全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2020AIによって仕事を奪われるのは誰か(1) 坂本貴志

機械学習やIotなどAIの技術革新によって仕事がなくなることが指摘されて久しい。野村総合研究所がマイケル・A・オズボーン准教授らと行った共同研究によると、2030年にかけて日本の労働人口の 49%が人工知能やロボットなどで代替可能になるのだという。

さらに、デイビッド・オーターらによると、ある仕事が代替されるかどうかは、主にそれが定型的(繰り返しの仕事)かどうかで判別できるのだという。毎日同じ作業を繰り返して行う仕事であれば、その仕事のやり方を機械に学習させてしまえば遂行できてしまうからである。

それでは、日本の労働市場において、このような繰り返しの仕事は誰によって遂行されているのであろうか。繰り返しの仕事をしている人の属性やその人がついている職の特徴を探ることで、AIによって仕事を奪われる人は誰なのかを予測してみよう。

定型業務の割合の大小で代替のされやすさを検証する

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」では、「昨年12月時点についていた仕事について、以下の項目はそれぞれどのくらいの割合を占めていますか」という設問を設けており、「繰り返し同じことをする仕事」(定型業務)の割合を問うている。また、同じ設問で、その仕事で「頭を使う」割合、「体を使う」割合も質問している。

本稿では、AIなどによって仕事が代替されるかどうかが定型業務の割合の大小によって決まるという前提のもとで、どのような人の仕事が代替されやすいのかを分析することとする。

管理職は非定型的な仕事が多く代替されにくい

図1は定型業務の割合を被説明変数にして、どのような属性を有する人がその割合が高いのかを検証したものである。

この結果をみると、その人が行う業務が定型かどうかに最も大きな影響を与えているのは役職である。役職なしの者と比べると係長級の人のほうが、係長級よりも課長級のほうが、課長級よりも部長級や役員のほうが非定型的な仕事が多くなる。そして、各役職を管理職と専門職に分けてみると、どの階層をみても専門職よりも管理職のほうが非定型的業務を行っている傾向にある。

実際に、部長や課長をはじめとする管理職の仕事は多岐にわたる。管理職の重要な任務は、部下の仕事を管理することを通じて、部内もしくは課内などのパフォーマンスを向上させることだといえる。ただ、部下の仕事の管理をするといっても、人は一人として同じ人はいないのだから、部下によって仕事において直面する課題は大きく異なる。

また、部下によってなされた仕事の多くは、管理職までその案件が持ち込まれる。そして、多くの部下が判断に迷い上長の判断を必要とする課題というのは、往々にして通常とは異なる非定型の案件であるものだ。

そういった視点で考えれば、管理職が担う仕事の大部分は、会社において発生したイレギュラーな案件を捌く仕事だともいえる。このような特徴をもつ管理職という役職がAIによって簡単に代替できないことは明らかだ。

図1 定型業務の割合の回帰分析結果2020_2_1.jpg

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」
注:統計的有意性については、***が1% 有意、**が5% 有意、*が10% 有意を表している。

正規雇用者が非定型な仕事を担っている

続いて仕事の内容に影響を与えやすい属性は、雇用形態である。すなわち、正社員のほうが非定型の仕事を行っており、派遣労働者やパート・アルバイト、契約社員は定型的な業務を行う割合が高い(図1)。

非正規雇用者と正規雇用者が行う仕事の内容ははっきりと異なるのである。定型的でやり方が決まっている仕事の多くは非正規雇用者によって担われ、それ以外の非定型的でその都度判断を要する仕事の多くは正規雇用者によって遂行されているのである。

日本企業は1990年代以降、非正規雇用者を増やしてきた。こうした結果をみてみると、多くの日本企業は、社内の定型的な仕事を外出しして非正規雇用者に従事させるのと同時に、それ以外の非定型的な仕事を正規雇用者に集中させる施策をとってきたとも考えられる。

それ以外の要素で影響を与えている属性は性別や学歴、企業規模などがある。すなわち、女性や大卒のほうが非定型的な仕事につく場合が多く、従業員規模は中くらいの企業で定型的な業務が多い傾向がある(図1)。

次回は、職業に焦点を当て、どのような職種で仕事の代替が起きやすいのかを明らかにしていこう。

坂本貴志(研究員・アナリスト)
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坂本貴志(2020)「AIによって仕事を奪われるのは誰か(1)」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2020Vol.2https://www.works-i.com/column/jpsed2020/detail002.html