シンポジウム動画・報告 「つながりの時代ーキャリアの共助が未来をひらくー」【講演】孤独・孤立対策に関する政府の取組について

リクルートワークス研究所では、20217月に3日間のオンライン・シンポジウムを開催しました。以下に、7月1日に行った「DAY1 企業社会のゆらぎとキャリアの孤立は「共助」で越える」の講演の動画とサマリーを公開します。

孤独・孤立対策に関する政府の取組について(講演) 内閣官房 孤独・孤立対策担当室長 谷内繁氏


「お役所仕事」と違う知恵必要 孤独・孤立担当相が言明

日本における孤独・孤立の問題は、担当大臣が置かれる以前から存在していました。国際比較を見ると、日本は他の先進国に比べて孤独を感じる割合が高く、自殺者数も多いという結果が出ています。

それに加えて近年、社会環境が変化し、かつて強固だった血縁や地縁、職場の縁などが希薄になりました。こうした問題が、コロナ禍によって顕在化したと言えます。特にコロナ禍以降、政府もさまざまな対策を打ち出していますが、本当に必要な人に支援が届いてないのではないか、という問題意識も生まれました。

政府・与党内で、孤独・孤立に関する複数の勉強会が開かれ、国会でも議論されるようになったことで、孤独・孤立対策が内閣の課題として浮上しました。英国で2018年1月、政務官クラスの閣僚を孤独担当大臣に置いた前例も、対策を後押ししました。

こうした経緯から今年2月、孤独・孤立対策担当大臣のポストが設置され、坂本哲志氏が就任しました。専従職員6人と兼務の私からなる、孤独・孤立担当室も立ち上げられました。坂本大臣は、担当室発足時の訓示で「大学で学ぶ価値は、誰も見たことのない知を生み出すための知を身につけること」という上野千鶴子・東大教授の言葉に触れ、職員に「従来の『お役所仕事』とは違う風景の中に立ち、役所で身につけたものとは違う知恵を持って対応してほしい」と話しました。


政府、自治体、NPOの支援を分かりやすく整理 全国調査も実施

担当室設置後の2月25日、首相官邸にNPO代表ら10人を招き、現状を聞くための緊急フォーラムが開かれました。会合には菅義偉総理、加藤勝信官房長官、坂本大臣らが出席し、熱心に耳を傾けていました。

政府はこうした現場の声を踏まえて3月、自殺防止や子どもの学習支援、生活困窮者やひきこもりの人に対する生活や住まいの支援、フードバンク、子ども食堂などに取り組む団体を支援するため、60億円の予算を計上すると発表。その後、貧困のために生理用品を買えない女性の問題なども浮上し、女性支援や子どもの居場所づくりも対象となりました。

具体的な支援制度については、政府にはすでに出生時から退職後の高齢期を迎えた人まで、ライフステージに応じた支援が存在します。自殺防止、生活困窮者対策、ひきこもり施策、被災者支援、犯罪被害者支援など、属性や生活環境に応じた支援も実施しています。

このほかにも地方自治体独自の取り組みや、NPOの事業があります。ただこれらの支援に関する情報が整理できていないことが、政府や自治体、NPO共通の課題でした。このため我々は、情報を分かりやすく示す「オールジャパン」の孤独・孤立支援の総覧を作り、困っている人が使いやすい体制にしたいと考えています。

またこれまでは、孤独・孤立に関する全国的な調査をしたことはありませんでしたが、今年度、実態把握のため約2万人を対象に全国調査を実施する予定です。今年12月から来年1月に調査を実施し、来年3月の公表を目指します。孤独・孤立で苦しんでいる人には、調査票が届きづらいことも考えられるので、支援者やNPOなどを通じて当事者へのアンケートも併せて実施し、調査を補完したいと考えています。

さらに、内閣官房が開設している既存のホームページが分かりにくいとの意見もあり、NPO関係者などに参加してもらって、サイトをリニューアルするための企画委員会を立ち上げました。8月ごろに開設予定で、孤独・孤立の支援を求める人がアクセスしやすいサイトを作りたいと考えています。


行政だけでは届かない 支援のプラットフォームをつくる

政府が6月に発表した来年度予算の基本方針では、孤独・孤立対策について、新たに電話・SNS相談の24時間対応の推進、居場所の確保、アウトリーチ型支援体制の構築、SOSを発信しやすい社会の構築などが盛り込まれました。我々も年内に重点計画をとりまとめ、官庁横断で取り組みたいと考えています。

ただ行政だけでは、孤独・孤立で苦しむすべての人に、支援を届けることはできません。全国各地に、地元のNPOや各種相談支援機関、支援者などのプラットフォームをつくり、苦しむ人に寄り添える体制の整備や、人と人とのつながりを実感できる地域づくり、社会の気運の醸成を図っていきます。

また2月に開催したようなフォーラムを6月以降、10回ほど開き、NPOや自治体などの声を、政策に反映したいと考えています。皆さんもぜひ、内閣官房のホームページやツイッター、フェイスブックなどに孤独・孤立施策に対するご意見をお寄せいただければと思います。

執筆:有馬知子