全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2020AIによって仕事を奪われるのは誰か(3) 坂本貴志

前回の分析では、職種をホワイトカラー/ブルーカラーに分けて、仕事が代替されやすい職種を明らかにした。今回は、代替されにくい職種についてみてみよう。

研究開発、建築家、デザイナー、弁護士、医師などは代替不能

まず、ホワイトカラーで代替されにくい職種を明らかにしていく。このなかで特に代替されにくい職種を挙げていくと、研究開発(電気・電子・機械)、建築家、ソフトウェア関連技術職、エンジニア、広告出版マスコミ専門職、美術家・デザイナーなどとなった。

これらの職種を一言で表現すると、新奇性が求められる職種とでも言えるだろうか。彼らが前例にとらわれず独自の発想で仕事をしなければ、新しい価値ある財・サービスが開発され、世のなかに普及していくことはない。そうした仕事はいくら技術が進展したとしてもAIによる代替は不可能なのだ。

これらの職種ほどではないが、弁護士・弁理士・司法書士、医師・歯科医師、小中高教員・塾講師など各種専門職も同様に非定型的な仕事が多い職種となった。こうした職種の人たちは上記のような新奇性が求められる職種と比較すればパターンが決まった案件も多いとみられるが、顧客が直面する多様な状況に対応して、その時々において高度な判断が求められることが多い。

保育士、看護師・保健師、機械保守、建設作業者なども代替ができない

次にブルーカラーで代替されにくい職種をみていこう。保育士、看護師・保健師、機械保守・メンテナンス、建設作業者、家政婦などがこの区分に入った。

まず、保育士や看護師・保健師は専門的な知見をもちながらも、多様な人への個別の対応が求められる。通り一辺倒の対応では質の高いサービスを提供できない職種であるから、これらの職種もAIによる代替は期待しにくい。

機械保守・メンテナンスの仕事は、機械にイレギュラーな事態が起こったときに対応する仕事である。技術革新が進み、機械が多くの仕事を果たすようになる未来において、これらの仕事の需要はますます高まるはずだ。

建設作業者や家政婦も代替されにくい職種となった。一つの構造物を建設するにあたっては実に様々な職人が仕事に当たり、一人ひとりの職人が行う仕事も複雑である。家政婦の仕事もその時々において顧客の要望は異なると考えられ、機械化は難しそうだ。

図1 職種のマッピング ※クリックで拡大します図1 職種のマッピング

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:回帰分析によって得られた係数を基に偏差値を算出し、マッピングしている。前回コラムと同一の図表を再掲している。

機械による代替を、スピード感をもって実現したい

本稿では3回にわたって、誰の仕事がAIなどによって代替可能であるのかを検証してきた。代替されやすい人の大まかな特徴は、役職に就いていない人、非正規雇用者として働く人などである。そして、職種別にみると、ドライバー、配達業務や清掃業務に就く人、経理担当者や一部の一般事務労働者などということになるだろう(図2)。

ただし、これらの人たちがすべからく高い可能性で将来的に仕事を失うということではない点には注意したい。これらの仕事が完全に代替されるためには、将来、大規模な技術革新が起こらなければならないし、それと同時に、その技術が相当に安価に導入できなければならない。

おそらく、AIなどによる仕事の代替は、多くの人たちが思っているより、中長期的に緩やかに起こっていくだろう。そして、私たちが考えなければならないのは、こうした技術革新をいかにしてスピード感をもって実現していくかということになるはずだ。今後、日本社会はさらなる少子高齢化のなか、深刻な労働力不足に直面するのはほぼ間違いないからである。

機械によって代替できる仕事の範囲を広げて、実際にそれを実現させていく。その道筋を描くことが、今後の日本経済の発展にとって必要不可欠な視点となる。

図2 代替されやすい職種と代替されにくい職種 ※クリックで拡大します図2 代替されやすい職種と代替されにくい職種

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
注:回帰分析によって得られた係数を基に偏差値を算出している。

坂本貴志(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
坂本貴志(2020)「AIによって仕事を奪われるのは誰か(3)」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2020Vol.4https://www.works-i.com/column/jpsed2020/detail004.html