全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018大多数は学んでいない、時間ができても学ばない ―社会人の自己学習:実態編― 萩原牧子

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人生100年時代においては、職業人生が長くなる。これまでの「教育→仕事→引退」という人生3ステージ制は崩壊を余儀なくされ、学校を出て社会人になってからも新しいことを常に学び続け、キャリアを転換させていく必要があると言われるようになった。

ところが、日本型雇用システムにどっぷり浸かってきた私たちは、「自分から学ぶ」ということに慣れていない。長期雇用を前提に、職務を限定されずに採用され、OJTやOff-JTといった企業主導の「受け身」の教育訓練によって、職務の幅を広げてきたからだ。

時代は変わり、自学自習が必要だと言われても、戸惑う人は多いのではないか。個人的な努力だけで、受け身の姿勢を脱することは容易ではない。まず、そもそもどれくらいの人が学んでいるのか、どうすれば人は学ぶようになるのか、学べば報われるのかといった、社会人の学びの実態を正しく把握する必要があるだろう。

リクルートワークス研究所では、上記の問題意識をもとに、「全国就業実態パネル調査」を活用して、社会人の自己学習について報告書をまとめた。本コラムでは4回の連載で、報告書の要点をお伝えしていく。初回は、社会人の自己学習の実態である。

大多数は学んでいない

あなたは、昨年1年間に、自分の意思で、仕事にかかわる知識や技術の向上のための取り組み(たとえば、本を読む、詳しい人に話を聞く、自分で勉強をする、講義を受講する、など)をしましたか――。この設問にYESと回答した人を、「自己学習を行った人」と捉える。「全国就業実態パネル調査2018」で、その割合を雇用者全体でみると、33.1%という低い数字になった。先の取り組みは大して難しいことではない。仕事力を向上させるために、自分の意思で本を紐解き、先達者に学ぶという行動を、7割程度の人が行っていないことになる。

なぜ、自己学習を行わなかったのか。「忙しい」「費用負担が重い」「すでに必要な知識や技術を十分身につけている」「方法が見つからない」「会社が機会を用意してくれなかった」「学んでも会社が評価しない」「今後、転職や独立を予定していない」……。すでに実施された調査や研究を参考に、われわれはさまざまな可能性を考慮して選択肢を用意したのだが、最も選択率が高かった理由は「あてはまるものはない」(51.2%)であった(図1)。

もちろん、われわれの想像が及ばなかった理由もあるのだろうが、「あてはまるものはない」が半数を超えたという事実からは、「学ばない理由なんて考えたこともない」という正直な気持ちが表れているようにも思えた。学ぶ人に学ぶ理由はあっても、学ばない人に学ばない理由などないのだろう。

図1 仕事に関連した学び行動をとらなかった理由:複数回答(%)
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図1 仕事に関連した学び行動をとらなかった理由:複数回答(%)

時間ができても、人は学ばない

長時間労働を余儀なくされているなど、時間の余裕がなければ、自己学習をすることは難しい。自己学習をしなかった理由として、「忙しいから」を挙げた割合は、「あてはまるものはない」(51.2%)、「今後、転職や独立を予定していないから」(17.2%)に続いて、3番目(15.0%)に高かった。

では、労働時間が減れば、人は積極的に学ぶのだろうか。1年前と比べた労働時間の変化を「大きく減少(11時間以上減少)」から「大きく増加(11時間以上増加)」まで、段階的にいくつかのグループにわけて、自己学習を始めた割合を比較してみた。フルタイムで残業がある人を想定して、1年前に週45時間以上働いていた人に集計対象を限定し、そもそも労働時間が短かった人は除いた。

その結果を示した図2をみると、労働時間の増減と自己学習を始める割合には明らかな関係性がみられない。労働時間が減っても自己学習を始める人が増えるわけではないことがわかる。時間的な余裕は、自己学習を行うための必要条件ではあるが、十分条件ではないということだろう。

図2 週労働時間の変化と自己学習を始めた割合(%)

今後、政府が進める働き方改革によって長時間労働が是正され、自由に使える時間が増えた時、自己学習を行う人と、行わない人の間で学びの格差が生じる可能性がある。その差は、もちろん、その後のキャリアにも大きく影響を及ぼすはずだ。自己学習を誘発する条件が時間の潤沢さではないとしたら、果たして何なのか。これについては、次のコラムでみていきたい。

萩原牧子(リクルートワークス研究所/主任研究員・主任アナリスト)

※本稿は「どうすれば人は学ぶのか―『社会人の学び』を解析する」に掲載されている分析の抜粋(一部調整)です。

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。