機械化・自動化で変わる働き方 ―医療・介護編用語解説【医療編】

AI医療

医療分野へのAI(人工知能)の応用は、画像診断、カルテ解析、レセプト自動作成など様々な領域で進んでおり、なかでも画像診断は早くからAIが活用されている。X線写真やMRI画像をAIが読み取り、過去の大量のデータとの比較によって異常部分を検知、病気の見逃し防止や早期発見、医師の負荷軽減などに寄与する。AIがカルテの記載内容や患者との問診結果を解析することにより疾患を特定し、医師の診療を支援する技術の開発も進む。また、医療機関が保険者に提出する診療報酬明細書の作成もAIが自動で行うことで、医療事務スタッフの負担を大幅に軽減する。AIによる自動問診システムは、病院に行かなくても患者が好きな場所からスマートフォンで問診を受けることができ、待ち時間を短縮できる。デジタル問診票の場合、患者の回答により次の質問内容を変更でき、紙の問診票よりも詳しい質問が可能である。

手術支援ロボット

手術支援ロボットは、外科手術において患者の負担を減らし、手術を精密かつ正確に実行することで医師を補助するために開発されたロボットである。心臓手術、胃腸手術、泌尿器手術、脳神経外科手術など多くの手術実績がある。胸腔ないし腹腔の内視鏡下手術用に開発され、アームの先端には、人間の手首に相当する関節があって自由に曲げることができ、複雑な手術にも対応できる。遠隔医療やAIなどと組み合わせて運用するシステムの研究・開発も進んでいる。インテュイティブサージカル社の「ダビンチサージカルシステム」が代表的だが、主要特許の多くが2019年に期限切れとなったため、各国での開発が加速している。国内ではメディカロイドが日本国産初の実用手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」を製品化した。

遠隔診断・遠隔治療

遠隔診療は情報通信機器で、測定した生体情報(体温、血圧、脈拍、尿糖値等)や患者の映像・音声などの情報を遠隔地の医師へネットワークを通じて送信、医師がオンラインで適切な診療を行うものである。通院のための交通インフラが整っていなかったり、高齢化・過疎のため受診が困難だったりする患者に対して適切な医療を提供する。このほか、都市部の専門医が遠隔地の医師に対して、画像を見ながら患者の症例検討などの指導を行う「遠隔診療」、X線写真やMRI画像など、放射線科で使用される画像を通信で伝送し、遠隔地の専門医が診断を行う「遠隔画像診断」、体組織の画像や顕微鏡の映像を送受信するなどし、遠隔地の医師が、特に手術中にリアルタイムに専門医の判断をあおぐ「遠隔病理診断」などがある。

自律搬送ロボット

医療機関におけるカルテ・伝票・郵便物・検体・検査結果・医療機器・薬剤などの搬送業務を看護師などに替わって担うのが自律搬送ロボットである。目的地まで人や障害物などを避けて自動で走行し、液体なども安心して運ぶことができる。セキュリティシステムとの連動により、エレベーターの乗降や自動ドアの通過も可能で、カメラ画像を搭載することで院内の巡回業務を兼ねる機能も果たすことができる。看護師や看護助手などが搬送業務を担う職場では、職員の負担を軽減できる。製品ではパナソニックの「HOSPI」や三菱電機の「多用途搬送サービスロボットシステム」などがある。

入退院説明ロボット

入院する患者やその家族に対する入退院時や検査時の病院内の案内や必要な持ち物、検査に関する説明、退院時のアンケート取得など、主に看護師が担っている多くの定型的な業務を代替するのが入退院説明ロボットである。ロボットは患者のもとまで自律移動し、モニターに動画を表示して説明を行うほか、病室や検査室までの誘導なども行う。iPresence社の「temi」は神奈川県の湘南鎌倉総合病院で試験導入され、高い評価を得ている。日立製作所の「EMIEW3(エミュースリー)」は同じく入院時の注意事項などを患者に説明する。

ストレッチャー搬送ロボット

入院患者を移動するストレッチャーでの患者の搬送は職員にとって身体的負荷が高い業務の1つである。搬送アシストロボットはストレッチャーに移動装置を装着することで搬送をアシストする。片手で扱えるコントローラーを使って容易に操作でき、重いストレッチャーを人力で押して動かす必要がなくなる。

清掃ロボット

病院の廊下などの清掃を行うロボット。障害物や人に注意しながら自走式で病院内を移動することができる。決められたルートの移動は得意だが、フロアの段差や仕様の異なる扉など不規則な条件があると、そこを避ける限られたルートしか移動できないといった課題も残る。神奈川県の湘南鎌倉総合病院での清掃ロボットの実験では、事前にマッピングしたルートを走行し、ゴミの吸引・拭き掃除を自律的に行った。椅子や机の下、壁の際などは人の手による清掃が必要だが、総床面積の6割程度の清掃をロボットが代替した。院内を回る清掃作業員の省人化につながるため、感染リスクの低減や委託コストの削減も期待できる。

調剤ロボット

薬の秤量、配分、分割、分包といった作業を人に替わって行うのが調剤ロボットである。導入により薬剤師の作業負担が減るだけでなく、薬局の待ち時間の短縮や調剤過誤の防止を実現し、患者のQOL向上も期待できる。調剤の現場で用いられるロボットは「散薬調剤ロボット」「自動搬入・払出装置」など様々な種類があり、人間が操作する必要があるもの、自律的に動作するAIが組み込まれたものなどがある。例えば、「散薬調剤ロボット」は、処方箋のデータに基づいて散薬秤量業務を自動的に行う。医薬品カセットの充填や監査は難しいものの、手間のかかる計量混合業務を短縮できるため、需要が高い。調剤の自動化を進めるメディカルユアーズのロボット薬局では、錠剤やカプセルが収まる銀色のシート(PTPシート)から処方箋に記された数を数えて必要な分だけ患者に渡す「計数調剤」を、ロボットと人との協働により実現した。

EHR(医療情報連携基盤)

Electronic Health Recordの略で、患者の既往歴、医用画像を含む各種検査結果、医師の所見と診断を記録する診療録、処方箋(オーダー情報)などを電子的に記録・管理する仕組みのこと。電子的に記録することで管理が容易になり、見落とし防止や業務フロー改善により、医療安全や業務効率化に寄与する。全国には約270の地域医療情報連携ネットワーク(EHR)が存在しているが、運用コストが大きいなどの理由により活用が十分に進んでいない。総務省では、このような課題を解決するために、クラウド活用型の双方向かつ低コストなEHRを整備する事業に補助を実施している。メディカルユアーズの梅田薬局は、EHRにより電子カルテと処方情報を薬局のレセプトコンピュータで取得する仕組みで、ロボットが医薬品を取り揃える。

自動薬剤受取機

オンライン服薬指導の導入により、患者は薬局に行くことなく処方薬を受け取れるようになったが、宅配料金を負担する必要が生じた。このため、一部の薬局では周辺などに無人のロッカーを設置し、非接触での受け渡しを始めている。大阪府などで調剤薬局を運営するメディカルユアーズは、薬局周辺に自動薬剤受取機を設置し、患者は自身のスマートフォンに届いたQRコードを使って好きな時間に処方薬を受け取ることができる。日本調剤も、宅配ロッカーを使って非接触で処方薬の受け渡しを行う実証実験を横浜市の店舗で始めている。クオールは、QRコードを使って受け渡しができるロッカーを東京都内の店舗に導入、今後、対象店舗を拡大させていく計画である。

タスク・シフト/シェア

2024年の医師への時間外労働の上限規制の適用に向け、厚生労働省では医師の働き方改革のためのタスク・シフト/シェアの議論が取りまとめられ、2021年5月には関連する法律が改正された。タスク・シフト/シェアとは、一定の業務を他者に移管する、あるいは共同実施すること。医療業界においては医師の業務の一部を看護師や薬剤師に分担する仕組みを指す。医師が行っていた行為や業務を単に看護職や他職種にシフトしても、病院全体の業務量は変わらず、看護職や他職種の負担増や新たな人材確保が必要となる。看護師や薬剤師などの医療専門職はその役割、業務の分担についての見直しや検討が重要であり、看護補助者との協働や業務の自動化を推進していく必要がある。