兆し発見 キャリアの共助の「今」を探る1万4000人が集う「フェイスブック新潟県人会」とは

旅行や出張などで訪れた土地で、食べ物や豊かな自然、出会った人の温かさなどにひかれた経験はありませんか。首都圏新潟県人会が運営するFacebookグループ「フェイスブック新潟県人会」は、出身者だけでなく他県からの「新潟好き」な参加者も広く受け入れ、フォロワー数は約1万4000人に上ります。
SNS上でその土地ゆかりの人がつながる「ネオ県人会」は全国に広がりつつありますが、新潟は10年にわたって活動を続ける「老舗」。グループを立ち上げ、運営を担ってきた南雲克雅代表に、活動の苦労と面白さについて語ってもらいました。

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南雲克雅氏
首都圏新潟県人会代表。新潟県南魚沼市出身。
茨城大学卒業後、地元新潟の食品スーパーやおむすび屋、リクルートの求人広告代理店などを経て現在、都内IT企業所属。2011年、「新潟発、世界へ。」を合言葉とするフェイスブック新潟県人会を立ち上げた。同会のサブグループ「日本へぎそば部」の部長も務めている。

地元に面白いことはたくさんある。「新潟」で若者がつながる

――フェイスブック新潟県人会の概要を教えてください。

フェイスブック新潟県人会は2011年に始まり、現在は1日平均6000人が利用しています。新潟出身者、U・Iターン希望者、新潟在住者のほか、新潟の自然や文化、お酒が好きだという人も多数参加しています。新潟出身ではない参加者は、総じて活動にとても熱心です。
SNSへの投稿や交流会、イベントなどを通じて、新潟に関係する人がつながれるプラットフォームを提供することが、グループの狙いです。知る人ぞ知る新潟の名産品や実用的な情報も載っていますし、I・Uターン勉強会、ランニング部、婚活部といった特定の分野に関心のある人が参加するサブグループも作られています。
運営費は基本的に自腹ですが、飲み会の会費などが中心で、あまり大きな支出はありません。お金のかかるプロジェクトを実施する時は、Facebook上で寄付を募ります。

――なぜ地元に着目し、フェイスブック新潟県人会を立ち上げたのでしょう。

高校1年生までは、地元が嫌いで早く離れたいと思っていました。しかし受験勉強のために、部屋からテレビをなくしてラジオを聞き始めると、コミュニティFMから全く知らないローカル情報が流れてきたんです。これが「地元の人は地元の面白いことを案外知らない」と気づくきっかけになりました。
上京後、29歳で昔ながらの「県人会」である東京新潟県人会に入りました。同会は当時設立100年に迫り、会員もシニア層が中心。年会費やイベント参加費が1万円超かかることもあり、同年代の人を誘ってもなかなか参加してもらえません。事務局に新潟出身者を紹介してもらおうとしても、個人情報保護を理由に断られてしまいます。そこで、若者が気軽に交流できる場を自分で作ろうと考えたんです。

フラットに人とつながれる。「精神のセーフティネット」の役割も

――会に参加するメリットは何でしょうか。

メンバー同士が地位や肩書にとらわれず、フラットな立場でつながれることです。U・Iターンや上京の直後、周囲に知り合いが少ない時も、メンバーと話すことで孤独を感じずにすみます。何かに失敗して落ち込んだ時、精神的なセーフティネットにもなってくれます。
イベントや交流会で、ロールモデルになるU・Iターンの先輩や行政担当者との人脈を築き、帰郷・移住に踏み切る人もいます。こうしたU・Iターン経験者が行政の移住政策に関わったり、好事例として自治体発行のパンフレットに掲載されたりすることもしばしばです。
余談ですが、飲み会参加者からは、お酒が美味しかったという感想をよくいただきます。酒どころ新潟の面目躍如といったところでしょうか。

――より多くの人に参加してもらうために、心がけていることはありますか。

誰もが安心できる雰囲気づくりを大切にしています。中には別のネオ県人会に参加したけれど、ビジネスライクでなじめなかったという人もいます。「コミュニティに入りましょう」と誘うのも、ボランティアのような生真面目なイメージが強く、敬遠されがちです。
かといって「盛り上がろうぜ~」といった「パリピ感」が強すぎても、入りづらい人が出てきます(笑)。堅苦しすぎずチャラすぎず「新潟の話しようよ」くらいのカジュアルな入り口で、幅広いメンバーに参加してもらいたいと考えています。
また私自身、ある会で参加者が常連に気を使う様子を見て「嫌だな」と思った経験があり、内輪っぽい「常連感」を出さないようにも気を付けています。

コロナ禍で高まる移住への関心。行政はプラットフォーム活用を

――自治体との連携はありますか。

これまで自治体との接点はあまりありませんでしたが、コロナ禍で潮目が変わったと感じています。グループに参加する県の職員に声をかけられて、移住政策の担当者と意見交換するようになりました。在宅勤務とリモートワークの普及で、地方移住への関心が高まる中、我々のグループとつながり移住者を増やしたいという自治体側の思いがうかがえます。また新潟も含めたネオ県人会が、コロナ禍に苦しむ地元のお店や生産者の支援に取り組んでいることで、SNSを通じたプラットフォームの重要性が行政や社会に認知されてきたとも感じます。

――自治体の移住行政についてどう思いますか。

5年ほど前、新潟県の担当者に「地元を離れた人が、今どこにいるかわからないことが課題だ」と聞きました。また多くの自治体は、都内でイベントを開くなどして出身者をリスト化できても、行政情報を郵便やメールで一方的に送付するだけです。出身者同士の交流の場を作らなければ、その後の活動につながりません。自治体からのイベント告知メールはスルーされても、誰かが「イベントに行ったよ」とFacebookグループに投稿すれば、「私も行こう」と思う人が出てきます。
出身者の把握やネットワーキング、PRに、我々のようなSNSのプラットフォームをもっと活用してほしい。そのためには熱意を持って「地域アルムナイ」づくりに取り組む行政担当者が必要です。内部にいなければ、外から専門人材を迎え入れることも検討すべきですし、実際に採用に向けて動き出している県もあります。

ヨコのつながりでノウハウ共有し、担い手を増やす

――ネオ県人会の活動を活発にするには、どうすればいいでしょうか。

大事なのは、グループを運営する人材の育成です。私はグループ立ち上げ当初、新聞やネットに載っていないマニアックな新潟情報を調べて実際に足を運び、写真とともに投稿しました。信頼関係を作るため、他のメンバーの投稿にもまめにコメントしました。こうした地道な努力の結果、次第に仲間が増えていったのです。
ネオ県人会同士でヨコのつながりを作り、こうしたノウハウを共有することで、担い手が増えていくと思います。私自身も今、いくつかの地域のFacebookグループで、仕込んだ「ネタ」を投稿するなどして、関心を高めるお手伝いをしています。

――フェイスブック新潟県人会の課題はありますか。

Facebookの利用者が高齢化し、私も年を重ねる中で、グループ参加者の年齢層が上がっていることです。最初は20代~30代前半が中心でしたが、現在のグループ参加者の平均年齢は45歳です。
若者を取り込みたいという思いから、YouTubeやInstagramも始めました。ただ自分がシニアになった時、安心して過ごせる場でもあってほしいので、若者に限らず、幅広い年齢層を受け入れています。
また、イベントなどを手伝ってくれるコアメンバーはいるものの、運営は私一人で担う部分がかなり多いのも課題。任意団体だと行政の事業を引き受けづらいので、法人格を取りたいと思うのですが、私の本業が忙しく、手が回らないのが実情です。

――南雲さんは活動を通じて、どんなやりがいを感じているのでしょう。

何ですかねえ(笑)。活動を始めた時は、ここまで大きくなるとは想像もしませんでした。とにかく自分が楽しいこと、やりたいことを続けたからこそ、苦労も乗り越えてこられたのだと思います。
1~2カ月に1度開く交流会も、最初は3人から始まって、10人、20人と参加人数が増えたんですが、毎回、直前まで「何でこんな忙しい時に交流会を企画したんだ」と後悔するんです。でも、いざ開催すると本当に楽しくて、また企画する。その延長線上に今の姿がある、というのが正直なところです。

聞き手:千野翔平
執筆:有馬知子