グローバル企業採用責任者11人が語る パンデミックは採用をどう変えたのかイントロダクション

コロナ禍でもグローバル企業の採用活動は継続

「人材獲得競争」「採用テクノロジーの再構築」「リモート採用」の3つの課題に挑む

2020年3月に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大について「パンデミック」を宣言してからこれまで、グローバル企業の人事は、それぞれの採用課題に対してどのような対応策をとってきたのだろうか。また、パンデミック後の「ニューノーマル」や雇用の未来はどうなるのだろうか。

本プロジェクトは、2020年のパンデミック以降の企業の採用動向やその変化、採用の質や量への影響、採用手法やプロセスの変化、新たに導入したHRテクノロジー、そして採用業務のオンライン化の状況について明らかにすることを目的としている。グローバル企業11社の採用責任者とアナリストとともに、パンデミック後の約1年間の採用活動について、レビューを行った。インタビューにあたっては、CareerXroads共同代表であるジェリー・クリスピン氏、クリス・ホイト氏にも協力していただいた。

パンデミックによって、採用計画は二極化が鮮明に

パンデミックは人材の採用にも大きく影響を及ぼし、業界別に明暗が分かれた。観光業や旅客業といった、移動の制限やロックダウンによる営業停止などのあおりを受けた業種は特に打撃が大きく、従業員のリストラや一時帰休、他部署への人事異動、他社への雇用シェアを余儀なくされた。突然の大規模なリストラに人事としてどう向き合うべきか。また一時解雇した従業員をどう繋ぎ止め復職させるかなど、非常に難度の高い問題に直面している。
一方、巣ごもり需要の追い風を受けて業績を伸ばした宅配飲食やスーパー、量販店などでは、さらに人手不足が喫緊の課題となり、これまでの採用プロセスを見直して大量採用にシフトするなど、二極化はより鮮明となった。

経済再開に備えて進む人材獲得競争

経済の再開が進む北米では、あらゆるレベルで人手不足問題が浮上し、人材獲得競争が激化している。インタビュー協力企業のほとんどはパンデミック下でも採用を継続していた。米労働統計局の雇用統計によると雇用者数は増えつつあるが、たとえば低賃金労働者は、連邦政府の失業保険追加支援策の恩恵を受け、低賃金の職場への復帰を忌避する動きもあるという。企業側は応募してきた人材を逃さないために、採用にかかる日数を短縮し、採用後、短期間で即戦力化する。また、応募者には時間をかけて丁寧に対応する、といった試行錯誤を重ねている。人手不足が解消できない企業は、フリーランスなどの雇用類似就業者の活用、または人工知能(AI)やロボット、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)を導入し、業務の一部を自動化して生産性向上に取り組むなど、テクノロジーやDXへの投資も加速している。

採用テクノロジーの導入が加速

パンデミック以前から、企業は採用テクノロジーの導入にシフトをしていたが、パンデミック以降、多くの企業は迅速な対応変化を迫られた。新型コロナウイルス感染症の流行は、企業のDXへの取り組みを一気に加速させた。インタビューでもHR部門ではテクノロジーの再構築に取り組む企業が多く見られた。人材の採用から給与計算までの基幹となる人事管理システムに加えて、従業員のエンゲージメントを高めるものや、パンデミックが収束した後に起こる課題を見据えての対応、採用の自動化などを本格導入する企業もある。

ニューノーマルはリモート採用

インタビュー協力企業では、サービスや製造業を除くほぼすべてがリモートワークに切り替えている。採用活動もオンラインへと移行している。面接はリアルな対面ではなく、オンライン面接が普及して、今やスタンダードとなったことは、パンデミック後のいちばんの変化だろう。採用のためのインターンシップ、キャリアフェア、説明会もオンラインに切り替えられている。オンライン説明会の効果を実感した企業が多く、複数の大学キャンパスを訪問して就職説明会や面接を行うという従来のオンキャンパスでの採用活動離れはさらに進むという。
インタビューによると、リモート採用のメリットは、「対象地域の拡大」「候補者の裾野が広がる」「面接日時も調整しやすい」などダイバーシティへの対応につながることだという。デメリットは、内定者が「職場の雰囲気や社風を実際に体験する機会が減少した」ことで、解決策として入社前フォローなどの「オンボーディング」を行ったという企業も複数ある。

パンデミック収束後の未来への道筋

パンデミック収束後に起こる事象の予測については「人材獲得競争が激化」「労働移動」などの労働市場の活発化が挙げられた。ほかには「従業員の定着」「報酬や待遇の変化」といったリテンションに関することや「対話型AIの汎用化」「リモート採用プロセスの向上」などの技術の向上を伴うもの、「国境を越えた人材移動」などが予測されるという。
また「採用担当者のリスキリング」も挙げられた。テクノロジーを知り、使いこなせるHR人材の育成は、採用の未来の鍵でもある。非常に重要な要素になるだろう。

企業インタビューは、いまだコロナ禍にある現在の状況を投影する内容で、それぞれの取り組みは非常に参考になる有意義なものであった。各企業の取り組みについては、連載で詳述する。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

〈インタビュー概要〉
・目的:パンデミックが米国企業の採用活動に与えた影響とその対応策を明らかにする
・インタビュー方法:オンラインによる対面デプスインタビュー
・実施時期:2021年2~3月
・対象企業:グローバル企業11社の採用責任者・アナリスト 
Lowe's Companies、Marriott International、Celanese、Ernst & Young、F. Hoffmann-La Roche、Marsh & McLennan、Uber、Thoughtworks、Centene Corporation、Aptitude Research、exaqueo(順不同)