AIのお手並み拝見ユーモア

AIは人を笑わせることができるのか

ユーモアはコミュニケーションの潤滑油などといわれるが、気の利いたジョークをいうのも、人を笑わせるのもそう簡単ではない。ましてや感情のないAIが、ユーモアを理解することができるのか。
わたしは代表取締役の竹之内大輔氏は、ユーモアを操る人工知能の開発に取り組んでいる。同社が開発した「大喜利AI」は、写真やお題を送るとAIがボケてくれるというものだ。たとえばこのような感じだ。
お題:フランシスコ・ザビエルに似た響きの言葉
回答:知らん息子増えとる
なかには意味のわからないものもあるが、膝を打つような鋭い返しも少なくない。皮肉や駄洒落などバリエーションも豊富だ。
「笑いの世界は奥深く、こうすれば面白くなるという方法論をAIに適用すればすむというわけにはいきません。そこで、芸人さんのネタやお笑い番組の書き起こし、ジョーク集など、ユーモアを含む発話や文章をAIに学習させ、面白い回答を引き出しています」

最も適切な解が面白いとは限らない

人を笑わせるボケを引き出すため、大喜利AIは独自の仕組みを採用している。スマートスピーカーやコミュニケーションロボットなど、一般的に人との対話を目指しているAIは、人間の問いかけに対して最も適切な回答をピンポイントで探っていく。統計的に最適な解を導くために、大量のデータを集められるだけ集めては学習して、精度を高めようとしている。
これに対して、大喜利AIは、あえて最適解を狙わない。ユーモアは、最適解を外れたところに存在すると考えているからだ。
「実際の人間の会話では、常に的確な答えが返ってくることはまずありません。受け答えには幅があって、意味が通じる範囲であれば人間の会話は続きます。大喜利AIは、ぎりぎり意味が通じる境界線上にある回答を引き出しています」
問いかけに対して、ぴったり合った常識的な答えでは何の面白みもない。かといって、あまりにも外れていると、意味不明な受け答えになってしまう。文脈は通っているが意表を突いた答えが返ってくるから、ボケが成り立ち、笑いが起こるのだ。つまり、ユーモアを含んだコミュニケーションは、「わかる」と「わからない」のぎりぎりの境界線上で生まれるということだ。

AIは人間の能力を拡張するツール

このようにしてAIは人を笑わせることができる。さらにユーモアのセンスを学んでいけば、やがて人間を超えるのだろうか。竹之内氏は、「プロの芸人が培ってきた笑いのメソッドの1000分の1も理解できていない。そもそもAIを、お笑い芸人ロボットのように擬人化して考えること自体がナンセンス」だと強調する。
大喜利AIには、ユーザーのユーモアを学ぶ機能も備わっている。大喜利AIが出すお題にユーザーが答えていけば、AIは弟子のようにその人のユーモアのセンスを学んでいく。人間の弟子と異なるのは、AIは組み合わせたり、切り離したりが簡単にできることだ。
たとえば、お気に入りの芸人2人のユーモアを足して2で割る、ある芸人のネタからトレンドの要素を取り除くなど、自分仕様にカスタマイズすることもできる。言ってみれば、AIは、人間のユーモアを移植できる外部メディアのようなものだ。
「いろいろな楽しみ方が出てくるはずです。◯◯中学校1年1組が育てたAIは、そのクラスでしかわからない内輪受けのボケで楽しませてくれるかもしれません。自分では面白いことが言えなくても、婚活パーティや接待などの席で笑いを取りたければ、お気に入りの誰かのユーモアを学んだAIを、クラウド上から借りてくればいいんです」
AIは、人間の能力を補完し、拡張してくれるツールなのだ。AIの活用によって、その人特有のものであったユーモアという能力が個人から切り離され、データ化されたコンテンツを誰もが自由に再構成できるようになる。そこに思いもよらない面白いものが生まれる可能性もある。

Text=瀬戸友子 Photo=平山諭 Illustration=山下アキ

竹之内 大輔氏
わたしは代表取締役
Takenouchi Daisuke 1981年生まれ。東京工業大学卒業後、大手コンサルティングファームに勤務。母校に戻り、大学院博士課程で数理社会学・内部観測論を研究。Webマーケティング会社勤務を経て、2016年、わたしは創業。人を笑わせる人工知能「大喜利AI」を開発。