なぜノンデスクワーカーなのかなぜノンデスクワーカーか-日本経済の中核を担う職種-

多数派を形成するノンデスクワーカー

本研究では、警備員、ドライバー、建設作業者、清掃員、配達員などノンデスクワーカーの人たちの働き方に光を当てる。

デスクワーカーの人たちは、こうした職種で働く人たちのことをどのように思うだろうか。「所詮は自分には関係ない人たちのことだろう」というような反応は当然起こり得るし、「ほかにつける仕事がないからこういう職種に就くのではないか」といった意見もあるかもしれない。

私たちはまず、ノンデスクワーカーが日本経済の中核を担っている人たちであるということを認識する必要がある。総務省「国勢調査」により全国の就業者の職種を分類したものを見るとノンデスクワーカーがいかに多いかが一目瞭然である(図表1)。

デスクワークが中心だと考えられる人が1573万人(分類不能を除いて全体の28.1%)、デスクワークもあればノンデスクワークもある仕事に就く人が948万人(同:17.0%)、ノンデスクワークが中心だと考えられる人が3068万人(同:54.9%)いる。

どの職業がノンデスクワーカーなのかということは明確に線引きできるわけではないが、その区分をまとめたものが図表2となる。管理職や事務職、専門・技術職の一部がデスクワーカー、専門・技術職のもう一方と販売職の一部(営業職)がどちらともいえない中間的な職種、そのほかがノンデスクワーカーとなっている。

図表1 デスクワーカーとノンデスクワーカーの人口(単位:万人)
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出典:総務省「国勢調査」より作成

図表2 職種の区分
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出典:総務省「国勢調査」より作成

ノンデスクワークは誰にとっても無縁ではない

さらに、こうした職業は誰にとっても無縁ではないということを強調しておきたい。たとえば、あなたが学生時代にアルバイトとして従事していた職業は何だろうか。飲食店で接客業をしていた人もいるだろうし、個別指導塾の先生をしていた人、引越屋で働いていた人などもいるだろう。

あるいは、育児で職を一定期間離れた後に、パート従業員として働き始める場合、小売業の販売職などは有力な選択肢となる。また、定年退職以降、長く働き続けた仕事を離れ、警備員や清掃員として働く姿は決して珍しいものではない。

実際に、年代別の職種構成を見ると、こうした実態が浮き彫りになる(図表3)。10代や20代前半では、事務職や専門・技術職が少ない代わりに販売職やサービス職に就く人が明確に多い。また、60代以降を見ると、事務職や専門・技術職の比率が低下する代わりに保安や輸送・機械運転、建設、運搬・清掃・包装等、農林漁業が増える。なお、高齢層でノンデスクワーカーの比率が増えるのは、ノンデスクワーカーほど長く働き続けるという側面とデスクワーカーがノンデスクワーカーに移行するという2つの側面があるはずである。

図表3 年齢別の職種構成
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出典:総務省「国勢調査」より

見逃されてきたノンデスクワーカーの問題

ノンデスクワーカーによる仕事は世の中に不可欠な仕事であり、こういった人たちによる仕事が人々の生活を豊かにしている。そして、ノンデスクワークは誰にとっても無関係ではなく、大半の人は人生のどこかでこういった仕事で世の中に貢献するという選択を行っているのである。

そして、そもそも、事務職や管理職などデスクワーカーは、世の中に対して直接的な価値提供を行っているわけではないということを認識する必要がある。こういった職種の人たちは、実際にサービスを行っている人や財の生産を行っている人を管理し、その仕組みを整える側の人間である。それにもかかわらず、多くの人たちは管理する側に回りたがろうとし、そして実際にデスクワーカーを中心に待遇は改善されていく。

もちろんデスクワーカーの仕事も世の中に大いに貢献していることは間違いない。しかし、こうした状況が生じていることをもって、資本主義の矛盾が生じていると言う人がいたとしてもそれを一概に否定することはできない。

市場原理が完全ではないことは当然としても、デスクワーカーとノンデスクワーカーへの報酬の分配をどうすべきかは難しい問題であり、簡単に答えが出るわけではない。しかし、ノンデスクワーカーの働き方をより良いものにすることに反対する人はいないだろう。見逃されてきたノンデスクワーカーの問題。ノンデスクワーカーの働き方をどう見直していくべきか、考えていこう。

執筆:坂本貴志