シンポジウム動画・報告 「つながりの時代ーキャリアの共助が未来をひらくー」【事例紹介】協同労働のポテンシャル ー新たな働き方で地域課題を解決!ー

リクルートワークス研究所では、2021年7月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月16日に行った「DAY3 地方を元気にする『オンライン関係人口』と『非営利の仕事』」の事例紹介の動画とサマリーを公開します。

協同労働のポテンシャル―新たな働き方で地域課題を解決!(事例紹介)広島市経済観光局雇用推進課課長 山根かおり氏

メンバー全員が出資・経営・労働を担う「協同労働」

協同労働は、働く人全員で出資、経営、労働のすべてを担う働き方です。一般的な企業は、社員は経営者に命じられた仕事を担い、経営に関与しません。また企業は、出資者である株主の意向も無視できません。

これに対し協同労働は、メンバー全員が事業資金を出資し、やるべき仕事や取り組みたい事業、改善点などを話し合って決め、必要な仕事とその責任も、全員で担います。利益を得て経営を継続するため、事業計画を立てることは企業と共通していますが、雇用関係にとらわれず、自分らしく働くことを目指す形と言えます。

広島市では、協同労働をコミュニティの再生ツールと考え、2014年度から協同労働プラットフォームと個別団体への補助金という、2つのモデル事業を実施しています。プラットフォームでは専門のコーディネーターが、事業計画の作成から立ち上げ後のフォローまで、伴走してサポートし、設立のめどが立った団体には、市が立ち上げに要する費用の2分の1(上限100万円)を支給します。

協同労働モデル事業は、元気な高齢者が地域で仕事を興し、地域課題の解決に当たることを目的としているため、出資者の半数が60歳以上であることが、補助金の交付条件です。


居場所づくりや生活支援、里山保全……26団体が活動

協同労働団体は現在、広島市内に26団体あり、市民約300人が活動しています。活動のタイプは、大きく5つに分かれます。

1つ目は、町内会や自治会、社会福祉協議会など地元の組織が主体となって協同労働団体を作り、地域の困りごと解決に取り組むこと。2つ目は、自分たちが気軽に集まれる地元の「居場所」を、自分たち自身で作ること。3つ目は、収益を追求せず、地元でとれた農産品などを、住民が楽しみながら販売し、地域の活性化に取り組む活動。4つ目は、住民がこれからも地域で安心して暮らし続けられるよう、コミュニティ再生に挑む活動。5つ目は、子どもの頃からある風景を守り伝えたいという思いから、里山を継続的に整備し生かすための活動です。

ただ最近、5つのタイプのほかにも、マンションコミュニティの活性化や、公共交通機関が通っていない地域の交通手段の研究、若年層も参加するフリーマーケットの開催など、立ち上げの相談が非常に多様化してきました。このため今後は、60歳以上という年齢制限の撤廃も、検討する必要があると考えています。


地域の困りごと解決が、やりがいになる

特徴的な団体を2つご紹介します。

「アグリアシストとも」は、農家の高齢化で耕作放棄地が問題となっていた地域で、田園風景を次の世代に引き継ぎたい、という強い思いを持つ住民たちが2019年に設立しました。

農家の草刈りや植え付け、農機具の点検などを代行するほか、農協とも連携して地域住民の困りごと支援も手掛けています。ただ活動に必要な備品代がかさむ一方、住民からあまり高い料金を取ることもできず、収支のバランスを取ることが課題となっています。

「びしゃもん台絆くらぶ」は、地区の社会福祉協議会と町内会が母体となり、2019年に設立されました。高齢化の進んだ団地を、魅力ある地域にしたいという住民たちが、高齢者の買い物や掃除などを支援するほか、町内会のお祭りの企画・設営なども手掛けています。

住民が活動の担い手となることで、やりがいを作り出す役割も果たしています。最近は、高齢者の新型コロナワクチンの接種漏れをなくそうと、接種予約の代行や会場への付き添い送迎サービスも始め、地元メディアでも大きく取り上げられました。


つながりの要となる個人・団体の育成が課題

協同労働という働き方には、大きな可能性があります。少子高齢化、家族単位の縮小に伴い、人と人とのつながりが生まれにくくなっています。近所づきあいを避けても生活が成り立つため、趣味を優先するなどして、地域コミュニティへの参画意欲も薄れています。

協同労働は豊かな知識と経験、そして高い意欲を持つ人が、自発的な意思で働く仕組みです。住民が一緒に、地域の実情に応じた課題解決に取り組むことで、担い手にやりがいや郷土愛も育まれます。協同労働を始めた地域で住民に聞くと「無償では頼みづらいが、有償だと気兼ねなく仕事を頼める」「賃金が出るので働きやすい」など、利用者と担い手双方から好意的な声が聞かれます。

ただ団体をまとめるには、中心となる人物や、町内会など核となる団体が必要だと感じており、要となる人材・団体を育てる仕組みを作ることが課題です。特に立ち上げ時は、メンバーたちが強い思いを持ち、住民を説得し、理解を得る活動が求められます。

広島市は、市民に協同労働のメリットを理解し活用してもらうことで、持続可能な地域コミュニティの実現を目指します。今後も協同労働の普及を、後押しするための事業に取り組みたいと考えています。

執筆:有馬知子