いま問われている、「集まる意味」をどう考えるかプロローグ~私たちはなぜ集まらなければならないのか

2021年8月末時点、アップルもグーグルもオフィス勤務の再開を検討している。

アップルは社員に週3日の出社を求めており、その理由は「人が直接会って行うコラボレーションは我々の文化と未来にとって不可欠であると信じている」からだという。グーグルは、「社員をグーグル以外の環境に置かないことで愛社精神を育み、会社のクリエイティビティや情報を守ること」をその理由としている。ゴールドマン・サックスのソロモンCEOは、「私たちのような革新的で協調的な徒弟制度を重視する企業では、リモート勤務は理想的ではない」と述べた。

コロナ禍でリモートワークが進んだ一方で、職場に集まり続ける企業は多い。海外でもコロナの感染状況をウォッチしながら、上記のように完全なリモートワークから撤退する方針を打ち出す大手企業も出てきている。しかし、「職場での対面」か「リモート」か。各社ともその議論から抜け出せていないようにも見える。

CASE
2020年4月、緊急事態宣言が発出。顧客状況を把握する間もなく商品のキャンセルが続く。私たちはお客様から必要とされていないのかもしれないと気持ちは沈む一方。でも、顧客が困っていることは間違いない。何かできることはないのだろうかと考えた小町氏は、同じような問題意識を抱える仲間2人に声をかけ、部署を超えた検討を開始。通常業務の合間に何度も何度もブレストを重ね、自ら海外事例や国内マーケットの調査を行い、リアルな顧客の声を集め、「退職者向けのHRサービス」という新規事業プランを練って、経営に提案。そして、新たな顧客向けサービスが1年という短期間で形になった。

この事例は、弊社の新規事業創出にまつわる1事例だが、この3人のブレストや検討、調査の7割は「リモート」で行われたものだ。直接会わないと新しいものは生み出せないというのは幻想なのかもしれない。

リアルな場で「集まらなければできない仕事」は何か?

そこで、本プロジェクトでは、企業で正社員として働く22歳から49歳までの3200名に対して「集まらなければできないと思う業務」を自由記述形式で尋ねてみた。その結果、 1.現場業務(物理的に現場で対象物に働きかける必要がある業務)図中赤囲み 2.現物確認を要する業務 図中赤囲み 3.対人サービス業務 図中青囲み4.コミュニケーションを要する業務図中オレンジ囲み 5.紙を必要とする業務図中黄色囲み 6.個人情報を扱う業務図中緑囲み の6つの業務が集まらないとできない業務として挙げられた。

■集まらなければできない6つの仕事
集まらなければできない6つの仕事出所:リクルートワークス研究所「新就業移行形態調査」2021年3月
共起グラフ:線で結ばれている単語間は関係性が強い。円が大きいものは単語の出現数が多い。

しかし、これら6つの業務はすべて「リアルな場で集まらないとできないこと」だろうか。社内コミュニケーションの多くはオンラインに切り替わり、私たちはすでにオンライン上で「集まる」ことを始めている。たとえば、メーカーでは海外の生産工場と国内の本社は、リアルタイムで「集まる」ことができる。電子署名による承認や個人情報の管理などはテクノロジーで代替、解決できるものもあり、現在は、物理的に集まらなければできない仕事はかなり限定されている。調査対象者がこれらを「集まらないとできない」業務だと感じたのは、所属企業の社内システムやルールによるものか、もしくは、「集まる=リアルにその場に集合する」ことだと思っているからではないだろうか。

「集まる」とは何なのか

「集まる」に近い言葉としては「会う」がある。ここでは「会う」との違いから「集まる」を定義してみよう。
「集まる」は多くのもの(3人以上)が1つの場所に寄ってくることで、「会う」は対面する、互いに顔を向かい合わせるなど、2名以上の人数が含まれる。「集まる」も「会う」も同じ時間、同じ場で行われる行動である。
また、目的との関係では、「集まる」は、集結や集会など、目的を伴う語が多く、一方「会う」はあらかじめ設定されていた会合だけでなく、偶発的な出会いもある。

■「集まる」と「会う」の違い
「集まる」と「会う」の違い
実際の職場で考えてみると、リアルな職場での「集まる」の場合には、座席近くに集まって話し込むといった目的のない偶発的な「集まる」も考えられる。同じタイミングで、たまたま同じ場所にいたから始まる、「集まる」が存在している。さらに、「会う」で示された2名すなわち「1対1の場面」については、近年、1on1や対話の技法として広くその手法が知られるようになってきている。しかし、「3人以上で意味のある集まりをどう実現するか」ということについては、その知見は不足している。

そこで、本プロジェクトでは、「人が集まる」を次のように定義し、効果的な場のつくり方についての検討を進めることとした。

「3人以上のメンバーが、同じ時間、同じ場において、コミュニケーションの発生が期待されること」 リモート・対面を問わず、目的の有無も問わない。

このように定義することで、対面か、非対面かを超えて「集まる意味」についての議論がより活発になるのではないか、と考えている。

「集まる意味」を検討するための仮説

今後、私たちは仕事における「集まる意味」に関するフレームワークを構築し、調査データから実態把握と仮説の検証を行う予定である。

「集まる意味」のフレームワークでは、以下の観点を重視している。

・どのような空間を使うのか:職場か、会議室か、会議室以外の場か、オンライン空間か
・どのような仕立てなのか:フォーマルな伝達か、対話か、オンラインのチャットか、雑談か、ストーリーの共有なのか
・目的はどのようなものか:共有か、伝達か、チームビルディングか、理念の浸透か、それともあえて目的なく集まる場なのか
・想定される成果は何か:短期の成果か、長期の成果か、個人業績か、チーム業績か、エンゲージメントを高めることか

上記に加え、集まり方の設計には、個人のコミュニケーション特性や、組織のコンディションなども考慮する必要があるだろう。

本プロジェクトが目指しているのは、「集まること」を設計するための方法論を提案することである。具体的には、「なぜ〇〇の方法で集まらなくてはならないのか?」と尋ねるメンバーに対して、集まる意味を論理的に説明できるようになることを目指したいと考えている。