【分析編】再就職後の女性のキャリア 夫が協力的だと、再就職後はどう変わるのか

前回は、結婚・出産等で離職した女性が再就職するとき、仕事と家庭の両立負担が重いと、女性が再び離職する確率が高まることをみた。しかし、人は周囲の人とのつながりから、精神的なサポートや物理的な支援を受けている。周囲の支援によって、仕事と家庭の両立負担の重さも変わってくるだろう。たとえば、家庭運営のパートナーである夫の協力は、再就職した女性の働き続けやすさを、どう変えるのだろうか。

再就職の時、夫が協力的だったと明言した女性は3割

仕事を再開した女性は、再就職した時の夫の家事・育児への協力をどのように評価しているのだろうか。その回答別の割合をみると、「協力的であった」が28%、「どちらかと言うと協力的であった」が36%、「どちらかと言うと協力的でなかった」が19%、「協力的でなかった」が16%であった。この回答からは、家事・育児の客観的な量は把握できないものの、夫が家事・育児にはっきりと「協力的だった」と回答できた人は3割にとどまる。多くの女性は「家事・育児を主に担う」という役割は変えないまま、再就職に臨んでいる。

夫が協力的かどうかで、離職の確率が高まる就業時間が異なる

次に、夫が「協力的だった」と回答した人とそれ以外の人に分け、統計的な手法を用いて、再就職後の離職にどのような要因が関わっているのかを分析した。分析の枠組みは、連載第2回、第3回とおおむね同じである。ただし、夫が協力的だった女性とそれ以外の女性にグループを分けて分析することで、夫の協力によって、女性の再就職後の離職に関わる要因がどのように違うのかを比べている。

夫の家事・育児への協力で、まず期待できるのは、女性の両立負担の軽減だ。そこでまず、分析の結果のなかから、再就職時の仕事と家庭の両立負担に関する結果を図表1に示した。分析結果は、夫が協力的であった「夫協力グループ」と「夫協力以外グループ」に分けて示している。図表中の係数がプラスの場合は基準となる状況に対して離職の確率が高まることを、マイナスの場合は離職の確率が低下することを意味している。統計的に意味のある結果がみられた場合にのみ、係数と影響を記した。

図表1 再就職時の仕事と家庭の両立負担と再就職後の離職に関する分析結果(夫の協力状況別)

無題.png

注:***は1%、**は5%、*は10%で有意に相関のあることを示している。
リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」のデータをもとに分析(※1)。

最初に、再就職時の週あたりの就業時間に着目すると、「夫協力グループ」では週40時間以上で再就職後に離職する確率が高まるのに対し、「夫協力以外グループ」では週30時間以上で離職する確率が高まっていた。つまり、「夫協力グループ」では、「夫協力以外グループ」と比べ、再就職の際により長い時間で仕事を再開しても、離職の確率が高まりにくいということがわかる。

次に再就職時の末子年齢についてみると、「夫協力グループ」「夫協力以外グループ」ともに、基準である「0~3歳」と比べて高い場合に、再就職後の離職の確率が低下する結果は変わらなかった。また、離職期間基準である「3~5年」に対して長い場合に、再就職後の離職の確率が高まる結果も同じであった。

夫が協力的なだけではカバーしきれない負担もある

 再就職の時点で、夫が家事・育児に協力的であることは、女性がより負荷の高い仕事で再就職したあとのキャリアを一定程度支えていると言える。しかし、夫が家事・育児に協力的な場合も、再就業時の週就業時間が40時間以上の場合に離職の確率が高まるほか、夫の家事・育児への協力度合いにかかわらず、再就職時の末子年齢が低い場合や離職期間が長い場合に再就職後の離職の確率が高まる状況は変わらなかった。分析からは、夫の家事・育児への協力が女性の仕事と家庭の両立負担を軽減することと同時に、それではカバーしきれない負担が残る様子もうかがえた 。

女性の再就職は夫婦の共同プロジェクト

再就職する女性への支援として、夫と家事・育児を分担することの大切さ、両立の負担を一人で抱え込まないことの重要性を女性に周知していくことが重要だ。女性の再就職は夫婦の共同プロジェクトなのである。

しかし、今回の分析で確認したように、夫の家事・育児への協力があっても、仕事と家庭の両立負担による就業継続の壁は残っていた。この問題に対処するためには、子供を安心して預けられる保育所の整備や、子どもが小さいうちは母親が育児に専念すべきとする社会通念(三歳児神話)の見直し、離職期間が長期化する前に小さく始められる仕事の創出などが必要だ。さらに現実的には、夫の長時間労働などで、夫の家事・育児への協力を期待できないケースも多いと思われる。その時にどうするべきかについては、次回のコラムで取り上げる。

(※1)再就職から離職までの時間差を考慮したうえで、分析には、結婚・出産等で離職した仕事、居住地、教育歴、現在年齢、再就職時の仕事のほか、離職期間中の学び、再就職時点の両立負担に関わる変数、再就職時点の夫の家事・育児への協力、再就職から現在までの仕事やキャリアについての相談状況などの変数を考慮したイベントヒストリー分析を行った(離散時間ロジットモデル)。