的で遊び心のある『未来のリーダー』の育成」に力を入れる舘野ゼミ。「急がば回れ」の精神や、「遊びという名の余白」をどこよりも大切にしているゼミだからこそ、失敗を恐れず、心理的安全性を保ったまま学生がのびのびと成長できる環境が成り立っている。
 そして何より、舘野先生の存在そのものが、舘野ゼミにとって欠かせない要素となっていると筆者は取材を通じて感じてきた。ここでいくつか、そう感じた例を紹介していく。

1つ目は、舘野先生がゼミ生から何かアイデアを持ちかけられたとき、迷うことなく「いいじゃん」と答えることだ。決して否定はせず、答えも言わない。顔色をうかがわなくていい安心感に、ゼミ生たちは度々救われているという。「本当に『自分はこれがいい』と思うものを、自分を止めずにぶつけることができてすごくいい環境だ」と、あるゼミ生が語ってくれた。一度学生の意見をしっかりと受け止めたうえでアドバイスや、学生のさらなる意見を促してくれる舘野先生。「やりたいと思うことをやれるように、全力で頭を使ってほしい」という先生の熱い願いが込められている。

2つ目は、常に楽しむ姿勢を忘れない、舘野先生の普段の様子である。大学の授業だけではなく、書籍の執筆など様々な仕事を受け持つ多忙な中でも、それを言い訳に何かを犠牲にすることは決してない。欲張りに賢く、そして楽しんで、「両立できる方法はないか」を日々全力で試行している様子がSNSからもうかがえる。「AかBか」ではなく、「AもBも」実現させ、または「AもBも実現させるウルトラC案」を考える。舘野先生自身が逆境を逆手に取り、無理だと思ってしまうような物事に対して、ワクワクと挑み続ける「プレイフルマインド」を体現している。
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3つ目は、「た展」の際に、筆者が以前取材で「舘野ゼミの活動の本質に近い」と勧めた作品の内容と絡めた紹介ボードを、舘野先生自身が実際に作り展示してくれたことだ。ゼミ生でもない他大学の学生からも純粋に触発を受け、同じまたはそれ以上の熱量で向き合ってくれる大学の先生というのは、日本全国どの大学を探してもなかなか見つからないのではないだろうか。舘野先生は、ゼミにおける自身の立ち位置を「指導者」ではなく、「一緒に学ぶ学習者」であり、「ゼミ生と共に成長していく一人の先輩的なメンバー」と表現している。その言葉通り、普段の舘野先生の様子はゼミ生たちの中に溶け込んでしまうほど若々しく、ゼミ生たちと共に活動を楽しんでいる印象が強い。学びに対して誠実で、初心を忘れることのない謙虚な姿勢が、舘野先生の魅力である。
学生を尊重し、学生が持つ可能性に誰よりも期待し、ワクワクしているからこそ、学生と同じ目線で向き合う姿勢を忘れない。舘野先生の生き様そのものが、学生からも慕われ愛されている所以であるといえる。

話は逸れるが、筆者は自身が通う大学で教育学について学んでいる。幼児教育の授業を受けていた際、「子は親が言ったことをやるのではなく、親がすることを真似する」と先生がこぼした言葉が印象的で今でも覚えている。学生やある程度大人になれば言葉に感銘を受ける機会は増えてくるが、その際も「誰が言っている言葉であるか」が重要になる場合が多い。言葉には常に行動が伴わなければいけないと、わかっていても実際にできる人は少ないと考える。舘野先生は自身がゼミのロールモデルとなり、ゼミ生や自身が受け持つ学生にその手本を示すことで、学生間だけではなく先生とも触発し合い、切磋琢磨し合える最高の環境ができあがっていると筆者は考える。

舘野ゼミが筆者に与えた影響

初めて参加させてもらった舘野ゼミのイベントは夏のワークショップだった。そのときに配られた冊子の内容が衝撃的で、私はすっかり舘野ゼミの虜になっていった。参加可能なイベントにはできる限り参加させてもらい、様々な活動の中でも一貫して伝わってくる舘野ゼミの価値観のようなものを発見するたびにワクワクと心が踊った。いつしか私にとって、舘野ゼミがお守りで、安全地帯で、自分の軸がブレてしまったときに立ち返りたいと思える「心の拠り所」のような存在になっていた。今後生きていくうえでのヒントを、舘野ゼミから教えてもらえたように感じるほどだったのだ。私がここまで舘野ゼミの活動に心酔したのは、私自身が舘野先生の危惧する学生像そのものであったからだと考える。

約半年にわたり取材をさせてもらうことができたが、舘野ゼミが私に与えてくれた影響は計り知れない。そして、まだまだ舘野ゼミについて「もっと知りたい」と思う自分がいるのも事実だ。こんなに夢中になれる、かけがえのない存在を大学生活で見つけられたことを誇りに思っている。いまだに物事を「AかBか」で考え、悩んでしまう極端な自分のためにも、もっと「プレイフルマインド」を吸収していきたい。そして許されるならば、今後もこのご縁を大事にし、より一層深く関わっていきたいと考えている。

【Student’s Eyes】
■度々よそ者がお邪魔している状況であったにもかかわらず、いつも温かく迎えてくれた舘野ゼミ。年上でも変わらず話しかけてくれたり、プレゼン大会の審査員として招いてくれたり…。貴重な経験をさせてもらえたことが本当に嬉しかったです。感謝してもしきれません。今後もぜひ仲良くしてください!(篠﨑)
■自分が良くない状況に陥っていることを「悪いにゃんこがついている」と表現しているのが印象的でした。負の感情を可愛らしい言葉で優しく包み込んであげるだけで、気持ちが落ち着くと思いました。 好きになれる自分に成長していける環境が舘野ゼミにはあると感じました。(栗原)
■舘野ゼミでの取材で出てきた一つのキーワードとして、「みんないい意味で他人に興味がない」だからこそ自分らしくいられるし気にしすぎないでいられる、心地よい場所であると感じました。そういった学生が集まる環境だからしづらい自己開示も自然とできるようになり、人間として成長できる場だと感じました。(山本)
■卒業研究について研究する大学院生として、舘野ゼミでのインタビューは衝撃的でした。まさに研究・探究を、たとえばゼミ内での問題を「プレイフル」に解決することで経験していると感じました。また、リーダーシップ教育では逆説的に「個性」を大切するのがキーになることも、実感しました。(正司)