研究所員の鳥瞰虫瞰 Vol.2日本の資格・検定をなんとかしたい 大久保幸夫

かなり昔からずっと考え続けていることに職業資格・検定の作り替えという問題がある。
2000年頃には、イギリスが作ったNVQという国家職業資格制度のようなものを日本流にアレンジした日本版NVQの立ち上げを提言したこともあった。
なぜこだわっているかといえば、職業能力を研究する立場として(実はあまり知られていないが、私のメイン研究テーマは職業能力である。だから最初に書いた本も『能力を楽しむ社会』だった)プロとしての専門性を社会的に証明するしくみがないということが納得できなかったから。そして次のキャリアのために勉強して、資格をとった人が報われていないのを見てきたからだ。
日本には国家資格、公的資格、民間資格を合わせると3000を超える資格があるとされている。「職業資格で」「一定の市場性・普及性があるもの」として、ハローワークにおいて「免許・資格コード」として一覧化されているものに限定しても1200余りある。これらをきちんと機能させるためにはどうしたらよいのかと悩み続けてきた。
人事部門にいる人はわかるだろうが、資格を持っているからといって、採用されるわけでもないし、昇進するわけでもないし、給与が上がるわけでもない。評価されるのは実務での実績であり、保有能力は対象にならない。いや、保有能力は教育訓練の目標でもあるから大事なのだが、資格は保有能力を正しく伝えているとは思えないということかもしれない。
しかし社員をプロフェッショナルに育て上げることは、いまやどこの企業でも目指していることだし、メンバーシップ型からジョブ型に日本も変わっていくとしたら、有効な資格・検定制度は不可欠なはずだ。

ここで日本の職業資格制度について簡単におさらいをしておこう。
資格はその効力によって大きく3つに分類される。
第一に「業務独占資格」。基本的に生命の安全確保に直結するもので、その資格を持っていないとそもそもその仕事ができない。全部で111制度あり、代表的なものとして、医師(医師法)、弁護士(弁護士法)、公認会計士(公認会計士法)などがある。
第二に「必置資格」。設置義務資格とも呼ばれ、特定の事業を行う場合にその事業所などに決められた資格保持者を必ず置かなければならないと法律で定められている資格のことである。 代表的な資格に保育士や、旅行業務取扱管理者 、宅地建物取引士、通関士などがあり、全部で152制度ある。
そして第三に「名称独占資格」。有資格者だけが名乗ることを認められている資格で、資格取得者以外の者がその資格の呼称を利用することが法令で禁止されているものである。49制度あり、代表的なものに技能検定がある。技能検定は、企業横断的・業界標準的な普遍性を有する技能や知識を客観的に評価するもので、現在128職種に設定されている。取得者は「技能士」という名称を独占的に使用することができる。その他多種多様な資格があるが、これらは強いて言えば能力検定型で、能力開発の動機付けとして活用されるものだ。図で確認していただきたい。

私なりに考えた改革案は、3つあった。
1つは職業資格を実践的な職業能力を証明するものにすること。つまり資格を持っていれば、実際にどのレベルのプロの仕事ができるかを明確に物語っているようにすることだ。実際に取り組んだのは「キャリア段位制度」の開発だった。たとえば介護分野での介護実務の能力を7段階で示して能力を評価するのだが、知識と技術の両面から評価し、技術については評価者が現場で実務を観察しながら評価していくようにした。関係者の努力によってとても素晴らしい制度ができたのだが、政権交代があって波にもまれている。
2つ目は技能検定のブラッシュアップだ。ものづくり分野に偏っていた技能検定を、対人サービス分野にも広げて、職業領域全体で機能するように試みた。業界団体に試験を実施する機関になってもらって、各企業を巻き込みながら作り上げていってもらう。現在8つの団体が、厚生労働省からの補助を受けて開発中だ。まだ技能検定としては正式には承認されていないため暫定的に業界検定と呼んでいる。
3つ目には社内検定をバージョンアップすることだ。社内特殊的技能が複雑に絡み合って職業能力を構成しているので、社会検定のうち会社をまたぐ部分に既存の資格・検定をあてはめて、企業ごとにカスタマイズすればいいのではないかと考えた。厚生労働省に認定社内検定という古い制度があったので、それを改変・強化する方向でトライしている最中である。
いずれも厚生労働省や内閣府の事業を私が支援する形で行っている。

ただ、まだこの3つだけでは不十分だと思っている。ではどうするか?
ぜひ読者のお知恵をお借りしたい。

大久保 幸夫

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