兆し発見 キャリアの共助の「今」を探るSNSでつながる「ネオ県人会」  Uターンなど人生の選択のきっかけに

「地域アルムナイ」は、各都道府県の出身者や移住者、U・Iターン希望者、その土地の文化や歴史に興味・関心のある人など、「地域」を核としたコミュニティです。特に最近、FacebookなどのSNSを通じた新しい地域アルムナイ「ネオ県人会」の活動が、各地に広がっているのをご存じでしょうか。同窓会よりも人間関係が広く、昔ながらの県人会よりカジュアルなネオ県人会は、参加者に何をもたらすのでしょう。地域アルムナイづくりの先駆者であり「ネオ県人会」という言葉の生みの親でもある、山田泰久さんに聞きました。

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山田泰久氏
群馬県高崎市出身。一般財団法人非営利組織評価センター業務執行理事。日本財団に入会し、2009年から市民や企業、NPOの連携を促進するCANPANプロジェクトの企画責任者となる。群馬県出身者らでつくる任意団体「群馬県民の日 in TOKYO実行委員会」の立ち上げや、全国の地域アルムナイを集めたイベント「出身地Day」の開催に取り組んだ。2016年から現職でNPOの組織評価の普及に取り組む。

数人規模から1万人超まで、多種多様なゆるいつながり

――ネオ県人会とは、どんな会なのでしょうか。

ネオ県人会は、その地域の住民や出身者、土地にゆかりのある人などがSNSを通じてつながる集まりです。1万人以上が登録する会から、コアメンバーが5人くらいの集まりまで、規模は大小さまざま。通常は飲み会を開いたり、年に2、3回イベントを企画したりしています。東日本大震災や今回のコロナ禍といった有事の際などに、地元の小売店や中小企業などの支援に取り組むこともあります。
ネオ県人会の特徴の一つが、「Uターン」をテーマにした活動が多いことです。メンバーの多くは20~30代と若く、親の介護や出産・育児など人生の岐路に立った時、地元に戻ることを選択肢に入れ始めます。このため地元の人とつながりたい、情報を仕入れたいというニーズが生まれるのです。

――従来からある県人会との違いは何でしょうか。

一般的な県人会は、中高年の会員が多いため地元の外での生活基盤が確立しており、Uターン志向の薄い人が大半です。年に1~2回、ホテルなどで開かれる懇親会はたいてい数千円の参加費がかかり、年会費も徴収されます。このため都会で成功した同郷人が、親睦のため集まる会という色彩が強く、お金のない学生や若者にとっては敷居が高いのです。
組織化された従来型の県人会と比べると、ネオ県人会のつながりはゆるやかです。もちろん長く活動している会もたくさんありますが、会によっては参加者が入れ替わったり、活動が下火になったり、新しい会ができたりと新陳代謝も起きています。

――「ゆるさ」がネオ県人会のよさでもあるのでしょうか。

働き盛り世代が主力のネオ県人会は、転勤や忙しい部署への異動、子育てや介護などでメンバーが活動しづらくなる時期もあり、どうしても流動性が高くなります。ネオ県人会という「入れ物」の継続ありきで活動すると、メンバーの負担感が増してしまう恐れもあります。ニーズがある時に、参加できるメンバーが集まるというあり方も「あり」だし、多くの場合「地域でつながりたい」というニーズが常にあるので、メンバーや団体の形は変わっても、ネオ県人会的な集まりは存在し続けています。

安心できる居場所と広い視野 ネオ県人会で得られるもの

――山田さんがこうしたSNS上の集まりを「ネオ県人会」と名付けたのはなぜですか。

各地の出身者らが作るSNSの集まりはたくさんありますが、「県人会」という言葉はおしゃれじゃないせいか(笑)、例えば秋田県なら「WE LOVE AKITA」、広島県は「nextひろしま」と、独自の名前がついています。このため、各地の会を探そうとして「○○県 県人会」などで検索しても、ヒットしづらいのです。そこで、集まりをまとめるカテゴリとして「ネオ県人会」という呼び名を考えました。漫画『AKIRA』に出てくるネオ東京が、名前のヒントです(笑)。

――ネオ県人会に参加することで、得られるものは何でしょうか。

何より大きいのは、安心できる居場所を持てることです。地元を離れた後も同郷人と語り合う場があれば、不慣れな土地で生きる不安が和らぎ、孤立も防げます。
都会で活躍する地元出身者や、地元で面白い取り組みをしている人たちとつながることもできます。彼らの情報やアドバイスが、就職や起業を後押しすることもあります。Uターン希望者も、Uターンを経験したロールモデルを見つけられて、地元で暮らすイメージを描きやすくなります。
また地方出身者は多くの場合、高校までしか地元にいないので、僕が「自転車経済圏」と呼ぶ、自宅周辺のごく狭い範囲のことしか知りません。県人会ではその県全体の文化や歴史などの話を聞けるので、高校時代で止まっている地元情報を更新できて、視野も広がります。

Facebookが地域アルムナイ発展の原動力

――山田さんは、「地域」に着目した活動をどのように始めたのでしょうか。

僕は群馬県出身なので、2012年ごろ群馬出身者らに声をかけて、10月28日の「群馬県民の日」を東京で祝う会を立ち上げました。この経験をベースに、全都道府県の出身者を集めて同じような会をやったら面白い、と思いついたんです。ちょうど当時の仕事が、日本財団のCANPANプロジェクトという、NPOや企業などの連携を促進する活動でした。その中で都道府県出身者ごとに集まり、地元を応援するにはどうしたらいいかを考える「出身地Day」というイベントを開きました。茨城県などはこのイベントをきっかけに、ネオ県人会を立ち上げたんですよ。

――各地の出身者をどのように集めたのですか。

地方創生に取り組むNPO法人「ETIC.」の力を借りて出身者の集まりに声をかけたほか、SNSの告知を面白がってシェアしてくれる人がたくさんいて、ほとんどお金をかけずに約150人集めることができました。また、当時は年間50~60件のイベントを企画していましたし、NPO向けにSNS活用講座も開いていたので、イベントの運営や情報発信のノウハウが自然と身についていたのも、幸いしました。

――お話を聞いていると「ネオ県人会」の活動でSNSが果たしている役割は、とても大きいですね。

特にFacebookの存在が大きいです。Facebookのプロフィール欄には、出身の都道府県を書く欄がありますね。出身地を公表している人は基本的には地元が好きなので、ネオ県人会の活動に参加してもらいやすいのです。プロフィール欄があったから地域アルムナイが発展したと言っても、言い過ぎではないでしょう。
SNSの投稿を通じて、ネオ県人会のメンバーがお互いの生活ぶりをうかがい知ることもできます。メンバーには、地元に戻って起業した人や新幹線通勤の人、移住してリモートで働くベンチャー企業の社員などもいます。豊かな自然の中で生活する彼らの様子を見た人が「こんな生き方もいいな」と感じ、人生の選択肢が広がることもあります。

地元を離れた出身者を、ネオ県人会で把握できる。行政にメリットも

――ネオ県人会と都道府県などの自治体が、連携することはあるのでしょうか。

今のところ、自治体とネオ県人会の接点はほとんどありません。でも行政は県人会と連携すれば、地元を離れた出身者をある程度把握できるようになり、大きなメリットを得られるはず。地元を離れた人の所在を知るのは出身高校くらいで、彼らにどうやってアクセスするかに苦慮している自治体も多いのです。
例えば群馬のネオ県人会は、上京したての学生向けに歓迎会を開いたことがあります。行政がここに絡めば学生との接点が生まれ、彼らが就職活動を始める時に、Uターン説明会や地元企業の就職支援セミナーに関する情報を流すことが可能になります。OB・OG訪問の受け入れやキャリア相談の相手として、ネオ県人会メンバーの協力を得ることもできます。行政が都市部にいる出身者を集めて成人式を開くのも、格好の話題づくりになるでしょう。

――ネオ県人会が今後、取り組むべきことは何でしょうか。

ネオ県人会側にとっても、行政との連携は課題です。会の活動は基本的に手弁当で、群馬の歓迎会も先輩が自腹を切っておごっています。行政に経費の一部を負担してもらえれば、持ち出しも減ります。
各地域の会が実施した地元支援の事例集を作り、経験を共有するなど、ネオ県人会の横のつながりも、もっと作りたいですね。
カジュアルな取り組みとしては、地元ゆかりのお店を集めたデータベースを作れば、その地域に興味を持つ人など、幅広い層の役に立つのではと思います。地域アルムナイは、出身者以外の人にも開かれたコミュニティなのですから。

聞き手:千野翔平
執筆:有馬知子