ジョブ・アサインメントモデル(2019年バージョン)ジョブ・アサインメントモデルのすべて

本コラムでは、最新の調査結果を基に作成したジョブ・アサインメントモデル(2019年版)について解説する。ジョブ・アサインメントモデルとは、チームの業績を最大化しつつ部下の成長も実現するためにミドルマネジャーが身につけるべき行動を体系化したもので、直下にメンバークラスの部下を持つ、課長クラスのラインマネジャー(以下、マネジャー)のために作成したものである。

チームとして業績を達成するためには、チームのメンバーそれぞれが自分に割り当てられた職務を、目的通りに遂行する必要がある。したがって、マネジャーのメインの仕事とは、チーム全体のミッションを職務に分解し、それらのどれを誰に任せるかを決定すること、そして、部下がその職務を遂行するのをサポートすること、となる。通常、ジョブ・アサインメントとは「職務の割り当て」を意味するが、我々は単なる「職務の割り当て」のみならず、このプロセス全体をジョブ・アサインメントと位置づけた。

ここで大切なのは、部下が最も成長するのは、職務遂行を通じてであるという事実だ。だからこそ、マネジャーによるジョブ・アサインメントは、業績達成のみを確実にすればいいというものではなく、そのプロセスにおいて人材育成の機能も果たさねばならないのである。マネジャーは「業績達成」と「人材育成」を別々に実施するのではなく、両者を統合して、職務を通じて部下を成長させられるようにならなくてはならない。どの部下にどの職務を任せるかをデザインすることは、ジョブ・アサインメントの中核となる行動だが、ここには、業績を達成できるかという視点だけでなく、部下一人ひとりがその職務を通じてどのように成長するか、という視点も込める必要がある。

図表1 ジョブ・アサインメントモデル01_01.jpg

我々は、ジョブ・アサインメントを「組織として達成すべき目標を踏まえ、部下に行わせる職務を具体化したうえで割り当て、その職務を達成するまで支援すること」と、職務の割り当ての前後のプロセスも含めた広い範囲の概念として定義した。定義に基づいて体系化したジョブ・アサインメントモデルが図表1である。図表1のようにジョブ・アサインメントモデルは4つのステージからなり、それぞれのステージは具体的な8つの行動が含まれている。本モデルは2017年に発表したジョブ・アサインメントモデルを発展させたモデルである。具体的には、新たな仮説項目を加えて2000人超の現役のマネジャーに定量調査[1]を実施した。次いで、統計分析によって各項目とチーム成果の関係を確認して、複数の項目を取捨選択したものである。次からはジョブ・アサインメントモデルの各ステージについて説明する。
なお、2017年版のジョブ・アサインメントモデルの詳細については下記を参照されたい。
*参照URL:https://www.works-i.com/project/jobassign/all.html

ステージ1 目標設定

図表1のように、ジョブ・アサインメントモデルは「目標設定」「職務分担」「達成支援」「仕上検証」の4つのステージからなる。なお、ジョブ・アサインメントモデルにおいては、行動の主体はマネジャーである。

ジョブ・アサインメントモデルの最初のステージは「目標設定」だ。目標設定とは、「当該期に自分の組織が達成すべき目標を設計し、その目標を達成するための職務を設計すること」と定義している。このステージでマネジャーが実践すべき具体的な8つの行動は図表2にまとめたとおりである。

このステージのゴールは、当該期が終わったときに自身の管轄する組織が何を成し遂げていて、どんな状態になっているかを言語化し、目標の形に落とし込むことである。さらに、目標を達成するために、本当に必要となる職務を考え、それぞれの職務の具体的な手順とゴールまでを想定し終えることだ。8つの具体的な行動によって、当該期に自分の組織が達成すべき目標と、達成のために何をやるべきかを明らかにすることが可能になる。

図表2 目標設定ステージの具体的な行動01_02.jpg

ステージ2 職務分担

ジョブ・アサインメントモデルの第2のステージは「職務分担」である。職務分担とは、「最適な人選を行い、職務を委任する」ことである。第1の目標設定のステージで設計した職務のいくつかを束ねて、一定のまとまりごとにどの部下に任せるかを計画する。次に、一人ひとりの部下に、どのような職務を任せるのかを伝える。確実に職務を任せられたという意識を持たせるのがこのステージのゴールであり、ジョブ・アサインメントモデルの中核ともいえる。このステージにおける重要な行動は図表3にまとめたとおりである。

前述したとおり、ジョブ・アサインメントモデルでは、チームの業績を最大化するだけでなく部下の成長も実現することを目的にしている。数ある職務をどの部下に任せるべきかを検討することに加えて、一人ひとりの部下が、任せられた職務に対してやりがいを感じ、その職務の遂行を通じて成長実感を持つことができるか、という職務を通じた部下の成長についても検討しておく必要がある。職務を任される部下が、職務の目的や責任について腹落ちしており、高いモチベーションとともに職務に取りかかれる状態をつくりあげることが重要である。

図表3 職務分担ステージの具体的な行動01_03.jpg

ステージ3 達成支援

ジョブ・アサインメントモデルの第3のステージが「達成支援」である。達成支援とは、「職務の進捗を管理して、目標達成を支援する」ことである。いかにうまく部下に職務を割り当てても、それでジョブ・アサインメントが完了するわけではない。部下を信頼して職務の遂行を任せつつも、部下それぞれの職務の進捗状況を把握し、必要に応じて適切なサポートを行う。このステージのゴールは、そのように部下を支援して、想定する目標に確実に到達できる状況をつくることだ。このステージで必要な行動は図表4にまとめたとおりである。

このステージでは、部下が高い意欲で職務に取り組んでおり、それぞれの職務が計画通りに進捗されている状態を保つことがポイントである。マネジャーが介入することなく部下によって職務が完遂され、部下が成長することが理想的な状態なのだが、ビジネスにおいてアクシデントはつきものである。部下の状態や、職務の進捗がかんばしくない状態になった場合は、マネジャーによる介入や支援によって本来あるべき状態への回復を急ぐ必要がある。

図表4 達成支援ステージの具体的な行動01_04.jpg

ステージ4 仕上検証

ジョブ・アサインメントモデルの最終ステージが「仕上検証」である。仕上検証とは、「職務の完了を確認し、検証を行う」ことである。ジョブ・アサインメントモデルでは、部下が職務を完遂したのを確認し、成果を適切に評価し、当該期の部下やマネジャー自身の行動を顧みることまでを実施して初めて、ジョブ・アサインメントの1サイクルが完結すると考える。図表5にこのステージにおける重要な行動をまとめた。

ここでのゴールは、部下に、委任した職務を目標としている水準を達成するレベルで完遂させ、その職務のアウトプットの価値を最大化するとともに、完了した職務を適正に評価して、次の期の改善へとつなげていくことである。

図表5 仕上検証ステージの具体的な行動01_05.jpg

以上が、「目標設定」「職務分担」「達成支援」「仕上検証」という、ジョブ・アサインメントモデルの各ステージの解説である。ジョブ・アサインメントモデルが、部下を預かり現場を支えるマネジャーが、より高い成果を上げるチームをつくりあげるための一助になれば幸いである。