兆し発見 キャリアの共助の「今」を探るホームレス問題は自己責任じゃない。必要なのは「職」「住まい」「つながり」

14歳からホームレス支援に取り組んできた川口加奈さんは、大学在学中の2010年、友人と3人で大阪市に支援団体「Homedoor」を立ち上げました。現在、路上で暮らす人に仕事を提供することを目的としたシェアサイクル事業「HUBchari」や、無料宿泊施設「アンドセンター」などを運営しています。
コロナ禍で仕事を失い、苦境に立たされている人が急増する中、川口さんは「ホームレス状態は誰にでも起こりうることで、自己責任ではない」と訴えます。ホームレスの方々を支えるNPOの取り組みと、そのNPOを支えるために何が必要なのか伺いました。

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川口加奈氏
認定NPO法人Homedoor理事長
14歳でホームレスの炊き出しなどの活動を始める。大阪市立大2年生の時、友人2人とともにHomedoorを設立。シェアサイクル事業HUBchariや夜回り活動、宿泊施設「アンドセンター」などを運営し、2020年度末までに相談に応じたホームレスの人は3000人以上、仕事を提供した人は250人以上に上る。コロナ禍以降、急増した相談者の対応にも当たる。

修理スキルを生かして仕事に。違法駐輪解消にも貢献

――ホームレスの方が働くことができるHUBchariという事業を始めた経緯を教えてください。

団体を作った時、まずホームレス状態の方に朝食を提供するサービスを始め、彼らの話を聴いていきました。すると、多くの方が仕事を求めていることがわかりました。
ホームレス状態の方にとって、自転車は荷物の運搬や空き缶を集めて売る時の必需品で、修理も自分でできる方が多いんです。彼らにどんな仕事を提供できるかと考えた時、シェアサイクルならスキルを生かせると思いつきました。
企業に自転車を100台ほど寄付してもらえたので、店舗の空きスペースなどに拠点を設け、利用者が好きな拠点で自転車を借りて返せるスキームを考えました。小規模な実証実験をすると利用者に好評だったので、「駄目なら撤退すればいい」くらいの気軽な気持ちでスタートさせました。

――HUBchariの事業は、どのように広がったのでしょう。

シェアサイクル流行の波に乗れたのと、大阪市内で問題になっていた違法駐輪対策としても注目されたことで利用者が伸び、働いてもらう方も増やすことができました。
ただ最初のうちは、人間が手動で貸し借りを管理していたので、キャパシティに限りがあり思うように拠点数を増やせなかったんです。株式会社ドコモ・バイクシェア様から自転車管理システムの提供を受けることで拠点が大幅に増え、今はドコモ・バイクシェアポートも含めると250カ所以上でご利用いただけます。コロナ禍で密を避けて自転車を利用する方が増え、昨年はさらに需要が伸びました。

「働きたい」ニーズに応える。3カ月で脱ホームレスも可能

――ホームレスの方にどんな仕事を提供しているのでしょう。

自転車のバッテリー交換や修理のほか、自転車を移動させ、拠点ごとの駐輪台数の偏りを調整してもらう仕事などです。一部の拠点にはスタッフとして常駐していただいています。直接雇用の方もいれば、登録者制で好きな時に作業する方もいます。
「ホームレス」とひとくくりに言ってもいろんな方がいるので、特性に応じてさまざまな業務を提供できるようにしています。例えば、少し英語が話せる方には海外からのお客様もいるので受付業務を、手先が器用な方には修理などを担当していただいています。選択肢をたくさん作ることは、Homedoorの理念でもあります。

――その仕事でホームレスの方々が経済的に自立することは可能でしょうか。

Homedoorは、企業から受託した清掃や駐輪場管理などの仕事も提供しており、HUBchariと合わせて月に計6万~8万円稼ぐ方もいます。23カ月貯金すれば家を借り、ホームレス状態から脱することは可能です。もちろん、生活保護の利用を優先はしますが、ホームレスの方たちの中で「働いて家を借りたい」というニーズをお持ちの方もいらっしゃるので、さまざまな路上からの脱出の選択肢を作りたいなと思っています。

――Homedoorが行っている他の取り組みについて教えてください。

2018年、18のユニットバス付き個室を備えた宿泊施設「アンドセンター」を設立しました。また毎月1回の「アンド食堂」は、ホームレスの方々に食事を提供していますが、同時にホームレス状態から脱した「卒業生」が集まる場にもなっています。今年の春には主に若者向けに、居場所と就労支援を兼ねたカフェ「おかえりキッチン」もオープンします。
夜、公園などでホームレスの方にお弁当を渡すホムパト(夜回り)も10年近く続けています。卒業生も同行して、ホームレスの方に「自分も昔、ここで寝とったけど……」などと話しかけてくれます。活動を通じて、寝る場所や食料だけでなく「人とのつながり」を取り戻してもらうことが大事だと思っています。

――NPOとしてのHomedoorの役割を、どのように位置づけていますか。

まず夜回りなどでホームレスの方にHomedoorの存在を知らせ、来所のきっかけを作ります。来所してくれた方からは状況を聴き取り、仕事や住まい、福祉制度、通院治療など、それぞれが必要とする選択肢を提案します。そして彼らが選択した内容、つまり実際の就労や生活を支援し、ホームレス状態から卒業した後の生活が軌道に乗るまでをサポートします。
この支援サイクルを回し、改善を重ねて納得できる形になったら、モデルケースとして全国に広げられるのではないかと考えています。

行政との連携、中小企業の寄付控除にハードルも

――Homedoorの活動は非常に社会性が高いですよね。活動にあたっては行政と連携しているのでしょうか。

HUBchariの実証実験は大阪市住吉区や北区と共同で実施しましたが、行政施設に拠点を置きづらいことなどから、結果的には自主事業で運営することになりました。NPOの規制や、自治体によってNPOとの協働に対する考え方が違うことが、ハードルだと感じます。
ただ行政の担当者レベルでは、情報交換や連携が進んでいます。

――企業との協働はありますか。

企業からコラボレーションの提案や、人・モノなどのリソースを提供してもらう機会が増えており、こうした動きはとてもありがたく、加速してほしいです。企業からのボランティア人材の受け入れは、NPOにとっては労力的に負担になることもありますが、多くの方が企業に帰った後もボランティアなどで関わってくれて、すそ野が広がるよさがあります。また「今使っている顧客管理システムをもっと活用したい」といった、NPO側のニーズにかなった人材が来てくれると、非常に助かります。

――NPOの財政基盤や、職員の雇用環境について教えてください。

大まかに言うと、収入の約半分がHUBchariなどの事業収入で、残り半分が寄付です。今後は、毎月定額の寄付を頂けるサポーターを増やせればと考えています。
法人については、大企業からの寄付は比較的多いのですが、中小企業の場合は代表の方が個人的にご寄付いただくほうが節税メリットが大きいため、中小企業からの法人寄付は少ない状況です。税額控除の制度を見直す必要があると感じます。
スタッフの雇用環境はおおむね定時出社、定時退社で週休2日を確保できるイメージです。一般的な会社で働く平均収入と大差ないくらいにはなってきました。採用は必要に応じて、よい方に出会えたら入ってもらっています。

コロナ禍で「自己責任論」に変化の兆し

――川口さんはどのような思いで、ホームレス支援を続けてきたのでしょうか。

ニーズがある限りは続け、なくなったらやめればいいと割り切って活動していたら、ここまで来られたというのが正直なところです。
当初は私よりもほかの仲間が熱心で、けしかけられるように団体を作ったんです。でも最初の1年半で、私以外の仲間は就活などのため団体を離れました。ひとりになって初めて、それまでの受動的に団体を設立・運営してきた自分を反省し、ひとりでも続ける覚悟ができたように思います。

――NPOとして活動を進めていく上で課題はありますか。

良くも悪くも、現行制度を補填するような支援を考えてしまうので、制度をよりよくする、という政策提言の視点を持つことが課題です。またホームレス支援は関わりにくいといったイメージも根強いので、ポップに親しみやすく情報発信することも心がけています。
一番の問題は、いまだにホームレス問題を「自己責任」と片づけ、白眼視する方が多いことです。「そんな人たちを支援しないでください」というメールを受け取ることさえあります。ただコロナ禍で、多くの方が勤め先の業績不振や営業停止などに直面し、自己責任論に変化の兆しも見えてきました。社会に広く「ホームレス状態は誰にでも起こりうる」と伝えていくことが、私たちのミッションの一つでもあると考えています。

聞き手:中村天江
執筆:有馬知子