研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.3高齢者を活かさない労働市場 大久保幸夫

本格化した人口減少、慢性的な人手不足、長時間労働の規制強化、平均寿命や健康寿命のさらなる伸び、そして人生100年時代の到来。
どう考えても高齢者の労働力ニーズは高まる環境にあるのに、なぜか高齢者の就業状況は芳しくない。
リクルートワークス研究所が実施した全国就業実態パネル調査のデータはそれを如実に物語っている。
2015年に未就業でかつ就業希望がある人で、2016年に入職した人は、59歳以下では41.1%あるのに、60歳以上では14.6%にすぎない。就業を希望しても、それを実現できる人はたった14.6%しかいないのだ。残り8割強の高齢者は職を得ることができないでいる。(図表1)
なんとももったいない話である。
55歳以上の年齢で、10年以上の職務経験をもち、プロフェッショナル・レベルの専門性をもつシニア・プロフェッショナル人材は、全国に約300万人いると推計される(ワーキングパーソン調査2014)。プロフェッショナル・レベルとは、「自分の知識や技術が高く評価されている」もしくは「第1人者として社会的に認められている」人材である。
この人たちは企業の欲しい人材ではないのだろうか。

図表1 2015年に未就業かつ就業希望あり、2016年に入職した人item_works03_ookubo_ookubo4.png

職業人生のロスタイム?

2013年に改正高年齢者雇用安定法によって、希望すれば65歳に達するまでは再雇用という形で雇用の場が確保されたのだが、この法改正が両刃の剣だったのかもしれない。もともと求人が少ない60歳を超えた人々に定年退職を迎えた会社で雇用機会をつくってもらえて、年金支給までの所得を保証してもらえるということはとてもありがたいことに違いない。しかし、これによって55歳から64歳が完全に「ロスタイム」のようになってしまった。全力で仕事をするというのではなくハーフリタイヤのような形での働き方をしているのである。
古い時代の定年年齢である55歳は、いまも役職定年などの形で企業組織には影響が残っており、役員などに昇進した一部の人は別として、多くの人は第一線を退く形になる。本来は60歳定年延長に向けてセカンドキャリアの準備をしなければいけないときだが、希望すれば(給料は大幅に下がるが)再雇用してもらえるという安全パイがあるため、準備をしない。

内閣府が実施している「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2015年)をみると、50代までに老後の経済生活に備えて、働いて収入が得られるように職業能力を高めることをしていた人はわずか6.4%。リクルートワークス研究所が実施した「60代の就業に関する調査」(2011年)をみると、就業している60代のうち、50代までに老後の働き方について家族に相談していた人は22.7%、会社を探し始めていた人は21.1%にとどまる。

シニアを活かす「発明」を

定年をきっかけに他社で再就職した人の実態をみてみよう。もう一度全国就業実態調査をみると、過去2年間の間に定年退職した人で、再就職した人のうち57.4%が、定年前に働いていた業界と別の業界で働き、かつ定年前に働いていた職種と別の職種で働いているのだが、この人々が得ている時間当たり給与はわずか956円である(図表2)。いままでに経験したことがない分野で新たな仕事を得ているため、仕事満足度は低くないのだが、平均時給1000円未満とはあまりにも寂しくないだろうか。

私自身も60歳という定年退職年齢がみえる位置に来て、ますます高齢者の労働市場に対する問題意識が強くなってきた。高齢者の経験とパワーを活かさない手はない。そして納税者にしないと、日本経済はもたないとも思う。
企業は高年齢者雇用安定法を遵守するのが精一杯で、外から高齢者を採用する余裕はないのだろう。そして、高齢者をうまく使いこなすマネジメントを展開できる人は少ないのだろう。
これらの課題を越えて、シニア人材を最大限活かすことができるイノベーティブな会社が登場しないものだろうか。その会社はパイオニア・アドバンテージによって完全に一人勝ちの状態になるだろうし、ぜひ肩入れしたいと思うのだが。

図表2 定年後再就職した人の移動(過去2年間)item_works03_ookubo_ookubo3.png注)%はウェイトバック集計している。
出所:図表1・2ともに「全国就業実態パネル調査2017」(リクルートワークス研究所)

大久保 幸夫

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