何が変わって、何が変わらなかったのか ―コロナショックを経た働き方変化―仕事も、家事も、育児も ―コロナ禍で増した重圧― 大谷碧

20201月初頭に国内で初めて新型コロナウイルス感染症が確認され、政府の要請により、3月以降多くの学校で臨時休校が実施された。同年47日には1回目の緊急事態宣言が発令されるが、これらの出来事が子どもをもつ共働き夫婦に与えた影響は大きかったであろう。書籍『仕事から見た「2020年」結局、働き方は変わらなかったのか?』(慶應義塾大学出版会)の第11章では、全国就業実態パネル調査(JPSED)とJPSED臨時追跡調査を使用して、1回目の緊急事態宣言下とその前後について、小学生以下の子どもをもつ共働き夫婦の状況を考察しているが、本コラムではその一端を紹介したい。

共働きであっても家事・育児の負担は女性に偏る

緊急事態宣言下では学校や保育施設の休校・休園により、家事・育児の負担が増加したことが考えられるが、小学生以下の子どもをもつ共働き夫婦の場合、どの程度増加しただろうか。また、家事・育児時間だけではなく、労働時間も合わせてみることで、仕事と家庭それぞれの負担と、それらを合わせた負担が男女でどのようになっているかについてみていく。

まず、感染症拡大前と1回目の緊急事態宣言下の2時点について、小学生以下の子どもをもつ同一個人の家事・育児時間と労働時間をみてみよう(図1)。感染症拡大前の2019年12月の家事・育児時間をみると、女性5.0時間、男性1.8時間であり、女性の家事・育児時間は男性よりも3.2時間長いことがわかる。労働時間については、女性6.1時間、男性8.6時間となっており、女性は男性よりも2.5時間短いが、家事・育児時間と労働時間を合わせた時間は、女性11.1時間、男性10.4時間と、女性の負担が大きいことがわかる。

図1 1日の家事・育児時間と労働時間の平均 (小学生以下の子どもをもつ共働きの男女)
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1:集計対象は、JPSED2020JPSED2020臨時追跡調査、JPSED2021の回答者で、第11章の分析で使用する変数に欠損がなく、配偶者および子どもと同居する者としている。また、比較する3時点で、子どもが小学生以下であるよう、JPSED2020時点で、11歳以下の子どもをもつ者を対象としている。
2:労働時間については、総労働時間を総労働日数で割って、1日の労働時間に換算したものを使用している。
3:家事・育児時間は働いていた日について尋ねている。
4:ウエイトバック集計を行っている。

次に、緊急事態宣言下の家事・育児時間をみると、女性5.7時間、男性2.9時間と、男女ともに感染症拡大前より増加している。依然として、女性の方が長いことには変わりないが、その差は2.8時間とわずかに縮まっている。労働時間については、女性6.0時間、男性8.4時間と、感染症拡大前と比較して男女ともわずかに減少しているが、男女差は2.4時間とあまり変わっていない。また、家事・育児時間と労働時間の合計は、女性11.7時間、男性11.3時間とやはりまだ女性の負担が大きい傾向といえよう。


このように、2時点を比較すると、男女ともに労働時間の減少幅よりも家事・育児時間の増加幅の方が大きく、家事・育児時間と労働時間の合計が増加(男性0.9時間、女性0.6時間)していることから、仕事と家庭の両立ストレスは高まっている可能性が考えられる。また、家事・育児時間の増加の幅自体は男性の方が大きいが、もともと負担が大きかった女性についても、さらに負担が増したことから、両立ストレスが高まっているかもしれない。そこで次は、仕事と家庭の両立ストレスについてみてみよう。

緊急事態下の女性の両立ストレスは悪化の傾向

同調査では、仕事と家庭生活の両立について、ストレスを感じた程度を5段階(強く感じていた~まったく感じていなかった)で聞いている。感染症拡大前の2019年の両立ストレスと比較して、緊急事態宣言下の両立ストレスが、悪化、変化なし、もしくは改善しているかをみてみると、男性と比較して女性の方が両立ストレスが悪化した者が多く(女性31.9%、男性25.3%)、改善は少ないことが示された(女性24.5%、男性32.5%)(図2)。

図2 緊急事態宣言下の仕事と家庭の両立ストレスの変化(小学生以下の子どもをもつ共働きの男女、基準は2019年)図2 緊急事態宣言下の仕事と家庭の両立ストレスの変化(男女別、2019年基準)

注1「強く感じていた」を5ポイント、「感じていた」を4ポイント、「少し感じていた」を3ポイント、「感じていなかった」を2ポイント、「まったく感じていなかった」を1ポイントとし、2019年を基準に緊急事態宣言下で何ポイント変換したかをみている。
注2:集計対象は図1と同じ対象者としている。
注3:ウエイトバック集計を行っている。

両立ストレス悪化の背景は、学校や保育施設の休校・休園による、家事・育児の増加が考えられるが、そもそも感染症拡大前から、女性は既に可能な限りの時間を家事・育児にあてていた可能性は高い。そこに、政府の休校要請による急な対応が必要になり、男性もこれまでより家事・育児に参加していたかもしれないが、特に女性については仕事を調整し、家事・育児に対応していたケースも多くあったと想定され、そうしたことも両立ストレス悪化に影響を与えていた可能性がある。

実際、両立ストレスが悪化した者について、感染症拡大前と緊急事態宣言下の2時点の家事・育児と労働時間の変化(増減)をみると、家事・育児時間は男女ともに感染症拡大前より増加(男性75.0分、女性59.2分の増加)しているが、労働時間については、男性は増加(8.4分増加)している一方、女性は減少(12.2分減少)している(図表は割愛)。

こうした背景には、男女がそれぞれ就く仕事の柔軟性の違いもあるだろう。2019年時点の仕事の柔軟性に関して、「勤務日を選ぶことができた」と回答したのは女性44.1%、男性20.7%、「勤務時間を選ぶことができた」については女性43.0%、男性14.8%と、どちらも男性の割合は低い。共働きで、夫婦どちらも柔軟性が低い仕事をしながらの子育ては容易ではないため、女性が家事・育児のために、柔軟な仕事に就いていることが考えられる。

しかし、多くの男性が柔軟性の低い仕事に就いていることからも、柔軟性が高い仕事は非正規や特定の仕事に限られていると考えられ、女性が仕事を選ぶ際に、本来就きたい仕事に就けていない可能性がある。また、女性だけが柔軟性の高い仕事に就くことで、仕事だけではなく、家事・育児もという女性への重圧がさらに増すことになるのではないか。

感染症拡大をきっかけに、たとえばテレワークのような柔軟性の高い働き方が広がりをみせているが、長時間労働の是正に加えて、このようなより柔軟な働き方が多くの仕事で広がることで、男女間の家事・育児の分担が少しでも進むことに加え、仕事かプライベートのどちらかを犠牲にするようなことがない生き方が可能になることを期待したい。

大谷碧(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。