なぜノンデスクワーカーなのか【警備員座談会・前編】警備業務の実態

main.jpg多くの業界で働き方改革が進むなか、業界構造の複雑さなどから、「警備業」の働き方の見直しはまだ道半ばだ。そこで、リクルートが、新たに始めたのが「警備員の働き方改革」プロジェクトだ。取り組みの一貫として、今年3月〜7月までの4ヶ月間、リクルートのオフィスビルに勤務する4名の警備員を対象に、「座哨(座って警備すること)」の実証実験を実施。「立哨(立って警備すること)」が当たり前だった同業界にとっては、新たな試みとして注目される。
警備員座談会・前編では、4名に警備職の実態や座哨導入後の勤務実態などについてインタビュー。知られざる警備業務のリアルをひもとく。(全2回、聞き手:坂本貴志)

(プロフィール)
村上さん:50代。業界歴は15年ほど。フォークリフト整備、トラック運転手を経て現職。
鈴木さん:50代。業界歴は5年ほど。印刷会社に30年勤めて現職。
長谷川さん:30代。業界歴は10年ほど。介護職、職業訓練校を経て現職。
小林さん:60代。業界歴は5年ほど。民間企業の経理、経営などを経て現職。3名をマネジメントする隊長。
注:いずれの方も氏名は仮名にて表記。

転職の理由は人それぞれ


── なぜ警備の仕事を始めたのですか?経緯を教えてください。

村上さん:高校を卒業後、フォークリフトの整備を10年、トラック運転手を7年経験し、15年前に警備員になりました。
トラックの運転と比較して精神的にも肉体的にも負担が少なそうだ。と思ったのがきっかけです。やはり、トラックの運転はかなり神経を使いますからね。また、警備業界の安定性にも魅力を感じました。

鈴木さん:新卒から30年ほど勤めた印刷会社を早期退職し、5年前からこの業界で働いています。ハローワークで警備業の講習会に参加したのがきっかけです。
ちょうど印刷業に、年齢的な限界も感じていたタイミングでした。常に最新技術へのキャッチアップが求められるし、トラブル対応が多い業界です。今後、変化への対応に自信がなくなっていました。そこでハローワークで警備の業務内容を知り、これからの自分の人生を考えた上で、生涯継続勤務できるかもしれないと考えました。。

長谷川さん:私は高校を卒業して、介護業界でヘルパーとして働いた後、ハローワークの職業訓練校に通って警備業に就きました。業界に入ってちょうど10年目になります。
ヘルパーの仕事で、肉体的にも精神的にもかなり疲れていました。仕事自体もハードでしたし、何よりも職場の人間関係が複雑でした。警備の仕事は、同じサービス業界で尚且つ人々の安全・安心を守る社会貢献性の高い仕事です。介護業界よりも給与面では良かった事もあり、ハローワークに紹介されて、そのまま応募しました。

小林さん:建設会社の小会社で経理や財務を経験し、最終的に社長になりました。ですが、資金繰りが悪化して会社が倒産してしまって。
経理や経営の経験を生かせる職場を探しましたが、年齢的な理由もあって、いい求人に出会えませんでした。そこで5年前、ハローワークでの紹介を受けました。それ以来、ずっと警備員をしています。私が一番年長なこともあり、警備にあたりながら、隊長として3名のマネジメント役も務めています。今となって思うのは、長く勤められる業界だというのがこの
業界に決めた理由でしょうか。

前職との違いを感じる


── 仕事内容について教えてください。

rissho.jpg鈴木さん:オフィスビルに常駐し、不審者や不審物はないかの監視をしています。基本は立哨警備ですが、施設周辺を巡回したりもしますね。勤務は週5日、朝8時から夜19時までで、昼に1時間、午後に30分の休憩があります。休憩時間は、4人で交互に取っています。

小林さん:エントランスや別のゲート、受付などに立ち、それぞれのメンバーが終日同じ配置で警備にあたっています。
隊長の私以外は、1週間ごとに配置のローテーションです。ただ監視をするだけでなく、ビルに入ってくる人に挨拶をしたり、迷っている人に道を案内したりするのも仕事の一つです。

── 警備の仕事で、特に気に入っている点はありますか?

村上さん:監視業務自体は、トラックの運転同様に注意力が求められますが、監視すべきポイントがある程度絞られていますので、慣れるまでは大変ですが、そのポイントさえしっかりと抑えれば、前職よりも精神的なストレスは圧倒的に少なくなりました。

長谷川さん:前職と比較して人間関係が煩わしくありません。まずは自分の責務を全うする事だけ考え、事案発生時は隊長を中心にチームで対応にあたります。そうした意味で精神的なストレスが減ったと感じています。役職者になったら、そういう訳にはいかないのかもしれませんが。

── 他人におすすめしたい仕事ですか?

村上さん:その人の仕事観によりますが、私はお勧め出来る仕事だと思います。トラック運転手だった為、年齢を重ねていく上で体力が持つか将来的に不安になりました。定年後からの転職は、新たな業務を覚えるのが難しくなってくると思いますので、私と同じ様な不安を抱えている人や定年後も長く働きたい人、特に50代位の人には是非お勧めしたいですね。

鈴木さん:前職と比較して、精神的なストレスはかなり少なくなりました。商業施設や複合施設の場合は高度な知識や対応力が求められるので一概には言えませんが、基本的には適材適所の配置を行っていただけるので、初心者でも安心できる仕事だと思います。

── 隊長だと、マネジメント業務もあって大変そうですが、どうですか?

小林さん:隊長は、メンバー各自の個性を見て適切な配置を考えたり、困っていることがないかケアをしたりする仕事です。気を使う場面はありますが、本部の協力体制もありますので、「隊長だけが大変」とかは、特にありません。
どちらかというと、一人ひとりの考えや行動を尊重しますし、「ちゃんと自分で考えて判断しろよ」と声がけするほうが多いです。もちろん、何か困ったことがあれば無線で連絡を受け、適宜サポートしています。

警備業務の本音


── 仕事で、改善してほしい点はありますか?

村上さん:事前に休日申請は出来ますが、基本的には月間シフトが固定されているので、柔軟に休みが取れないのは困っています。また、現職の給与がやや安いのには正直不満です。そうかといって、今から転職してまで給料をあげたいとは思いませんが、生活をしていくには少し物足りないと感じます。

長谷川さん:私も給与面ですね。管理職へのステップアップや資格を取れば給料があがりますが、基本的に給料は毎月一定ですから、せめてベースアップは欲しいというのが本音です。

── 休みや給与面は少し気にされているわけですね。今回のテーマ、「立哨(立って警備すること)」についてはどうでしょう? 警備業界では当たり前のルールだと聞いています。

鈴木さん:さすがに慣れてきましたが、それでも立ちっぱなしはしんどいですよ。毎日7時間くらい立っていると、足腰は痛みます。帰りの電車は、「ああ、座りたいな」と思う日が多いです(苦笑)。

村上さん:年齢を重ねるにつれ、なおそう感じますね。屋外の警備と違って、暑さや寒さに左右されないのはありがたいですが、やはり肉体的な負荷はかかります。ずっと背筋を伸ばして立っているのは、想像以上に大変ですから。

小林さん:それ自体が、不審者に対しての抑止力にもつながるので、やめるわけには行かないんですけどね。ただ、疲れるのはたしかです。
今は、クーラーがある現場が増えてきていますが、それでも立ち続けるのは体力を要します。自分が辛い思いをしたので、隊員には、くれぐれも無理はしないように、と常々伝えています。体を壊してしまっては、元も子もありませんから。

── やはり、立哨は体への負担が大きいのですね。後編では、「座哨(座って警備する)」実験の感想について聞いていきます。

*後編につづく。

執筆:高橋智香
撮影:平山諭