データが語る「集まる意味」個人の自律性と、意図的な場の設定がカギ

重要なのは成果

コロナ禍によりソーシャル・ディスタンスが重視され、テレワークが急速に普及した。内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、テレワーク実施率は第1回緊急事態宣言下の2020年5月時点で27.7%だった。最新の調査結果では2021年9~10月時点で32.2%となっており、テレワークは着実に定着しつつある。しかし、テレワークの普及以上に重要なことは、多くの人が、働くうえでのオフィスの必要性、集まる意味について考え直したことではないだろうか。

企業(特に人事)の側から集まる意味を考えるときに、一番重要なことは、やはり集まり方によって成果がいかに変化するかということだろう。たとえどのような集まり方であれ、組織として成果が出るのであれば、それは許容できるといえる。一方で、いかに環境を整えたりしても成果が出ないのであれば、人事としては看過することができない。結局はコロナ禍以前のような、従業員を一律に出社させるという状況に戻りかねない。そこで本コラムでは、集まることと成果の関係について考えてみたい。

職場の成果は個人の成果よりも多様である

第1回のコラムでは、テレワークは個人の成果の向上には適しているが、一体感や仲間意識、新しい取り組みや新規事業、部署や企業の壁を越えた協業、企業文化や組織風土の継承などには、何の打ち手もないと成果が下がる可能性が指摘されている。ここでは、成果や生産性という観点からより詳細に見てみる(※1)。

まずコロナ禍以降にテレワーク制度が導入され、実際にテレワークをしている個人について、コロナ前後で成果がどう変化したかを見てみよう。結果は図表1だ。個人ではコロナ前後で成果が変化していない人は68.7%となった。一方で、成果が下がった人は17.4%(下がった人が2.3%、やや下がった人が15.1%)となっている。同様に上がった人は13.9%(上がった人が1.4%、やや上がった人が12.5%)となっている。約8割の人がテレワークに対応できている様子がうかがえる。次に職場の成果について見てみよう。コロナ禍以降、成果が変わっていない職場が52.2%となっている。しかし成果が下がった職場は29.1%(下がったが3.2%、やや下がったが25.9%)。成果が上がった職場が18.7%(上がったが2.9%、やや上がったが15.8%)となっている。

すぐに気づくことは、成果に変化なし、という割合が個人の場合は約7割であるのに対して、職場というやや大きな視点で見ると、5割程度になる。そして下がった人や上がった人の割合が大きくなる。つまり職場レベルで見ると、成果についての分散が大きいのだ。実際に点数化してみると、個人の成果の標準偏差は0.6点であるのに対して、職場のそれは0.9点と大きい(※2)。個人の集合体が職場であり、個人の成果を合計すれば職場の成果となりそうだが、そう単純ではなさそうである。つまり個人の成果が上がっても、職場の成果となると必ずしも上がるわけではないのである。

図表1 コロナ禍以降の個人と職場の成果コロナ禍以降の個人と職場の成果注:コロナ禍以降にテレワークを導入し、かつテレワークしている個人にサンプルを限定。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

「集まること」の合成の誤謬

個人の成果と組織の成果の関係を考えるにあたって、合成の誤謬と呼ばれる概念を当てはめてみよう。
たとえば、サッカーの試合を観戦することを考える。観客は座って観戦している。ここで試合がよく見えないあなたは、一人だけ立って観戦した。すると、その試合がよく見える。しかし、だからといってすべての人が立って観戦すると、結局状況は変わらず、よく見えない。「立って観戦すると試合がよく見える」という命題は一人の場合には成立するが、多くの人が同時にすると成立しない。このようなミクロレベルでは成立するが、マクロレベルでは成立しないことを合成の誤謬という。

集まるということについても、同様のことが当てはまることが示唆される。自宅でテレワークをすると、個人レベルでは快適で成果が出るかもしれないが、職場レベルで見ると、成果が下がってしまう可能性すらあるのだ。つまり個人と職場の生産性や成果については別々に考える必要がありそうだ。そこで次に、コロナ禍下で成果が上がっている人はどのような人や組織なのかを、個人の視点および職場の視点で考えてみよう。

個人の自律性が重要

まず個人の成果の変化について見てみる。コロナ禍以降にテレワークが導入され、かつ適応できている人はどういう人なのだろうか? 計量分析の結果は図表2だ。まず、「テレワークの環境が整っている」(+6.9pt)ことが重要であることがわかる。これは、物理的な環境や家族状況など、ともに問題ないことを意味する。そのような状況ではやはり成果が出やすい。一方で、Web会議システムやビジネスチャットツールに習熟していることは有意ではないし、インパクトも小さい(+1.1pt)。デジタルツールなどは人に教えてもらうことで補うことができるので、それよりも環境の充実の方が重要だということがわかる。テレワークの制度については、「自分だけで自由に決められる」と比較して、ほかの項目について、有意差はない。

次に、個人の仕事の段階について見ると、仕事の段階(レベル)が上がるほど、成果を上げられていることがわかる。「仕事の基本ややり方を習得しつつある段階」と比較して、「常に期待以上の成果を上げ続けている段階」「自分ならではの知識や技術・やり方が高く評価されている段階」「その道をきわめ、第一人者として社会的に広く認められている段階」の場合それぞれ、成果を上げられる確率が11.3pt10.4pt11.5pt高くなっている。仕事が熟達してくると、一人で仕事をできる場合が多く、細かい指導を受ける必要がない。また仕事を自律的に進められる場合も増える。よって、一人でも成果が出しやすいといえそうだ。

仕事の性質について見てみよう。「上司の指示がなくても、私の判断で仕事を進めることができる」や「仕事は何をどこまでやればよくできたのかという評価の基準が明確である」場合に個人の成果がそれぞれ4.2pt3.6ptと有意に上がりやすくなっている。これらの結果は直感的だろう。やはり自律的に仕事を進められる場合はテレワークなど一人で仕事をするほうが、成果が上げられやすい。また評価基準が明確だと、何をするべきかや、優先順位が明確化しやすくなると思われ、個人の成果が上がりやすいわけだ。

図表2 コロナ禍以降、自分の成果が上がった人の特徴コロナ禍以降、自分の成果が上がった人の特徴注1:( )内は標準誤差。*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
注2:コロナ禍以降にテレワークを導入し、かつテレワークしている個人にサンプルを限定。また性別や年齢などをコントロールしている。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

職場の成果を上げるには

続いて、職場での成果について見てみよう。コロナ禍以降にテレワークを導入し、かつ職場での成果が上昇している職場とはどういう職場だろうか? 結果は図表3だ。「ほかの人には真似できない私のスキルや能力は評価され、役立てられている」職場では、そうではない場合と比較して5.8%pt有意に成果が出ている。また「人々が結果を求めてお互いに競争している」職場であることも重要そうだ(+4.5%pt)。特に後者の解釈は難しいが、前者と合わせて考えると、やはりお互いが自律しており、個々人の技術がリスペクトされるような職場では、急にテレワークなどに移行しても、職場全体での成果が出やすいといえそうだ。また、見逃すことができないのが「組織の成果に対する責任を共同で負っている」(+6.2%pt)だ。個人の成果ばかりを追求しないような、他者の結果についても責任を負うような職場で成果が出やすいことが示唆される。

次にコミュニケーションの在り方について見てみよう。重要なのは「業務効率を上げるために、会議やイベントを積極的にオンラインにしている」「オンライン上で雑談や情報交換ができる場を、意図的に設定している」ことが、それぞれ4.9%pt、5.9%pt、と重要であることがわかる。目的を持ってオンライン化し、オンライン上でも意図的に雑談の場を設けることができれば、職場での成果にもプラスの影響を与えることがわかる。

また「時には、長めの時間をかけて職場のメンバー全員とじっくり対話や議論する場を設けている」職場でも4.6%pt職場の成果が上がりやすい。つまり、漫然とオンラインにするだけだと、人事としては不安が残るだろうが、補完的にコミュニケーションをとる場を設定できれば、職場の成果は上がるわけだ。しかし、「職場のメンバー同士が親睦を深めるための飲み会やイベントを行う」ことは職場の成果を下げるという結果も出ている。有意ではなくインパクトも小さいものの、データで見る限り飲み会はあまり意味をなしていないようだ。

図表3 コロナ禍以降、職場の成果が上がった、職場の特徴
コロナ禍以降、職場の成果が上がった、職場の特徴注1:( )内は標準誤差。*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
注2:コロナ禍以降にテレワークを導入し、かつテレワークしている個人にサンプルを限定。また性別や年齢などをコントロールしている。
出所:リクルートワークス研究所(2021)「職場における集まる意味の調査」

個人の成果と職場の成果、両立は可能

本コラムでは、コロナ後にテレワークを導入した場合に、成果が上がっている個人と職場にどういう特徴があるのか、というテーマについて、データから考察した。まず個人の成果と職場の成果向上が必ずしも一致しないことがわかった。特に、個人の成果が上がっていると回答した人のうち、21.8%の人が職場の成果が下がったと回答している(図表は割愛)。
従業員はもちろん個人の成果をもちろん追求するだろう。しかし組織は職場全体の成果も念頭に入れねばならない。その際には、オンライン上で雑談や情報交換ができる場を、意図的に設定するなどして、補ってみるといいのではないか。従業員と組織の成果の両立が可能となるような方法をこれからも模索する必要があるだろう。

(※1)個人の成果については、コロナ流行の前後で、自分自身の仕事の成果の変化を調査した設問を使用した。また、職場の成果については、コロナ流行の前後で、職場の仕事の効率性や生産性の変化を調査した設問を使用した。
(※2)成果に関する項目について、「減った/下がった」1点、「やや減った/下がった」2点、「変わらない」3点、「やや増えた/上がった」4点、「増えた/上がった」5点とした場合。

文責:茂木 洋之