シンポジウム動画・報告 「つながりの時代ーキャリアの共助が未来をひらくー」【議論】自治体が人口減少を乗り越える「つながり」とは?

リクルートワークス研究所では、2021年7月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月16日に行った「DAY3 地方を元気にする『オンライン関係人口』と『非営利の仕事』」のパネルディスカッションの動画とサマリーを公開します。

自治体が人口減少を乗り越える「つながり」とは?(パネルディスカッション)

リクルートワークス研究所所長、奥本英宏(以下、奥本):パネルディスカッションでは、地域創生の求心力となる魅力の作り方、そして立ち上げたコミュニティの活力を維持する工夫、最後に行政や企業、住民ら共助のプレーヤーの連携の在り方について、お話をお聞きしたいと思います。

まず岡本さん、多くの自治体がワーケーションなどに取り組む中で、鳥取県が何千人もの応募者を集められる理由は何だとお考えでしょうか。


「よそ者」が、地域の価値に気づける

鳥取県関係人口推進室長 岡本圭司氏(以下、岡本):鳥取県は小回りを利かせて、例えばワーケーションでも家族単位の「ファミリーワーケーション」や、地域の仕事にも関わる「ジョブケーション」など、新しいテーマに率先して取り組んでいることが大きいかもしれません。
小さな鳥取県が、面白いことをやっているという話題性が、人を集めたと思います。通常なら人口が少ないことは弱みですが、そのことを逆手にとって広報で人口最少県を「強み」としてアピールするなど、都市部の人に刺さるよう工夫しました。
域外の人を集める際に重要なのは、地域の困りごとが都市部の人に魅力的に映るよう、磨きをかけることです。地域の視点だけでは偏ってしまうので、域外の人の視点を借りることが不可欠です。

Next Commons Labファウンダー 林篤志氏(以下、林):私も外部の視点を取り入れることが、事業成功の近道だと思います。
地域の価値を事業化するには、主に3つの方法があります。1つは地域固有の資源や課題から、オリジナリティーあふれる何かを生み出す。もう1つは、多くの地域に共通する課題の解決策を生み出し、横展開する。3つ目は、もともと新しい活動に取り組んでいる地元の人たちの中に外部人材の視点を入れて刺激し、次のフェーズに押し上げることです。
域外の人が見て初めて、今まで見過ごされてきたその土地固有の資源や潜在能力、課題を発掘できます。行政の側も、もっと外部の目を活用することを考えるべきです。

広島市経済観光局雇用推進課課長 山根かおり氏(以下、山根):協同労働はお二人の取り組む地方創生とは、やや性質が異なります。
多くの場合、小学校区程度の小規模な地域で、住民が自主的に困りごとの解決に取り組んでおり、外部の人を集めるより、地域内で課題とリソースを発掘して生活支援に取り組むという色彩が強いです。
また協同労働への求心力を高めるには、核となるキーパーソンが不可欠です。各団体のまとめ役を見ると、強いリーダーというよりファシリテータータイプが多いですね。団体の立ち上げ時にも、キーパーソンが町内会などを回って、地域の住民にデータを見せながら、なぜ協同労働が必要か説明し説得するなど、調整能力が求められます。


コーディネーターが活性化の鍵を握る

奥本:続いてコミュニティの活力を高める方策について、お聞きしていきます。

:地域住民のチャレンジ精神に火をつける、起爆剤が必要です。NCLも都会にいる起業家の卵たちを地域に送り込むことで、地元の若者や主婦の「自分たちもやってみよう」というやる気をかき立てようとしています。
地域と外部人材を結び付ける、コーディネーターの力量もポイントです。企業の技術や資本をやみくもに取り込むと、利便性は高まっても人間関係が希薄になりかねません。人間関係の豊かさも含めた町おこしをデザインするという、高度なスキルが求められます。
最近は、企業が社員を数年間「修行」として、NCLの地方創生事業に出向させるケースも増えています。社員たちは四方八方から降ってくる困りごとに、がむしゃらに取り組むことで骨太な人材に成長し、企業へ帰るわけです。企業も本社ではできない挑戦に取り組み、新しいイノベーションを生み出す実験場として、地域に注目し始めています。

奥本:岡本さん、外部人材が入ることで地域にハレーションが起きたり、守りに入ってしまうことはないでしょうか。

岡本:地方は同年代、同質性の高い人が固まりやすく、守りに入るのは防衛本能として自然なことです。特に外部人材の受け入れ経験が少ない地域では、ゆっくりと住民の心を解きほぐす必要があります。
地域側のコーディネーターが安心感を醸成しつつ、都市側のコーディネーターが適切な人材を送り込み、両者を自治体が仲介するという、連携も重要だと感じます。
コーディネーターは活動の牽引役であると同時に、多様なメンバーが安心して考えを表明できる「心理的安全性」を保障する役割も担っています。メンバーがオープンなコミュニティで緩やかにつながって自由に意見を言い合い、共通の目的に取り組んで成長し合える。
まさにキャリア共助の仕組みです。こうした活動を通じて、コミュニティそのものも活性化すると思います。

奥本:山根さんは、協同労働だからこそ活力が生まれやすいといった、メリットを感じることはありますか。

山根:協同労働は「やりがい就労」とも言われます。経営者に命じられるのではなく、全員が話し合って運営することが、活力の源泉だと思います。住民全員がその地域固有の課題を話し合い、一人ひとりが自分の担う仕事を自分で決め、自分の責任で取り組むのです。
もちろん人が集まれば、トラブルはつきものです。話し合いをベースとした運営で、どの団体も意見集約に悩みを抱えています。結局1人に責任が集中することもありますし、立ち上げの相談があっても、設立に至らない団体もあります。
ただ先ほどのお話にあったような、心理的安全性やリーダーシップといった組織論や経営理論を踏まえた人が団体にいると、うまく回ることが多いようです。


自治体は「接着剤」であり「プロデューサー」

奥本:では3つ目のテーマである、自治体や企業、住民との連携の形について、お考えをお聞かせください。

山根:協同労働の団体に行政がおカネを出すのは、立ち上げ時の補助金だけです。ただ組織運営の方法や会計知識といったノウハウについては、ワーカーズコープに委託して立ち上げ前と設立後3年間、伴走支援しています。最近は団体を立ち上げたいという住民が、協同労働の団体に相談する例も現れました。
行政は、既存の団体と新しい団体、協同労働の団体と技術やリソースを持つ企業などをつなげる「接着剤」の役割を担いたいと考えています。

:人口減少社会では、自治体は住民を中心とした共助のコミュニティにある程度、行政サービスを移し、業務をできる限りコンパクトにして、連携を作り出すプロデューサー役を担うべきだと思います。
しかしそのためには、住民票をベースに納税する仕組みなど、基本的な枠組みを大きく変える必要があります。例えば今の納税制度では、渋谷区に住民票を置く人が、ワーケーションや2拠点居住で1カ月の半分を鳥取で過ごすと、鳥取のインフラにただ乗りする形になってしまいます。こうした「歪み」を正す仕組みを迅速に作り出すべきです。

岡本:自治体職員は、地域の内外に緩やかなネットワークを持ち、上手に民の力を借りながら課題解決策を設計する、コーディネーターの役割を求められています。職員が直接手を動かし、住民に喜んでもらうことは大切ですが、これからは住民の笑顔をずっと見続けるためには、どうしたらいいかを考える視点が必要でしょう。
ただ地域が外部人材を受け入れる際、人材の信頼性を担保する「信用保証」の役割は、引き続き自治体が担うべきだと思います。


民でも公でもない新領域をつくるイノベーション

奥本:最後に、コミュニティづくりに踏み出そうとしている自治体や企業などに対して、エールやメッセージをお願いします。

岡本:先が見通せない社会が到来し、コミュニティが多様なシステム、多様な人材を取り入れる必要性は従来以上に高まっています。自治体が外から人を呼び寄せるには、人材の期待に応え、地域と外部の人たちが共に成長できる仕組みを作ることが重要だと思っています。
鳥取県も引き続き努力を続けていくつもりです。

山根:行政は、本当に変わらなければいけない、と思います。これからは我々行政職員もどんどん外に出て、住民や企業と一緒に課題解決に取り組んでいければと考えています。
また要望があれば、広島市から他の自治体・企業などへ協同労働のノウハウを提供しますし、逆に皆さんから、地域に入り込むための新たな方法があれば、ぜひご提案いただきたいと思います。

:私はこの状況を、本当に面白い時代が来た、チャンスだと捉えています。
自治体と企業、住民が連携し、公でも民でもない「コモンズ領域」を作り出すという大きなイノベーションに、参加しない手はありません。ぜひ皆さんと一緒に、日本ならではの持続可能な自治の姿を実現させたいと考えています。

執筆:有馬知子