全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2020準中型自動車区分の新設は、ドライバー従事者を増やしたのか 孫亜文

もしあなたが2007年6月1日までに普通免許を取得したのであるならば、ぜひ一度免許証をみていただきたい。「免許の条件等」の欄に、「中型車(8t)に限る」と記載されてはいないだろうか。この記載で運転できる車両には、総重量3.5トン以上7.5トン未満かつ積載量2トン以上4.5トン未満、乗車定員10人以下の自動車を指す準中型自動車がある。たとえば、コンビニや宅配の配送車、クール宅配便などの保冷設備が架装されたトラック、電線工事など高所で作業する際に用いる車両やごみ収集車などが該当する。また、2007年6月2日から2017年3月11日までに普通免許を取得し、2017年3月12日以降に免許証が交付された場合は、「準中型車(5t)に限る」の記載があるだろう。この場合に運転できる準中型自動車には、コンビニや宅配の配送に用いる総重量5トン未満かつ積載量3トン未満の小型トラックなどがあてはまる。

なぜ準中型自動車という区分が新設されたのか。その背景には、物流業界の人手不足が関係している。以前よりトラックドライバーなどの人手不足が指摘されてきた。その状況において、ネット通販やオークション宅配の利用者が年々増え、物流の需要は高まってきた。それまでの区分では、配送用トラックは中型自動車に入る。それを運転するためには中型免許が必要だったが、2017年の新区分設立によって、2017年3月11日までに普通免許を取得した人であれば限定解除審査を受けたり、中型免許を取得したりせずとも、コンビニや宅配の配送などで用いられる小型トラックを運転できるようになった(注1)。また、準中型免許は18歳以上であれば取得できるため、高校を卒業したばかりの若者でもすぐに配送業に従事できるようになった。つまり、新たに準中型自動車という区分を設立することで、異職種からの転職者や若年入職者が増える可能性が高まり、物流業界の人手不足解消に期待できるというわけだ。

では、2017年に準中型自動車区分が新設されたことによって、ドライバーとして働く人は増えたのだろうか。また、異職種からの転職者も増えたのだろうか。「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2020」の5年分を用いて、ドライバー従事者数と職種間移動の状況をみてみよう。

まず、ドライバー従事者数の推移をみると、2015年から2016年にかけては減少傾向にあったものの、2017年からは増加に転じている(図1)。準中型自動車区分新設の影響を受ける可能性が高いトラックドライバーでも、2018年以降増加していることがわかる。免許情報がないため、さらなる分析はできないが、準中型自動車区分の新設によって、物流業界の雇用が促進された可能性はあると考えられる。

図1 ドライバー従事者数の推移(2015~2019年)9-1.jpg

注:各年でウエイトバック集計を行い、人口規模を推計している。

続いて、異職種からの転職者が増えたかどうかをみてみる。図2は、同職種(ドライバー)からの転職者率と異職種(ドライバー以外)からの転職者率を表したものである。ここでは、準中型自動車区分の新設の影響をみるために、2017年以前と2017年以降の2時点を比較する。

異職種(ドライバー以外)からの転職者率をみると、2017年以前では1.6%であったものが2017年以降では1.9%へと微増していることがわかる。わずか0.3%ポイントと微小な増加であるため、異職種からの雇用促進をもたらしたとは断言しにくい。一体何が妨げとなっているのだろうか。

図2 ドライバー従事者の職種間移動の状況(2017年前後の2時点による比較)※クリックで拡大します図2 ドライバー従事者の職種間移動の状況(2017年前後の2時点による比較)※

注:各年のウエイトバック集計である。いずれも2年以内転職者に限定した集計である。

そのヒントは、同職種(ドライバー)からの転職者にあった。図2をみると、同職種(ドライバー)から転職した人の割合は、61.5%から58.0%へと減少していることがわかる。ドライバーを辞めた人が増えた理由を知るために、2018年以降にドライバーを辞めた人の離職理由をみてみる(図表3)。すると、自己都合(不満不安)を理由に辞めた人の割合が65.4%(全体平均は47.9%)と、最も高いことがわかった。さらにその内訳をみてみると、「仕事内容への不満(32.4%)」「賃金への不満(30.8%)」「労働条件や勤務地への不満(30.3%)」の割合が高く、全体平均との乖離も大きい。

他の職種よりも仕事内容や労働条件などの労働環境に不満を抱きやすい背景には、ドライバーの特性と物流業界の課題があると考えられる。たとえば、トラックドライバーは、一般的に積荷待ちなどの手待ち時間もあるため、労働時間が長くなりやすい。また、以前から人手不足という課題を抱えているなかで、物流需要が高まると、ドライバー一人にかかる業務負荷も高まり、さらに長時間労働せざるを得ない状況に陥りやすくなる。そういったなかで働けば、誰しも不満を抱きやすくなるだろう。

図3 2018年以降離職者の前職離職理由(複数回答)※クリックで拡大します図3 2018年以降離職者の前職離職理由

注:ウエイトバック集計である。

準中型自動車区分は、物流業界が長年抱えてきた人手不足問題を緩和するために新設されたが、このコラムでみてきたように、その効果はまだ十分に表れていない。その理由は、長時間労働を引き起こしやすい労働環境にある。幸いにも、働き方改革関連法の施行によって、2019年4月より5日間の有給休暇の取得が義務化された。また、2024年4月からは時間外労働の上限規制も適用されることが決まっている。長時間労働だけがドライバーの課題ではないが、一歩ずつドライバーの労働環境は改善に向かっているだろう。2017年に新設された準中型自動車区分が、その目的の一つである物流業界の雇用促進に寄与するためには、物流業界全体の労働環境の早期改善が必須だと言える。

(注1)2007年6月1日までに普通免許を取得した場合は、総重量8トン未満かつ積載5トン未満のトラックまで運転できる。

孫亜文(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
孫亜文(2021)「準中型自動車区分の新設は、ドライバー従事者を増やしたのか」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2020Vol.9https://www.works-i.com/column/jpsed2020/detail009.html