データが語る「集まる意味」新卒・中途・他部署からの異動者、異なる対応が必要 ―コロナ禍における、オンボーディング施策―

コロナ禍により、適応のプロセスが変わる

コロナ禍によるテレワークの普及に伴い、集まり方が変化した。この際、現場で課題となっているのは、新しい社員の受け入れ方、また新しい社員の職場への適応である。コロナ禍以前であれば、新しい社員が入ってくると、まず懇親会(という名の飲み会)を開催し、団らんし、対面の会議し、そのなかでの発言具合を見て、場合によっては1対1の面談をして・・・、といったプロセスを経ることになり、組織は新しい社員を受容していく。またその際には社員の雰囲気や、実際に会ったときの表情など感覚的なものも重要な情報となることが多い。廊下ですれ違ったときの他愛のない立ち話や、すきま時間の雑談も人となりを知るよい機会だ。しかし、ソーシャルディスタンスのため、プロセス変更や中止を余儀なくされた。入社して1年以上経つが、まだ対面では数回しか会っていない、という同僚を持つ人もいるのではないか。特に新卒の新入社員においては、入社直後にまず実施されるOJTによって、会社だけでなく社会の一員となっていくが、集まり方が変化したことで、変わった部分も多い。

そこで本コラムでは、コロナ禍以前と以後での新しい社員の適応の違い、というテーマを考察してみよう。なお本コラムのなかでは、新しい社員とは新卒採用の新入社員(新卒社員)、中途社員、他部署からの異動者の3つの場合がある。

新卒社員の適応がより困難に

まずコロナ禍以前と以後で、新しい社員が職場に適応するのにかかる時間を比較してみよう(図表1)。図を見ればわかるように、新卒社員(34.9%)、中途社員(27.8%)、他部署からの異動者(25.7%)、すべての場合において、コロナ禍以後は適応時間が以前よりも長くなっていることがわかる。やはりコロナ禍により、何かしらの理由で適応が困難になっているのだろう。たとえば、テレワークが増えて職場に行く回数が減少したため、社員との接触機会も減少したことや、職場の雰囲気がつかめない、などがあるだろう。また長くなった割合は新卒社員、中途社員、他部署からの異動者の順番で多い。新卒社員はそもそも社会人経験がないわけで、社会人経験がある中途社員よりも適応が難しいのは直感的だ。また、他企業からの中途社員のほうが、その企業文化もある程度知っている他部署からの異動者よりも、適応に時間がかかるのも当然といえよう。適応には個人の社会人経験全般や、各企業での固有の経験が重要なわけだ。

図表1 コロナ前と比較したときの適応にかかる時間
コロナ前と比較したときの適応にかかる時間注1:職場にテレワーク制度がある個人にサンプルを限定。
注2:「コロナ流行後に職場に加わったメンバーが、職場に適応するまでにかかる時間は、コロナ前と比べてどうですか。」という設問を使用。また「判断できない」という回答を除外して集計している。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

集まり方は経営課題といえる

では適応できないと、どういう弊害があるのだろうか? それをまとめたのが図表2だ。調査票にある「今の働き方を続けていくと、中長期的に職場ではどのようなことが起こるのか」という質問に対して回答してもらっている。弊害は明らかだろう。まず、「職場の一体感やチームワークが弱くなる」と回答した人は適応に長くなった人が50.7%であるのに対して、変わらない・短くなった人は26.1%だ。続いて、「新卒・中途の新入社員の早期離職が増える」についても、長くなった人が26.5%であるのに対して、変わらない・短くなった人は11.9%だ。ここまでは「適応」という項目からも想定内だろう。新しい社員の適応がうまくいかないと、組織の一体感やチームワークが失われ、そのような組織は離職者が増えていく。しかし、弊害はさらに続く。「仕事のノウハウが継承されない」が、長くなった人が41.8%であるのに対して、変わらない・短くなった人は27.0%だ。「新しい取り組みや新規事業が生まれなくなる」についても、長くなった人が18.4%であるのに対して、変わらない・短くなった人は10.2%だ。つまり、組織としての一体感がないと、最終的には新しい発想が出しにくくなる、また発展することができず、組織が縮小していく。新しい社員を上手に受け入れることは、ダイバーシティの確保という観点からも重要だ。

図表2 適応が遅れることの中長期的な弊害(適応時間別)
適応が遅れることの中長期的な弊害(適応時間別)注:「コロナ流行後に職場に加わったメンバーが、職場に適応するまでにかかる時間は、コロナ前と比べてどうですか」という設問について、回答が「長くなった」とそれ以外(「変わらない」「短くなった」)で分けて集計。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

仕事とは直接関係のない人とのコミュニケーションが大切

最後に、うまく適応できている組織の特徴を見てみよう。コロナ禍以降でも、新しい社員が適応するまでの時間がこれまでと変わらず、またはむしろ短くなっている組織はどういう組織だろうか? 集まる場の価値という視点から見てみよう。分析結果は図表3だ。結果が統計的に有意であるものから見てみよう 。

まずわかることは、新卒、中途、異なる部署からの人で、有意である項目が異なる、つまり対応策(必要となる機会)が異なることである。前述のとおり、新卒と中途と他部署からくる人によって、バックグラウンドがまったく異なることが原因だ。次に、それぞれの対応策を具体的に見ていこう(※1)。

新卒社員については「仕事では直接接点のない人とのつながりが持てる機会がある」ときに、適応が変わらずできる確率が11.1%ポイント上昇する。新卒社員はまだ社会人自体に慣れていないため、仕事とは直接関係のないいろいろな社会人と話す必要があるというわけだ。いろいろな人と会うなかで、組織から認識され、受容されていくということだ。仕事で直接接点のある人としか関わらないと、接点のない人はいつまで絶っても認識すらできない可能性がある。テレワークの浸透など対面で話す機会が少なくなっている昨今では、業務外の人と情報交換する場は減少傾向にあるが、意図的に設けてみることも一つの案だろう。一方で、「自分に必要な情報が思いがけずもたらされる場がある」場合には、同確率が13.0%ポイント減少する。この解釈は難しいが、新卒社員の場合は、必要な情報を系統立てて教育する必要があるのかもしれない。必要な情報が思いがけず入ってくるという事実は、教育訓練の体制が充実していないなどの可能性を示唆し、そのような場合はやはり適応に時間がかかりそうだ。また、新入社員の場合は非定型の情報が多いと戸惑いが生まれるといったことも考えられる。

次に中途社員については、「自分の仕事に役に立つ情報が得られる会議がある」場合に10.5%ポイント上昇する。中途社員は社会人としての仕事の進め方については新卒よりも慣れている。ただ、その企業特有の必要な情報などはあり、それらを持っているか否かで仕事に影響が出たという経験を持つ人も少なくないだろう。中途社員がこれまでにやってきた仕事を周囲が知ったうえで、役立つような情報が提供できる場を意図的に設けることの大切さを示唆している。

最後に他部署からの異動者については、「仕事から得た喜びをメンバーや同僚と共有する機会がある」場合に、適応のしやすさが8.5%ポイント上昇する。他部署に在籍していたということで、その会社全体の文化や雰囲気はすでに知っている場合が多い。同じ部署で働くにあたっては、仕事の意味や目的(パーパス)、仕事への考え方をともに共有する機会などが重要になりそうだ。
特に注目したいのは「仕事では直接接点のない人とのつながりが持てる機会がある」だ。これは新卒社員のみ有意な結果であったが、中途社員や他部署からの異動者についても、プラスの方向で、大きいインパクトで効いている。「適応」という一点に絞れば、組織内のさまざまな人とつながりを持つことが重要、ということは合点がいく。しかし、内に閉じた環境のなかの固定化されたメンバーとの関係だけではしんどい場合も多い。組織内に別の関係性があるということが、組織が個人を受容するうえで必要、という結果は必然的ともいえる。


図表3 コロナ禍以後も、新しい社員の適応が悪化しなかった職場の特徴
コロナ禍以後も、新しい社員の適応が悪化しなかった職場の特徴注1:( )内は標準誤差。*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
注2:数値は回帰係数。職場の各特徴について、社員の適応が悪化しなかったことに与えた影響。
注3:職場にテレワーク制度がある個人にサンプルを限定。また従業員規模などの情報をコントロールしている。
注4:「コロナ流行後に職場に加わったメンバーが、職場に適応するまでにかかる時間は、コロナ前と比べてどうですか。」という設問を使用。「変わらない」または「短くなった」と回答した場合を1とする被説明変数を使用。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

新しい社員の属性にあわせた戦略を

組織には新陳代謝が必要で、常に新しい人が入り、また出ていく。その際に社員が上手に組織に適応していくことは経営課題であり、対象にあわせた集まり方が必要であることがわかった。

今後の新しい社員の受け入れ方として、意識すべきことをまとめよう。テレワーク環境では、これまでより適応に時間がかかることは大前提だ。そのうえで、新卒社員か、中途社員か他部署からの異動者かで対応の方法は異なる。新人の場合は、1on1やチームの定例会を行うだけでなく、隣の部署の人をメンターとして配置するなど、仕事とは直接関係のない人との接点を増やす。また、中途社員の場合は彼らの仕事を周囲の人が知る機会を設け、必要な情報を積極的に周囲から渡していく。他部署からの異動者は会社のことをよくわかっていると思いがちだが、仕事に対する基本的なスタンスなどまで、組織に共有されているかはわからない。チームメンバーそれぞれが仕事のパーパスを語る機会を提供してはどうだろうか。

(※1)最後の計量分析はあくまで統計データによる分析結果であり、平均的な傾向であることには留意が必要だ。たとえば同じ中途社員でも、性格やこれまでの細かいキャリアはさらに人それぞれである。組織への適応は個人差が大きく、最終的には個々人を細かく見ることは依然として大切である。

文責:茂木 洋之