Global View From Singapore第7回 グローバルで注目の「感謝の送り合い」 日常のなかで企業理念を振り返る効果も

ピア・トゥ・ピアの人材育成が見直されるなか、ソーシャル・レコグニション(同僚同士の称賛)が再評価されています。今回は、楽天の取り組みである「R-Star」についてご紹介します。

R-Starは、技術部門のエンジニアたちが自発的にシステムを開発したものです。2022年、創業25周年の社内キャンペーンの一環として試験的に展開したところ、従業員のウェルビーイングスコアが大幅に向上したため、2023年10月から正式に全社導入しました。

画面上で相手の氏名を検索し、感謝のコメントとともに100ポイントを贈ります。従業員には毎月1000ポイントが支給され、月間で最大10名に贈ることができます。受け取ったポイントは自社サービスである楽天ポイントとの交換やNPOへの寄付ができるようにしています。

最大の特長は、楽天の価値観・行動指針を示す「楽天主義」に基づくコンピテンシーと連携していることです。同僚から受け取った感謝は「楽天主義」のどの項目に紐づくものか分類され、円グラフで可視化されます。これとは別に「チームへようこそ」「お誕生日おめでとう」などのメッセージを選択することもできます。

やり取りは送り手と受け手だけでなく、全社に公開されます。これによって、どのような行動が組織内で称賛されるのか、暗黙知だったノーム(規範)が可視化されることにも大きな意味があると考えています。

現在の利用率は全社で3割程度です。各事業の人事担当者と連携してメールでのリマインドや全社キャンペーンを実施するなど、楽天グループ内での普及に努めています。

R-Star上のつながりはソーシャルグラフ化されます。部門を横断する人的ネットワークの量と勤続年数の長さには一定の相関性があるのではないかという仮説を持っており、今後の検証課題です。

成果を出すには一定の時間や経験が必要ですが、日常業務のなかで感謝や承認を送り合うことで、プロセスにも光を当てられます。また、人と人のつながりが生まれ、仲間との関係性の向上が促進されます。

コロナ禍で希薄化する従業員間コミュニケーションへの打ち手として始めた取り組みですが、福利厚生としての効果はもちろん、企業理念の共有につながる施策としても有効と感じます。理念研修のような単発の施策に加え、同僚への感謝が「楽天主義」のいずれに相当するのか、日常業務において定期的に振り返ることで、無理なく大きな効果が得られるからです。

w183_singapore_main.jpgR-Starの感謝のやり取りはすべてオープンになっている。
Photo= 楽天提供

Text=渡辺裕子

日髙達生氏
Hidaka Tatsuo
楽天ピープル&カルチャー研究所代表。筑波大学卒業。2018年1月楽天入社。企業文化や組織開発に特化した研究機関「楽天ピープル&カルチャー研究所」を設立し、代表に就任。主にシンガポール含むアジア諸国と日本を往来しながら活動。

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