HR Technology 世界の人事が注目する「HRテクノロジー」2023採用アナリティクス

Hiring Analytics 代表的なサービスHiring Analytics 代表的なサービス
出所:TTL "Talent Acquisition Technology Ecosystem 11(2023.1)

採用アナリティクスとは、ATS(応募者追跡システム)やHCM(人材管理システム)、パフォーマンス管理システムなど、企業内のさまざまなシステムに保管されている採用プロセスや成果に関するデータを収集・統合するサービスである。
企業の採用経路やコスト、採用に要した時間、採用情報サイトへの訪問経路や閲覧行動、採用者の定着率、採用プロセスに関する候補者や採用担当者の満足度などを、図表化し視覚的にわかりやすく示す。AIが採用にかかる日数や欠員ポジション数、新規採用者の入社後の活躍や定着の度合いなどを予測する「プレディクティブアナリティクス(予測分析)」機能を備えるサービス事業者もある(※)。

サービス事業者の概要は下記のとおりである。

  • 採用とタレントマネジメントを最適化するタレントアナリティクスプラットフォーム。地域・部署・職種・デバイス別の採用経路や、YouTubeやポッドキャストなどを活用した採用マーケティングの成果を自動追跡する。また、採用情報サイト上の求職者の閲覧行動を自動録画で可視化し、サイトの問題点を明らかにする。さらに、候補者体験に関するフィードバックをアンケートやチャットボットでリアルタイムに収集・分析する。(Talentegy
  • ピープルアナリティクスプラットフォーム。ATS やHCM、従業員サーベイプラットフォームなどからデータを自動的に収集する。採用に要した時間や採用者数、採用単価、採用担当者や配属部署別の新規採用者の離職率などを分析する。(One Model
  • 候補者体験のアナリティクスプラットフォーム。250種類以上の質問が保存されたライブラリーを基にサーベイを作成し、候補者や採用担当者、ハイアリングマネジャー(入社後配属となる部門の責任者)から採用プロセス全体に関するフィードバックを自動収集する。(Talenthub
  • ピープルアナリティクスプラットフォーム。企業は採用経路別の採用者数などを把握できる。生成AIを活用した「Crunchr Assistant」では、自然な会話でAIに採用者数などについて質問し、必要なデータを収集し即時表示する。GDPR(EU一般データ保護規則)に準拠した高度なセキュリティを備えている。(Crunchr
  • タレントサーベイプラットフォーム。企業の採用情報サイトに自動サーベイ機能を組み込み、候補者体験に関するデータをリアルタイムに収集する。(Survale
  • 要員計画プラットフォーム。ATSと接続し、欠員予定のポジション数や離職リスクの高い従業員の数などを分析する。(Foresight
  • HRプラットフォーム。採用、タレントマネジメント、従業員体験などに関するデータを一元化する。企業は採用コストや採用に要した時間、職種別の採用経路、採用情報サイトへの訪問経路や求人情報のクリック数などを検索できる。(Talentech
  • 人事やIT、マーケティング、営業部門向けのBI(ビジネスインテリジェンス)ツール。ユーザーがセルフサービスでデータを探索できる。企業は採用プロセスの効率化や採用経路の最適化、多様性の向上などを図ることができる。(Qlik
  • 営業や販売職などの採用をサポートする、タレントインテリジェンスプラットフォーム。プレディクティブアナリティクス機能がコミュニケーション力や問題解決力など、企業のハイパフォーマーに共通する特性を分析し、所要時間約10分のサーベイを基に入社後の活躍が期待される候補者を見極める。(PerceptionPredict、Searchlight
  • 企業や人材紹介会社向けのダイバーシティ採用自動化プラットフォーム。人材プールや採用者の多様性などを測定する。(Diversely

人事との関連性

企業は複数のシステムに分散された情報を整理する手間を省くことができる。また、ATSに保管している採用にかかる時間や採用コストなどのデータと、ほかのシステムに保管している定着率や入社後の従業員のパフォーマンスに関するデータを一元化できるため、採用の成果を多面的に判断できる。

サービス例

1. Visier

代表的なピープルアナリティクスプラットフォームである。ATS、HCM、パフォーマンス管理システム、従業員サーベイシステム(Qualtricsなど)、コラボレーションツール(SlackやGoogle Workspaceなど)と接続し、企業のシステム内に散在するデータをクラウドで一元化する。
2000種類以上の質問のライブラリーを備え、企業が「欠員ポジションの数は?」といった質問を選ぶと、回答が図表とともに表示される。地域や部門、職種、採用経路別の応募者数や採用者数、特定の期間に実施した採用イベントの数、採用に要した平均時間やコスト、新規採用者の定着率なども簡単に検索できる。
またプレディクティブアナリティクス機能では、過去の歩留まり率やコンバージョン率などを基に採用に要する日数などを予測する。従業員の退職リスクを分析し、退職者数も予測できるため、企業は事前に入念な採用計画を立てることができる。
Visierの生成AIを活用した「Vee」機能では、企業は日常的に利用しているMicrosoft TeamsやSlackなどのチャットでAIに質問できる。
顧客は、Ford、Panasonic、Bridgestone、eBay、Standard Bank Group、Amgenなど。

2. Crosschq

採用インテリジェンスプラットフォーム。ATSと接続し、応募者数や採用フローの各工程に要した時間、歩留まり率、採用担当者別の面接の所要時間、採用経路別の内定承諾率や採用者数、採用単価、入社後の定着率を図表で見ることができる。さらに、各工程で候補者や採用担当者、ハイアリングマネジャーに採用プロセスに関する満足度や新規採用者の評価を自動収集し、NPS(ネットプロモータースコア)で示す。企業は高い成果を上げている採用経路や採用担当者、採用フローの課題などを把握できる。
また、楽観性やストレス耐性、コミュニケーション力、チームワーク力など、候補者の行動特性やソフトスキルに関して前職のマネジャーや同僚と、候補者本人が評価する360度評価機能を備える。Crosschqとパフォーマンス管理システムを接続し、評価結果を新規採用者の入社後の業績と照合することで、企業は自社のトップパフォーマーに見られる特性やスキルを職種別に把握できる。
顧客は、GoPro、Slack、ZoomInfo、Glassdoor、Eventbrightなど。

ビジネスモデル(課金形態)

企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業が採用データを収集・統合するシステムの利用料を支払う。企業の従業員規模や採用予定数などによって、複数の月額制料金プランを設けているサービス事業者もある。

採用アナリティクス ビジネスモデル図

今後の展望

近年、効果的な採用活動を行うためにデータ分析を利用する企業が増えている。Korn Ferryが2023年に実施した調査によると、採用担当者の76%が「自社では2年前よりも、データ主導の採用戦略が進んでいる」と回答した。
企業は採用アナリティクスで応募完了率や内定辞退率などのデータを把握することで、ボトルネックとなっている工程を特定し、採用プロセスの改善に対して的確にアプローチできる。採用経路別の成果やコストが明確になるため、費用対効果を高めることができる。また、優秀な人材の共通点を可視化し、採用のミスマッチを減らすことができる。
さらに、自社の中長期的な採用ニーズを正確に予測することで、採用に要する時間などについて現実的な見積もりを立て、欠員が発生する前に採用活動を始めることが可能となる。
採用アナリティクスを採用プロセスの最適化に役立てるためには、適切なデータを時間をかけて収集・蓄積・分析し、成果を長期的に測定することが必要である。

グローバルセンター

(※)過去のデータを基に、機械学習技術、統計モデリング、データマイニングなどの技術で将来の結果を予測する手法を指す。