何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―コロナ禍での地域労働市場 阿部正浩

2020年1月以来、猛威を振るっている新型コロナウイルス。ここにきて、感染者数の拡大は鈍っているものの、いつ収束するのかは未だに不明のままだ。日本全国に拡大したコロナ禍だが、全ての地域で同様の感染状況にあったわけではない。2020年1月16日から22年6月5日までの累積感染者数を人口百万人あたりでみたところ、最も多い沖縄が約15万人であるのに対して、最も少ない島根は2万5千人ほどにすぎない。都道府県によって感染状況に大きな差がある。こうした感染状況の地域での違いは、地域労働市場にどのような影響をもたらしたのか。全国就業実態パネル調査(JPSED)でみてみる。

人口密度の高さが感染拡大につながった

図1は、都道府県の人口密度と人口百万人あたり累積感染者数の関係を示したものだ。この図によれば、北海道と沖縄県を除いて、人口密度と累積感染者数の間には正の相関関係があることがわかる。北海道と沖縄は、全域では人口密度が低いのだが、人口密度が高い札幌市や那覇市で感染が拡大した。つまるところ、人々が密になりやすい都市部では感染が拡大する傾向にあり、逆に密になりにくい地方部ではあまり拡大していないということになる。

1 都道府県の人口密度と累積感染者数(人口百万人あたり )の関係
図1都道府県の人口密度と 累積感染者数(人口百万人あたり )の関係.JPG

感染状況は失業率に影響しない!?

もし地域の感染状況が経済活動にマイナスの影響を与えていたとすると、当該地域で失業は増加する可能性が高い。果たして、感染者数と失業率との間にはどのような関係があるのだろうか。

図2は、2020年4月から4半期別に、その期間の人口10万人あたり感染者数と失業率(対前年同期差)の関係をプロットしたものだ。失業率の前年同期差を用いるのはコロナ禍の影響だけをみたいからだ。失業率水準を単純に比較しただけでは、コロナ禍の影響なのか、あるいはもともと失業率が高い(あるいは低い)からなのかを、判断できないからだ。なお、円の大きさは該当する都道府県の15歳以上人口規模を示している。

図2 感染者数と失業率
図2 感染者数と失業率.JPG

感染者数と失業率の間には何らかの関係があるだろうという予想に反して、これらの図からは両者の関係はみてとれない。全期間について相関係数を計算すると0.3677で、両者の相関関係は弱い。詳細は省くが、統計的な解析を行っても両者には有意な相関関係はない。

なぜ都道府県別の感染状況と失業率の間に相関関係がないのだろうか。感染拡大は労働市場に対して影響を与えていないのか、それとも別の要因によって両者には関係がないようにみえるだけなのか。謎解きの続きは『仕事から見た「2020年」―結局、働き方は変わらなかったのか?』(慶應義塾大学出版会)の第3章「都会の仕事、田舎の仕事」で。

阿部正浩(中央大学経済学部教授)
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