「集まる意味」の新たな展開集まる目的と方法、その効果

対面・オンラインに限らず、各社では社内コミュニケーションや集まる方法についての見直しが進んでいる。第1回の記事「組織の集まり方はどう変わったのか」で紹介したように、リモートワークで難しさを感じていることのスコアがもっとも高いのは、「メンバーや同僚のコンディション不調に気づけないこと」である。

どのような目的の「集まり」が充足していないのか

調査(※)では、集まる場の目的別にそれぞれ、その機会が十分あったかどうかを尋ねた(図表1)。その結果、項目のうちもっとも「不足」のスコアが高かったのは、「同僚やメンバーと一緒に自社の企業文化を理解する機会」(68.93%)であり、次いで「新たなアイディアを生むための創発的な対話ができる機会」(68.85%)、「メンバーや同僚の感情や本音を感じ取れる機会」(67.37%)が続いた。とはいえ他の項目に目を向けるとすべての項目で60%以上が「不足」と回答している。すべての組織にとって、ここにある集まりが全部必要だとは言えないが、組織にとっては自社で必要な集まりが充足しているかどうか、検証が必要だろう。

図表1 集まる場の充足度

Q.職場のメンバーや同僚と集まる場についてお聞きします。それぞれの機会は十分でしたか。
図表1 集まる場の充足度しかし、全体平均を見たこの数字からは、集まる場の充足度が働き方によって異なっているのか、わからない。そこでまず、働き方によって「集まる場の充足度」が異なるのかどうか、「リモートワーク」「オフィス出社」「ハイブリッド」の3つのグループに分けて、その違いを分析した(図表2)。

図表2 集まる場の充足度(働く場所別)

図表2 集まる場の充足度(働く場所別)

集まる場の充足度(1かなり不足~4かなり充足)の平均値を比較すると、働く場所によって統計的な違いが見られたのは、「メンバーや同僚の感情や本音を感じ取れる機会」であり、オフィス出社では2.26だが、ハイブリッドでは2.22、リモートワークでは2.14と、物理的な距離が他者との心理的な距離に関係しているようだ。この結果からは、「感情」「本音」や「喜び」といった気持ちの部分のやりとりが、オンラインだけでは、難しいと感じていることがわかる。

大事なのは、「オンラインでは気持ちの部分のやりとりが難しいからオフィスに戻ろう」ということではない。実際、リモートワークでも本音を感じ取れる機会が「充足している」と回答しているケースも見られている。ここで検討すべきは、組織メンバーの声を聞いた上で、「本音のコミュニケーションが減っている」のなら、それに対する打ち手を組織全体で検討することではないだろうか。意図的にそうした場をつくらないと、これまでに醸成してきた組織風土を変えてしまうことにもなりかねない。

実際にどのような打ち手が取られているのか、その打ち手について効果を感じているのか、引き続き分析結果から見てみよう。

集まり方の実践とその効果

分析結果(図表3)からは、上司との会話の機会、社員同士の雑談の機会、経営上の意思決定の背景を知る機会など、図表1で課題となった「同僚と一緒に自社の企業文化を理解する機会」「本音が話せる」、図表2で働き方別の違いが明らかになった「仕事の喜びを共感する」が充足していない、という課題に対する解決策として設けられたと考えられる集まりの場が上位に上がった。以下の集まり方に対する施策全体を俯瞰すると、リモートワークで働く>ハイブリッドワークで働く>オフィスで働く、の順に多くの施策が手厚くなっていることが示されている。

また、どの働き方でも①上司との会話の機会を増やす施策、②雑談を増やす施策の順に実施率が高いことが示されている。そして、リモートワークとオフィス出社の間で差が大きかったのは、上記に加え、「支援要請をしやすい公式のしくみ」であることが示された。

図表3 働き方別実践されている集まり方(働き方別)

Q.次の対人コミュニケーションの促進施策のうち、
あなたが所属する会社で実施されているものを直近の半年間を振り返ってすべて選んでください。

図表3 働き方別実践されている集まり方(働き方別)

続いて、これらの集まり方について、効果を感じているかどうかを分析した(図表4)。その結果、効果があると感じているのはどれも半数ほどであった。さらに働き方によって異なる傾向が見られていることが示されている。

図表4 効果のあった集まり方(働き方別)

Q.次の対人コミュニケーションの促進施策のうち、あなたが所属する会社で
実施されているもので効果があったものを直近の半年間を振り返ってすべて選んでください。

図表4 効果のあった集まり方(働き方別)

集まり方をどう変えるか

「感情」「本音」や「喜び」といった気持ちの部分のやりとりが、オンラインだけでは難しいと感じていること、そこを補うために「社員同士の雑談を増やす施策(フリースペース、社内SNS、ランチ会など)」「上司との会話の機会を増やす施策(1on1ミーティング)」などが行われているが、効果が十分に得られているとはいえず、今後検討の余地があることが示されている。

働き方別に分析をしたところ、リモートワークで働く人たちのほうが対人コミュニケーションの促進施策をより実施されていることが示された。もちろん、リモートワークで本音や感情が見えにくいと感じているからというのもあるのだろうが、気になるのは、オフィスに出社することでその課題は解消されているのか。ということだ。

たとえオフィスに出社して対面で集まったとしても、本音や喜びが共有できない、支援要請がしづらい環境になっていないだろうか。パンデミック下で明らかになった課題や変化への対応の経験を基に、ぜひ定期的に職場の声を聞きながら、見えにくくなった、「職場の関係」を可視化してほしいと思う。

※調査概要
■調査名称:職場における集まることの調査
■調査目的:リモートワークの導入が進む中、日本企業の働き方の変化、職場コミュニケーションの在り方の変化を明らかにする。
■調査手法:株式会社インテージ社のモニターを用いたインターネットモニター調査。依頼人数25,736 名。
■調査時期:2023322日~27
■調査対象:三大都市圏にある従業員50名以上の企業で働くオフィスワーカー(職種が「管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業、営業職業」のいわゆるデスクワーカー)20-69歳。役職(管理職/非管理職)と従業員規模で割付を行った。
■回収数:有効回答数5,188名(有効回答率20.2 %

調査設計協力:藤澤理恵(リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員)

執筆:辰巳哲子