全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」20211年で4割 フリーランスからの離脱 小前和智

フリーランス(注1)を続けることは簡単なことではない。「フリーランス白書2021」(フリーランス協会)は、コロナ禍でフリーランスの多くが収入減少を経験するなか、セーフティネットの整備が十分でないことを指摘する。本稿では、時間や場所にとらわれず、企業にも雇われず、仕事を請け負って働いているフリーランスの定着・退出を、JPSED2018~2021の4か年のデータを基に論じたい。

表1には、連続する2年間の就業状態の変化を示した。表側にある年(ここではt年と表示)の就業状態を、表頭にはその翌年(t+1年と表示)における就業状態の変化をそれぞれ記載した。フリーランスとして働いている人が翌年もフリーランスであるのは6割である(注2) 。4割ものフリーランスが翌年には他の就業形態で働くか、無業になっている。雇用者では9割以上が翌年も雇用者のままであることと対照的である。

表1 就業状態間の移動
表1 就業状態間の移動

対象:20歳以上の既卒者であり、連続する2か年に回答した者
JPSED2018~2021の4か年分を使用
ウエイトは脱落ウエイト(xa17_I16,xa18_I17,xa19_I18,xa20_I19,xa21_I20)

それでは、フリーランスの継続に影響する要素を探ってみよう。ここでは、フリーランスが翌年もフリーランスとして働いている割合を「継続率」と呼び、継続率とフリーランスの年間収入や、フリーランスとしての継続年数などとの関係をみる(図1)。図1の縦軸は「フリーランスの継続率を上昇させる効果の大きさ」を示しており、棒グラフが高いほど継続率が高まると読むことができる。フリーランスの年間収入が1%増加すると、継続率は2.2%上昇する。フリーランスの就業は金銭収入のみならず、自らのワークスタイルに合った働き方ができる点に魅力を感じる人が多いが、それでも収入がより多く得られれば就業継続しやすくなることがわかる。

フリーランスは専門職が多く(「フリーランサーは就業者の7%、約440万人」)、経験を積んで挑戦される傾向にある(「誰がフリーランスとして働いているのか」)。専門性を売りにするフリーランスは常にスキルアップが求められるかもしれない。そこで、当年に「仕事がレベルアップ」した場合の効果を確認したところ、「仕事がレベルアップ」すると継続率が4.0%高くなる。

続いて、フリーランスになったばかりの人たち(継続0年)を基準として、継続年数と継続率との関係を分析した。その結果、継続0年と比較して継続1~3年では10.4%、4年以上では15~18%程度継続率が上昇する。フリーランスに参入したばかりの頃は仕事を取ることが難しかったり、自らに合ったスタイルを模索するなかで辞めてしまう人が多い一方で、数年間継続することで事業が安定するということだろうか。

図1 年間収入額・継続年数と継続率の関係図1 年間収入額・継続年数と継続率の関係

注 プロビットモデルの限界効果を掲載(すべて有意)/ウエイトとして脱落ウエイト(表1と同じ)使用
対象:20歳以上の既卒者
制御変数:性別、年齢、学歴、産業、職業、フリーランスのタイプ(※)、フリーランスとしての継続年数、調査年
有意水準:*p < 0.1, **p < 0.05, ***p < 0.01
※フリーランスのタイプとは「就業時間と収入からみるフリーランスの働き方」で分類されたフリーランスの類型

それでは、継続年を重ねると具体的にどのような変化があるのだろうか。ここでは継続年数と年間収入の関係をみる(図2)。図1と同様に、フリーランスになったばかりの人たち(継続0年)を基準として、継続年数の効果を測定した。継続0年の年間収入を100(基準値)としたとき、継続1~3年では134の収入を得る。その後、4~6年では148、7~9年では162、10年以上では182というように年数を重ねるごとに収入は多くなる。年収が増していく要因としては次の2つが考えられる。ひとつは、継続するなかで顧客を獲得し取引先が増えたり、新たなスキルを獲得し販路を拡大したために収入が増していくというものである。もうひとつは、もともと収入を十分に稼ぐことができた人がフリーランスに残るというものである。図1では、「仕事がレベルアップ」すると継続率が高くなることから、スキルの醸成が取引先との関係構築に重要であるという点で前者の可能性がある。他方で、年間の収入が高いほど継続率が上がるとの結果も得られており、その結果からは後者の可能性が考えられる。前者、後者どちらの影響がより大きいのか、本稿の分析のみでは判断することができない。緻密な分析が必要となる。

図2 継続年数と年間収入額の関係図2 継続年数と年間収入額の関係

【注】 OLSの結果を掲載(すべて1%水準で有意)、ウエイトとして脱落ウエイト(表1と同じ)使用
対象:20歳以上の既卒者
制御変数:性別、年齢、学歴、産業、職業、フリーランスのタイプ(※)、フリーランスとしての継続年数、調査年
※フリーランスのタイプとは「就業時間と収入からみるフリーランスの働き方」で分類されたフリーランスの類型

以上、フリーランスの就業継続について論じてきた。フリーランスは参入しやすい一方で、退出も多く、入れ替わりが激しいことが特徴と言える。継続することが容易でない現実がある。そこで本稿では、フリーランスの就業継続が高くなる要因を分析した。フリーランスとして得られる収入が多く、継続年数を重ねた人は続けやすい。また、継続年数が伸びた人では収入も多くなっていることがわかった。他方で、どのような要素が継続を容易にし、収入増加につながるのかはっきりしていない。今後、研究が必要な分野である。

(注1)本稿では、(1)雇人のいない自営業主または内職、(2)実店舗をもたない、(3)農林漁業(業種)に従事していない、この3つすべてを満たす者をフリーランスとした。
(注2)ただし、翌年にフリーランス以外の就業形態で働いている場合、次の可能性が考えられ、より詳細な分析が必要である。(1)フリーランス業が軌道に乗り、事業拡大のため雇い入れした。(2)事業を拡大したわけではないが、実店舗をもつなど本稿の定義から外れた。

小前和智(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
小前和智(2022)「1年で4割 フリーランスからの離脱」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021Vol.6https://www.works-i.com/column/jpsed2021/detail006.html