2014年度研究プロジェクト

御手洗瑞子

御手洗瑞子氏
株式会社気仙沼ニッティング 代表取締役

東日本大震災の被災地に住む編み手が作ったセーターを販売する、気仙沼ニッティング。1着7万円超という高価格帯ながら申込み殺到の人気を呼んでいる。代表取締役の御手洗瑞子氏は、ブータン政府で初代首相フェローの経験も持つ。周囲が驚くような遠隔の地に単身乗り込み、住民たちと一緒に地域の活性化を進める御手洗氏を動かすのは、いったいどんな思いなのだろうか。

御手洗瑞子困窮する隣人を助ける
思いは誰でも持っている

被災地に新しい産業を創出することを目指す気仙沼ニッティング。ブータンの初代首相フェローにせよ同社の経営にせよ、それに取り組む動機は、まず「隣に困っている人がいたら助けようという、誰でも持っているような思い」だと、御手洗氏は語る。

自分としては「社会リーダー」といわれても実感がなく、「はあ、そうですか」という感覚です。自分で自分を「社会リーダー」だとは位置づけていませんし。誰か困っている人が隣にいるなら力になりたいという思いは、多かれ少なかれ、どの人の中にもあるのではないでしょうか。

私はたまたま動ける立場にいたこともあって、2012年6月に創業した気仙沼ニッティングの経営に携わっています。でも、たとえば小さな子を育てている状況だったなら、同じような気持ちを持っていても起業に踏み切るのはなかなか難しいかもしれない。また1度も転職経験がなくて、1つの会社で定年まで勤めるのが当たり前という職場にいたなら、会社を辞めるハードルは高いでしょう。もしくは専門性が非常に高い職業で、たとえば自動車会社でトランスミッションの開発をしているエンジニアの人は、震災が起こって何かしたいと考えても、自分のできることで本業を活かせることを探すのは大変だったかもしれません。

みんなそれぞれ事情がありますから、何か誰かの力になりたいと思ったときに、その意思の発露の仕方も、人それぞれでしょう。でも、「隣で転んでいる人がいたら、ちょっと手を差し伸べる」という思いは、どの人の中にでもあるものではないでしょうか。

もう1つ、「その仕事が自分にとって意味があり、面白いかどうか」が自分を動かしているという。気仙沼ニッティングに関して言えば、被災地での新しい産業の具体例を創出することや、人件費の高い国がこれからどうやって仕事を創るのかといったことに、御手洗氏は意味と面白さを見いだしていると話す。

高校生のころ、各国の若者が集まるフィリピンでのカンファレンスに出席しました。フィリピン人でそういう場に出席する子はとてもお金持ちだったりするのですが、会場の隣のスラムでは同年代の子が大変な暮らしをしている。高校生だった私は、この状況には違和感を持ちましたし、「どうにかできないものだろうか」と思いました。いまでも私は、立場が低くなっている地域が自立していくための仕事には、意味ややりがいを感じています。

2010年9月から1年間、ブータン政府で初代の首相フェローを務めました。ブータンの人々が経済的に自立していくことに貢献する仕事は、自分にとって非常に意味があると感じて、オファーを受けることにしたのです。

ブータン政府からは当初、「経済的に自立するための産業育成の仕事をしてほしい」とは言われていたものの、具体的にどんな仕事をするのかはまったく決まっていませんでした。政府の第10次5カ年計画の進捗などを見て、「1年間、自分の時間を観光産業の育成に使うのがもっとも有効だと思います」と大臣や長官に話し、具体的な職務内容を決めることから始めました。ブータンの産業の柱は、水力発電と観光産業と位置づけられていましたが、観光産業において観光客をどう増やしていくかについては具体的な策がほとんどない状態でした。そこで、ブータンへの観光で問題となっていることを観光客や旅行会社などにヒアリングし、課題を洗い出して整理し、ブータンの同僚たちと一緒に解決策を考え、実行しました。たとえばブータンへのアクセスを改善するため、航空会社のフライトスケジュールを変更しました。航空会社と政府の観光局が一丸となって進めたおかげで、観光客の方にとってはずいぶん便利になりました。

気仙沼ニッティングについては、自分にとって2つの「取り組む意味」があります。まず1つ目は、「被災地に、こういう会社が出てくるといい」と具体例を示すことです。「ただ復旧ではだめだ。新しい産業を興さなければいけない」と抽象論を言うのは簡単ですが、具体的にそれがどういうものかという事例がなければ、永遠に抽象的な議論が続いてしまいます。「たとえば、こういうことです」と1つ例があれば、考えも具体的になりますし、その例を自分の事業に活かしていく人も出てくるかもしれない。そういうロールモデルになるような会社を創出することができれば、被災した地域にとって意味がある。それは取り組む自分にとってもわくわくする仕事です。

もう1つ考えていたのは、日本全体や先進国に関することです。人件費の高い国が、これからどうやって仕事を創っていくのかは個人的にとても興味があるテーマでした。それはこれから世界の大きな課題になるとも思っています。経済のグローバル化が進むなか、人件費の安さからある国が1度生産の拠点になっても、経済が発展してある程度生活水準が上がると賃金水準も上がり、人件費の安い別の国へと生産拠点は移っていきます。その国の賃金水準が上がれば、また別の国に移るといったことが起こっているのです。ですから、日本のように生活水準が高くなってしまった国で仕事を創るには何が求められるのかということは、経済成長を果たした国に共通する、大きな課題になっていくのではないでしょうか。

私は、「これが実現できたらすごい、意味がある」と思うことができ、取り組む自分がわくわくする仕事を選ぶようにしています。「わくわくする」の中には「それが実現すれば世の役に立つ」という思いは入っていますが、世のためにという義務感で動いているわけではなく、それが自分にとってはエキサイティングな仕事だから動いている。やはり、義務感だけでは続かないと思うのです。「わくわくする」という感覚を、私は大切にしています。

2015年05月08日