「週休3日」で働く社会福祉法人 愛宕福祉会 人事部長 馬込 正利氏

24時間体制の「特養」で週休3日を実施。介護の質を高める効果も

厚生労働省の調査によると、介護職の離職率は14.1%、人手不足を感じている介護事業所は63%に上り、今後も人材確保の難しさが予測されている(※)。離職理由の1つに挙げられるのが不規則な勤務や休日の少なさで、なかでも24時間体制の特別養護老人ホームは休みが取りにくいとされるが、愛宕福祉会では特養に週休3日制度を導入して成果を上げている。特養の施設長も経験した人事部長の馬込氏に導入の経緯やその効果を聞いた。

新潟では初、特別養護老人ホームの介護職員に週休3日を導入

愛宕福祉会は新潟県で高齢者と障がい者、児童を対象に100事業を超える幅広い福祉サービスを提供する社会福祉法人である。週休3日制度はそのうち高齢者福祉における施設事業・特別養護老人ホームに勤務する介護職員を対象に導入している。特養に限定しているのは、週休3日に伴う10時間勤務が、特養より人員が少ないグループホームや有料老人ホームでは難しいため。「少ない人数で3日間休みにすると、どうしても出勤人数が減ってオペレーションが回らなくなります。いろいろと検討しましたが、出勤人数を変えずに公休を増やすには、配置人数の多い特養が最も試みやすかったのです」と馬込氏は振り返る。

同法人が週休3日制度を意識したのは、宮城県に先行実施する福祉事業所があると知り、研修に参加したのがきっかけ。「それまで介護職の勤務はシフト制であることから、どうしても不規則になりがちというのが課題意識としてありました。夜勤明けだと身体を休めることが優先で、プライベートを充実させるのがなかなか難しく、ワーク・ライフ・バランスが良いとはいえません。介護離職が多い理由の最たるものは、ワーク・ライフ・バランスが取りづらいことと認識していましたので、当法人でも週休3日にチャレンジすることにしました」と馬込氏。

とはいえ、当初は懸念もあった。特に大きかったのは家庭を営む職員が多いため、10時間勤務だと生活面のバランスが崩れるのではないか、という心配である。そこでトライアル期間を設けるとともに、運営する特養10施設を3つのエリアに分け、「1つのエリアにかならず8時間勤務と10時間勤務の施設が混在するようにしました。10時間勤務をやってみて無理だと感じた職員は、8時間勤務の施設に移れるよう配慮しました」と馬込氏。現在、10時間勤務の週休3日制で運営する施設は、新発田市・新潟市北区エリアで1施設、新潟市東区エリアで1施設、4dayww_008_01.jpg新潟市西蒲区・燕市エリアで2施設。この4施設はトライアルを経て完全導入に至ったが、今年1月には佐渡市の小規模特養も参加して合計5施設になった。なお小規模特養でも、特養の人員配置の仕組みからオペレーションに問題はないという。

週休3日制を導入している5施設の1つ、特別養護老人ホーム中之口愛宕の園

トライアルは2022年2月から開始し、実施先は希望する施設のなかからエリアのバランスを取って選定した。当時は馬込氏も特養の施設長の立場にあり、「話を聞いてぜひチャレンジしたいと手を挙げました。ほかの参加施設も同様で、施設長がどちらかといえば若く、新しい試みに前向きな人が多かったです」と述懐する。まずは施設内の1つのユニットから実施し、翌月に2つ、その次に全ユニットと、状況を見ながら慎重に進めていった。そして7月から本格導入。介護職の週休3日制を実現したのは、新潟では初である。なお、トライアル施設に勤務する職員のなかで、8時間勤務の施設に異動したのは2名にすぎない。4dayww_008_02.jpg

制度の概要

  • 1日10時間×週4日勤務
  • 年間休日数167日、年間総労働時間1980時間
  • 週休3日制度を採用する施設の全介護職員に適用。全員が10時間固定
  • 時間外手当は10時間を超えた分を支給
  • 給与、賞与は週休2日で働く職員と同水準。福利厚生等の待遇も同じ

10時間勤務によりシフトの重複が発生。介護の質向上に寄与

24時間365日のサービスを提供する特養では、介護職は時短勤務者などを除き、基本的にシフト勤務をしている。愛宕福祉会の特養は3交代制で、利用者(被介護者)に合わせて30分刻みで出勤時間を調整できるなどさまざまな勤務体系があるが、大枠としては、8時間勤務の施設では7時から16時の早番、13時から22時の遅番、22時から7時の夜勤になっている。「これが10時間勤務になると前後が伸びるわけです。たとえば早番を6時にしたり、あるいはすべて後ろ倒しにして7時から18時まで勤務したり。そこは職場ごとに柔軟に調整していますが、いずれにせよ前後のシフト勤務者と重なる時間が増えました」と馬込氏。「入れ替わり」ではなくなったため、前の勤務者から申し送りを受ける時間も取れるし、次の勤務者への引き継ぎも余裕を持ってできるようになった。同法人では週休3日制に先駆けて業務のIT化を推進しているが、「やはり口頭ですと、タブレットの記録では伝わらないニュアンスもしっかりと伝えられるようです。文章での引き継ぎを不十分に感じる真面目な職員も多いので、対面での引き継ぎはかなり好評です」と馬込氏。また食事介助や入浴介助など、介護量が多いのはやはり日中である。「特に人手が必要な食事や入浴の時間帯にシフトをかぶせることによって人員が手厚くなり、職員一人ひとりの業務負担の軽減はもちろん、介護の質の向上にもつながっています」(馬込氏)

シフトが重複するとその間の給与も2倍になる計算だが、「そこは特に気にしておりません。それよりも実施して気付いた経営側にとってのメリットは、時間外手当が大きく減少したことです。やはり10時間を超えて残業をする職員はほとんどいないため、従来の時間外手当で重複分は十分カバーできます」(馬込氏)。

週休3日制の施設では、導入後の介護離職はゼロ。求人募集も順調

4dayww_008_03.jpg愛宕福祉会の167PROJECT特設ページより

「週休3日制になったとはいえ、実施施設では出勤人数も変わらず、施設運営における影響はまったくありません。週休3日制はあくまでも職員のワーク・ライフ・バランス実現のための施策であり、今後も人員削減は考えておりません」と馬込氏。むしろ介護離職を防止する観点では、週休3日制になってから職員が辞めなくなったため、中途採用の募集をかけることも減った。また同法人では週休3日制を「167プロジェクト」と称して働きやすさを発信しているが、これが求職者に響き、新卒の応募も好調である。「週休3日制の施設で働きたい」という求職者も珍しくない。

ワーク・ライフ・バランスの充実による職員のパフォーマンス向上は定量的には測れないが、「家庭を持つ職員も1日多く休めるということで、『むしろ仕事の集中力が高まりました』という声が上がっています。若手職員は無理なく資格取得の勉強に費やす時間が確保できると好評です」と馬込氏。余談だが、「休みが増えて遊ぶ機会が多くなった分、お金が足りなくなった」という声もある。職員にとっては時間外手当がほぼゼロになったのが痛し痒しで、「なかには『副業ができないか』と相談されることもあります。そこは今後の検討課題です」と馬込氏。

4dayww_008_04.jpg「以前は週休2日だったので家事や、家族と過ごして終わっていましたが、今は自分の時間を持てるようになりました」と介護職員の米原彩果さん

唯一困ったのは誰かしら必ず休んでいるため、会議や研修などの日程調整が難しくなったこと。活動日にメンバーを揃えるのが難しいことから、委員会の運営も滞りがちだ。「今までのように集まるのは無理、と発想を変える必要に迫られました。現在はユニットの会議や委員会の打ち合わせなどは、休日の職員にもオンラインで参加してもらっています。もちろんその分の手当も支給しています」と馬込氏。仕組みが整い、ブラッシュアップされれば、いずれは特養以外の導入も視野に入れている。介護職では珍しい週休3日制が、同法人のスタンダードになるかどうか注目したい。

  • 出典:公益財団法人 介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査」
ポイント
  • 特別養護老人ホーム10施設のうち、現在5施設で週休3日制を実施。希望する施設のユニット単位でトライアル導入を行い、実現の目途が立ったところで本格導入。
  • 週休2日制の職員より年間休日が50日増えて167日に。公休も月間10日から14日になった。月の半分近くは休日となる。
  • 10時間×3交代のシフトになったことから「重複時間」が生まれ、対面による申し送り・引き継ぎができるようになった。利用者の細かなニュアンスが伝えられると好評。また食事や入浴介助など介護量が多い時間帯に人員を厚く配置できるようになった。
  • 週休3日制の施設では、実施以降、離職者はゼロ。求人も好調。
  • 10時間を超過する残業はほぼなく、時間外手当が大幅に減った。
  • 家庭を持つ職員にも週休3日制は好評。仕事の集中力が高まったという声もあった。
  • 会議や研修に規定の人数を集める日程調整が難しくなり、オンラインを活用。
  • 職員からは副業・兼業を求める声もあり検討中。

プロフィール

馬込正利氏
社会福祉法人 愛宕福祉会
人事部 部長
略歴
・2000年 社会福祉法人 愛宕福祉会に入職 愛宕の園にて介護職に従事
・2015年 同 中之口愛宕の園 施設長
・2019年 同 新潟北愛宕の園 施設長
・2022年 同 人事部 部長