人事、仏に学ぶ従業員を「しあわせ」にするとはどういうことか?

w155_hotoke_001.jpg「しあわせ」という言葉は一般的に、「幸せ」と書きます。しかし、仏教では「仕合わせ」と書くのです。
「幸せ」は「海の幸」などと同様に、願って入手できるものです。ですから、いったん手に入れるとさらに欲しくなりますし(貪欲[とんよく])、逆に求めても得られない場合は苦しみます(求不得苦[ぐふとくく] )。これに対して「仕合わせ」とは、いのちが使われ、輝く場に出合うことを指します。つまり、自らが個性を存分に発揮し、周囲と調和している状態こそが、仏教が教える「しあわせ」なのです。
 では、従業員を「仕合わせ」にするために、人事は何をすべきなのでしょうか。
 企業は利益の最大化を目指すため、高い能力を持ち、一生懸命に仕事に打ち込む、いわゆる「優秀な人材」ばかりを求めがちです。そして、そうした人材像から外れた人を組織から排除したり、無理やり変えようとしたりします。でも、人はそれぞれ個性を持っていることを忘れてはいけません。
 社会は、さまざまな色や形の珠をつないだ念珠のようなものです。どれか1つを無理やり取り除いたら、全体がバラバラになってしまうでしょう。企業も同じです。求める能力水準に達していないから、病気だから、障がいがあるからなどの理由で誰かを切り捨てたら、組織はすぐに崩壊します。年齢や性別、立場などにかかわらず、全員をありのままの姿で受け入れ、そして、それぞれの役割を与えることが大切です。
 日本で広く信じられている仏教は「大乗仏教」と呼ばれます。この名が示すように、大きな乗り物に乗り、皆で一緒に悟ろうというのが仏教の考え方です。般若心経に「羯諦羯諦(ぎゃていぎゃてい) 波羅羯諦(はらぎゃてい) 波羅僧羯諦(はらそうぎゃてい) 菩提薩婆訶(ぼじそわか)」という一節がありますが、こちらの大意も「皆で共に彼岸(=波羅)に行こう」というもの。個人より、全体の調和を大事にするのが仏教です。
 同じ乗り物(=組織)に乗っている全ての従業員に「仕事を合わせる」、すなわち、各自に適した仕事や環境を用意し、全員を輝かせること。それこそが、人事が従業員を「しあわせ」にする道なのです。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

山口依乗氏
浄土真宗本願寺派僧侶
Yamaguchi Ejo 両親の影響で幼少の頃から仏教に親しみ、僧侶の道へと進んだ。また、心理カウンセラーとして30年以上の臨床経験があり、音楽療法士としても活動中。現在は週2回のペースで東京都渋谷区の「寺カフェ代官山」に出向き、悩みを抱える来店者の相談に乗る。著書に『芝生はだいたい全てが青いし、あなたの芝生もすごく青い』(ワニブックス)などがある。