全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2021上司のサポートでワーク・エンゲージメントは向上するのか? 矢橋正二郎

ワーク・エンゲージメント(以下「WE」)とは、一言でいえば「働きがい」と言えるだろう。学術的な定義としては、「生き生きと働いているか」「誇りとやりがいを感じて仕事をしているか」「熱心に仕事に取り組んでいるか」の3つの要素から定義される。
その「働きがい(=WE)」を高めるということは、前向きに仕事に取り組んでいることを意味し、働く人個人にとってももちろんプラスであるが、企業側にとっても、この人手不足の状況のなか、離職者を減らすことにもつながるというメリットがある。

では、日本における働く人のWEの現状はどうだろうか。正社員に限って全国就業実態パネル調査(以下「JPSED」)で算出したところ、WEが高いとする人の割合は、この3年で2割にも満たず、数値も横ばいである(図1参照)。それは世界的にみてどうなのか。調査方法は異なるが、2017年に米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施したエンゲージメント調査では、日本の「熱意あふれる社員」はたった6%で、139カ国中132位という結果であった(日経新聞2017年5月26日)。

図1:年ごとのWEの高い人(正社員のみ)の割合
年ごとのワークエンゲージメントの高い人(正社員のみ)の割合

注:各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計である。

では、WEを向上させるにはどうすればいいのか?
先行研究によると、「個人の資源」や「仕事の資源」がWEを向上させる要因として挙げられている。「個人の資源」とは、個人の性格に近いもので、粘り強く仕事に取り組む、積極的に取り組む姿勢があるなどを指す。「仕事の資源」は、仕事の裁量権や上司や同僚などによるサポートなどを指す。ここでは、その「仕事の資源」のうち「上司のサポート(指導)」にフォーカスしてみたい。それは、日本企業での人材育成の主流であるOJTにも等しいと言えるためである。

上司のサポートは二つに分けられると考えられる。一つは、社内の人材育成計画に基づき、たとえば営業職の新人が1年後には新規受注を得られるようになるために、提案書の作成方法やそのプレゼン手法などの指導を行うフォーマルなサポート(以下「フォーマル」)。もう一つは、人材育成計画には明記されていないが、たとえば仕事に悩んで不安な気持ちを抱えている様子の部下に対し、その不安な気持ちを和らげるために「今のプロジェクトで何か悩みある?」という声かけを行うなどのカジュアルなサポート(以下「カジュアル」)である(注1)。それぞれに分けてWEへの効果を分析してみよう。

新型コロナ感染症の拡大前(2018年と2019年)とコロナ禍を含んだ年(2019年と2020年)で、WEに影響を与えると考えられる職種や企業規模、個人属性などを制御し分析すると、コロナ前では、カジュアルとフォーマル両方の上司のサポートを全く受けていない人よりも、フォーマルなサポートがある場合は、WEの高い人が3.7%多いことがわかった。さらに、カジュアルなサポートは4.7%多いこともわかった(図2参照)。

コロナ前とコロナ禍の違いとして考えられるのは、コロナ禍では感染防止のためにテレワークが広まったことだろう。その状況においても、同様に上司のサポート(フォーマル、カジュアル)を受けた人は、受けていない人に比べてWEが高い人が多いこと(それぞれ6.1%、4.0%)がわかった。つまり、上司のサポートは、コロナ禍でも、カジュアル、フォーマルともにWEを向上させる効果があると言えるだろう。

図2:上司のサポートがWEに与える影響上司のサポートがワークエンゲージメントに与える影響

注:図中の数字は限界効果を表す。アスタリスクは有意水準を表している(***:1%水準で有意、**:5%水準で有意)。

ただ、テレワーク下では、すぐ近くに上司がいる対面と異なり、上司のサポートが減る傾向にあると考えられる。そのため、もしコロナ禍が収束した後でも、組織として引き続きテレワークを推進する場合は、それを意識的に増やしていくこと(カジュアル、フォーマルともに)で、対面の場合と変わらず働く人のWEを維持できる可能性があると言える。
特に、通常のフォーマルなサポートは、テレワーク下でも業務を進めるうえで必要なので行われるが、カジュアルなサポートは忘れられがちではないだろうか。それを念頭において、たとえば、オンラインでの指導においても、業務上の報告・連絡・相談以外にも、雑談のために時間を割いてみてはいかがだろうか。

(注1)JPSEDでの「あなたは、仕事の実務を通じて、新しい知識や技術を習得する機会がありましたか」という設問に対し、「教育プログラムをもとに上司や先輩等から指導を受けた」の回答を「フォーマル」、「必要に応じて上司や先輩等から指導を受けた」の回答を「カジュアル」としている。

矢橋正二郎(一橋大学大学院博士前期課程 JPSEDインターンシップ生)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
矢橋正二郎(2022)「上司のサポートでワーク・エンゲージメントは向上するのか?」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.8https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail008.html