「#大学生の日常」に埋め込まれた学習~「#大学生の日常調査」インタビュー分析④~ケースレポート《ゼミ・学習コミュニティ編》

乾喜一郎
リクルート進学総研 主任研究員(社会人領域)

大学生の本分は、学ぶこと。「大学生の日常」の中心にあるのは、学ぶ機会、学ぶ時間だ。そしてそれは大学の正課のカリキュラムに限らない。サークルと名がつくものの中にも学びの場はあるし、ボランティアやインターンシップなど実社会と関わる活動も、実質的には学びの機会である。「#大学生の日常調査」でインタビューに応じてくれた20名の中にも、関わりの深かったコミュニティに学び系のコミュニティを挙げる人は多かった(~「#大学生の日常調査」インタビュー分析①~図表4)。
今回のケースレポートでは、そういう人にスポットを当てる。専門ゼミや学習サークル、学外の学習機会など、学習に関するコミュニティを大学生活において最も関わりが深かったコミュニティ(以下トップコミュニティ)として挙げた7名の人々について分析していく。
7名とも、現在はそれぞれのやり方で主体的に仕事に取り組んでおり、「自己信頼」「変化志向・好奇心」「当事者意識」「達成欲求」から構成されると定義づけられる「環境適応性」は比較的高めではないかと思われた(図表①の縦軸「M」~「H」に分布)。その上で、学生時代トップコミュニティにおいてどのように関わっていたかに注目してみると、大きく3つのカテゴリに分類することができる。ひとつずつ見ていこう。

図表1
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カテゴリ1 自らの意思でコミュニティに飛び込んだ3人

カテゴリ1で紹介するdさん、fさん、kさんは、それぞれ自らの意思でそのコミュニティに飛び込み、その後はそこでの活動に強くコミットをしている。
dさんがトップミュニティに掲げたのは、先輩から「なんか面白い人がいるから会ってみない?」と勧められて出会ったNPO団体。第一志望の地域活性が学べる大学に入学できたものの普通の座学に合わず、単位は取るものの「機械的にこなしていた」日々だったため、ここで学ばせてもらいたい、と強く感じたのだという。NPOとして立ち上がった直後でもありインターンを受け入れてはいなかったそうだが、「学ばせてください、なんでもするので!」と強引に飛び込んだ。「そこから3年間、週6状態で空いている時間はフルコミットしたと思います。授業を午前中に固めて、午後に顔を出せるようにしていたり」。
fさんの場合、入学した大学は第一志望ではなかった。授業には真剣に取り組み、また教職課程科目の履修を始めたり、大学で紹介された震災ボランティアに参加するなど活発に活動しながらも、心からのめり込めるものはなかったという。そんな中で、単に「楽しそう」というだけで友人と参加した学外のリーダー養成プログラムが大きな出会いとなった。海外で子ども達向けにワークショップのプログラムを作り、実施して振り返るという研修。「最初はいち研修受講者だったのですが、気がついたら運営側になっていました」。
kさんが選んだのは、マーケティングをちゃんと勉強しようという学内のサークルだった。「自分で探しました。少しでも社会人の方とちゃんと接点があって、どんなふうにマーケティングしているのかが分かるところはないか、と」。「価値観の合う人と一緒にいた方が絶対自分は成長できると思っていたので、そういうサークルが見つかったのは嬉しかった」。知識を勉強するだけではなく、年に1~2回ビジネスコンテストを企画し、自分たち自身も参加する。kさんはこのサークルと、やはり真剣に学び合う雰囲気があったという専門ゼミ(セカンドコミュニティとして挙げられている)とを行き来し、勉強に打ち込む学生生活を送った。

熱量を持って活動する大人たち異質な他者との出会い

このコミュニティにおいて、3人は「異質な他者」との出会いを果たす。それぞれが、明確なビジョンを持ち、高い熱量を持って活動に取り組む存在だったようだ。
dさんが出会ったのは飛び込んだ法人の「社長」。「本当にすごくて、いろんな、本当にいろいろ話したいことがあるんですけど」と勢い込んで話すdさん。地域活性に取り組むというのはどういうことか、その姿勢に感銘をうけ、何を考え、どのように行動すべきなのか、実際に地域に向かう際には「カバン持ち」的にそばにいて貪欲に吸収していった。「強く憧れました。こんなに問題意識を持ってその実現に向かって動いている人になりたい、というロールモデルが見つかったんです」。
fさんにはその後、学外で出会った先生が自分の大学に招かれるという幸運があった。「2年生くらいから大学が授業の改革に取り組むようになって、教員と近い距離でいろいろな活動が始まっていました。そこに●●先生が来られたのです。先生が主導されるリーダー養成のための新しい授業が開設されて、最初からアシスタントをやってほしいとお声掛け頂いて、1期生というか、最初からスタッフ側で活動することになりました」。その先生の影響もあり「どんどん、やりたいってことに対して投資をしてくれたり、場の提供をしてくれる大学になっていった感じがします。モチベーション自体は、その波に乗せられた感じでしょうか」
kさんがまず影響を受けたのは、強い思いを持ってそのサークルを立ち上げた先輩だった。「先輩方には、サークルに対する責任感だったり、存続させるためには何が大切なのかを見せて頂きました」。加えて、実際にマーケティングに携わっている社会人が顧問としてサークルの活動を支援してくれていた。「その顧問の方がかなりな熱を割いて、時間も割いて力を貸してくださっていました」。

就業観の中心にある明確な社会視点

3人は現在、どのように仕事に取り組んでいるのだろうか。
dさんは尊敬する「社長」が育ったという意中の企業に入社した。先輩を見て、自分はまだまだと思いながらも、業務以外の提案活動にも取り組み、楽しい毎日を送っているという。日々の仕事を通じ、将来取り組みたい仕事のため実力を蓄えているのだろう。働くとはどのようなことかを聞くと「誰かが困っていること、(不足、不満など)不を一つずつなくしていくこと」と明確な答えが返ってきた。
fさんにとって働くことは「世の中に笑顔を増やして幸せな瞬間を増やしたい、そのための力添え」だという。fさんは最初IT業界に入ったが、自分の人生の軸を置いている分野での課題解決に取り組むため、ちょうどまさに新しい会社に転職を果たしたところだった。最初の企業では、自分のレベルが上がるポジションを見つけ、上司と交渉して異動を果たすなど、得意を伸ばしたり苦手なことを克服するため真剣に働いてきたという。これからの仕事は「本当にやりたかったところど真ん中」だと笑う。
kさんはいま、研修を企画し実現していく仕事につき、人事領域のプロを目指している。「自分の仕事で人が少しでも楽になれるような仕事に就きたいと考えました。そのためには、自分で考えて判断し、行動しないとダメ。大変ですが、やりたい仕事をやらせて頂いています」。
3人とも、自らを高められる場所を選んでチャレンジを重ねているが、その働く目的として、「誰かのため」「世の中のため」という軸を置いていることが印象的だ。

図表2 カテゴリ1 自らの意思で学習コミュニティに飛び込んだ3人
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カテゴリ2居心地のよい場所で充実した生活を送った3人

2つめのカテゴリの3人が挙げたのは、ともに「専門ゼミ」の場だった。そのうち、nさんとaさんはゼミ長を担っている。
nさんが入ったのは第一志望の専門ゼミではなかったが「2次募集で拾ってもらった身」だということもあり、置かれた環境を活かそうとコミットを高めた。「自分にとってはものすごく居心地のいい居場所」という表現からは、彼がここでベースギフトの獲得に成功していたことがはっきりと伝わる。「楽しいし、やりがいがあるっていうのをみんなにも同じくらいのモチベーションで臨んでもらえたらと思いました。ゼミ長として、みんなのために行動できれば」。「基本的にゼミ生が教授に提案して決めるというプロセス。先生はあまり関与されない。そうやって皆で考えてやっていくこと自体が、ゼミのテーマである組織論の実践でもあるような形なんです」。学生の自主性に任されるということは、モチベーションの差、取り組み方の違いが大きく影響する。もう辞めたい、というメンバーを巻き込むためにどうすればいいか。nさんは活動の企画や学習の実践に積極的に取り組んだが、ゼミ長として運営に取り組むのは大変だったという。
同様にゼミ長を担ったaさんも、同じ苦労をした。法学部だが座学だけではなく、実際に足を使って現場に赴くこともある。行政の会議でプレゼンテーションを行う活動もあった。「先生は干渉することはなく、自分で決めたことをやらせてくれました」。せっかくゼミに入るだからしっかりやりたい、と考えたaさん。授業は週一コマながら、休みの日などにも自主的に集まることも多く、トータルでは長い時間を費やしたという。しかし、「先生はあまり何もされないので、自分がやらざるを得なかったのですが、色々な人がいる団体を引っ張るのは本当に難しかった。いい経験になりました」。
専門ゼミの活動が大学生活の中で78割を占めているとしたnさん、aさんと異なり、eさんは他の活動もあり、その比重は30%にとどまるものの、ゼミの雰囲気も先生のことも非常に好きだったという。「とても穏やかなおじいちゃん先生だったんですが、その先生自体がすごく好きで。とにかく丁寧に教えてくださるです。いつも分かるまで時間割いてくださり、誰でも発言しやすい、和やかな雰囲気でした。いい仲間にも出会えた。穏やかな日々、でしたね。ただ、自分自身はあんまり変わっていない気がします」。
3人の話からは、どのゼミも決して受動的な活動だけではなく、主体的な取り組みが求められるゼミだったことがうかがわれた。しかし、そこにはカテゴリ1で見られたような「熱量を持った異質な他者」は登場せず、また、活動の目標自体のストレッチ性も、3人のもともとの能力と比較して大きくはなかったと想定される。居心地のよい場所としてのベース性は十分に得られたものの、コミュニティの運営という学習内容とは直接関わらない部分以外に、クエスト性に関わる証言が得られなかったのはそのためではないかと考えられる。

ベース性に支えられた主体的な就業観の形成

3人は現在、どのような状況で働いているだろうか。
nさんは大手企業での勤務経験ののち、実家が営む老舗の企業に入職した。最初の会社での経験を経たことで、「小さな会社ですが、すごく改善点というか伸びしろがたくさんある」ことに気づいたという。「会社を今よりももっと大きくしたいっていうのはありますし、もっと従業員の皆さんに楽しくやりがいを持って、働きがいを持ってもらえるような会社にしたい」。それに、「老舗って地域に生かしてもらってるって思うんで、地域のために何か自分が働けるような人間になりたい」。働くこととは何かという問いに答えた「自分の生き方そのもの」「どういうふうになりたいかを実現するための手段」という言葉としっくりと響き合う。
aさんは転職経験ののち、金融業界に。業務の達成度に応じてインセンティブがあるが「コンスタントに毎月もらえている状況です」。ゆくゆくはリーダーとして意思決定のほうにも携わっていくことができれば面白そうと将来を描いている。「スキルや価値を売れていると感じます」。働くことは「自分の価値をお金に換えること」だという。
eさんは「人と関わる仕事がしたい」ということを軸に就職活動を行い、希望通りの就職を果たしたものの、不運なことに職場の状況が非常に悪く離職。転職先の教育産業では伸び伸びと働ける状況を実現できたが、今般のコロナ禍で事業の状況が悪化、離職を余儀なくされた。現在はアルバイトではあるものの、「人に関わっていけるような仕事にまた挑戦したい」と考える。不運な状況に見舞われながらも、「働くとは楽しむことだ」とその前向きな姿勢は崩れてはいない。

図表3 カテゴリ2 居心地のよい場所で充実した生活を送った3人
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カテゴリ3 達成感と承認が得られる場所で頑張った1人

残るjさんの場合は、参加したコミュニティは学内の授業であり、もともとは自分から選んで目的意識をもって飛び込んだ場所ではない。しかしそこでの経験はカテゴリ2の3名とは大きく異なっている。
jさんが選んだコミュニティは、2年生を主な対象とした少人数ゼミナール。抽選に落ちて仕方なく選択したということだが、jさんは「その授業が好き過ぎて」3年からもずっと単位に関係なく受講を続けたという。「とにかく、先生がすごい。もう一目ぼれというか、好きになってしまったんです」。非常勤講師で、いちど社会人になったのち改めて大学院に通って研究者となった方だった。jさんにとってこの先生は、カテゴリ1の3人が出会った熱量を持った異質な他者と同様の役割を果たしたのだろう。
授業のテーマは国際政治。「課題が厳しかったんです。毎週毎週結構難しい英文読まなきゃいけなくて」最終的には履修者の7割近くが脱落していった。しかし、課題にしっかり取り組んだでディスカッションに参加すると、先生はしっかりと褒めてくれる。尊敬する先生に認めてもらえることは、中学や高校で辛い挫折があったというjさんにとっては、大きな経験だったのではないかと思われる。「いつも課題を提出する授業だったのですが、ある時授業の中で私が作った図を、私のものだと公表して使ってくれたことがありました。何かに真剣に取り組んでみて得られるものがあることを感じるようになったし、できるようになったと実感できました」。
jさんはここで、ベースギフトとともに、クエストギフトを手に入れている。「飲みながらでもちょっと国際政治やニュースについて語っちゃおうぜ」という思いを共有した4人の友人とは、今でも連絡を取り合っている。
ただ、jさんがその後進んだ専門ゼミにおいてはこのゼミほどのギフトは得られなかった(だからこそjさんはこの授業の選択を続けることになった)。
jさんは就活では志望する業界への就職を果たし、現在は希望した部門に配属、規模の大きな仕事も任されるようになり手応えを感じている。
「今の職場にも先生と似た雰囲気の方がいらっしゃるんですよ」

図表4 カテゴリ3 達成感と承認が得られる場所で頑張った1人
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自己発見・自己成長を促す学習コミュニティのあり方のひとつ

普段筆者は社会人の学習を中心にリサーチをしている。社会人の場合、学習のコミュニティは、自らの意思で職場から離れ、あえて飛び込む非日常の場であるが、大学生にとっては学習の場が日常である。カテゴリ2で取り上げた3人のように、専門ゼミを「居心地のいい場所」とすることができるかどうか、ベース性=ありのままでいることができ、困ったときに頼ることができる安全基地としての性質を手に入れるかどうかは、大学生活を充実したものとできるかどうかにとって大きな役割を果たすと考えられる。
しかし、学習のコミュニティから手に入るのはもちろん、それだけではない。
カテゴリ1の3人に変容・成長をもたらしたのは、熱量を持って自らのテーマに取り組む教員や社会人、先輩という「異質な他者」と、彼・彼女からもたらされたストレッチの機会である。自らを高める環境を自ら探し出し、飛び込んでストレッチ性のある課題に取り組むことが自分の成長につながる…そうした経験を重ねることで、主体的に自らのキャリアを開いていく高い環境適応性を手に入れている。
今回は、大学生活を通じて大きな自己発見・自己変容を得たに、ハードワークを伴ういわゆる「ガチゼミ」と呼ばれる専門ゼミの出身者はいなかったが、そうした人はカテゴリ1の3人と同様の経験をしていると思われる。
高い熱量を持って自らのテーマに取り組む「異質な他者」との出会いと、その活動に巻き込まれたことをきっかけにしてもたらされるストレッチの機会。自主性に任せるだけでは得られない大きな自己発見・自己成長をもたらす学習コミュニティのあり方のひとつが、この7人の事例を通じて見えてきたのではないだろうか。

次回は、一つのコミュニティに傾注するのではなく、複数のコミュニティに所属し、バランスを取りながら大学生活を送った人たちに着目する。