Column

世代別に認識差あるハラスメント、問題意識の共有を ―データで考えるハラスメント問題―
茂木洋之

1、 実態把握が困難なハラスメント問題
ハラスメントに関する問題が世の中を賑わして久しい。ハラスメントには色々な種類があるが、職場において主な問題となるのはやはりセクシャル・ハラスメント(セクハラ)とパワー・ハラスメント(パワハラ)だろう。(※1)アメリカで女優が映画プロデューサーのセクハラを告発した「me too movement」は全世界に広まり、日本にも波及した。日本では18年4月に財務省事務次官の報道キャスターへのセクハラ行為が発覚し、物議を醸した。このようにセクハラは今世界規模で問題となっている。

同様にパワハラも依然として大きな問題だ。電通の女性新入社員の自殺や新国立競技場の現場監督の自殺も、パワハラと関連があると言えるだろう。また最近では日大アメフト部の悪質タックル問題や、女子体操での一選手による告発などスポーツ界でのパワハラも問題視されている。セクハラも「プロデューサー→女優」などパワーバランスを含んだものとなる場合も多く、パワハラ的な要素も含むことが問題をより複雑にしている。

何故ハラスメントはなくならないのであろうか?またハラスメントの構造とは何であろうか?ハラスメント問題の対処の難しさの一つに、客観的なデータが少ないことがあるだろう。基本的な統計があまりないため、そもそも実態把握が困難なのである。ハラスメントの問題は個人的な体験に基づくものが多く、一歩間違えるとハラスメントを助長しかねない。そこで本コラムではハラスメントについてデータを使用して考えてみたい。

 

2、 グレーゾーンが多い
リクルートワークス研究所が所有している全国就業実態パネル調査(以下、JPSED)2018を用いる。JPSEDは毎年職場環境について質問している。「昨年1年間、あなたの職場について、次のことがどれくらいあてはまりますか。」という質問があり、その中の一つに「パワハラ・セクハラを受けたという話を見聞きしたことがあった」という項目がある(※2)(※3)。 この質問に対して回答者は「1:あてはまる、2:どちらかというとあてはまる、3:どちらともいえない、4:どちらかというとあてはまらない、5:あてはまらない」のどれかを選択する。本コラムでは1または2を回答した場合「ハラスメントがある」、4または5の場合「ハラスメントがない」、3の場合「どちらともいえない」と定義する。基本情報は以下のようになる。

図表1 職場でハラスメントを見聞きしたことがあるか

(注意)サンプルは社会人経験のない学生を除き、20歳~64歳の就業者に限定した。ウェイトバック集計し、サンプル数は34771名。
(出所)全国就業実態パネル調査2018

 

ハラスメントがあると回答した人は2割弱という結果になった。これを多いととるか少ないととるかは意見が分かれるところであろう(※4)。 同時に女性の方がわずかだが、ハラスメントと感じやすい結果も出た(※5)。

ここで注目したいのは「どちらともいえない」という回答者が多いことだ。ハラスメントにはグレーゾーンになるものが多い。パワハラの場合上司の(善意に基づく)厳しい指導とハラスメントの線引きが難しいこともあるのは周知の通りで、同様にセクハラも何気ない冗談のつもりが相手を不快にさせてしまうというのはよくある話だ。どちらともいえないという回答者の多さはこの事実を反映していると言えよう。JPSEDでは「どちらともいえない」という回答項目を設けることによって、ハラスメントの定義が個人によって異なり、それが対処を難しくしている可能性も示唆されたと思う。誰でもわかるハラスメントには厳しく対処することは前提とし、ハラスメントの予備軍のようなものにも注視する必要がありそうだ。なお1年間に限定せず、過去3年間でハラスメントの見聞きした経験があると回答した人は、30.2%となった。

 

3、 世代によってハラスメントの認識差有り
次に年齢階級別のハラスメントに対する意識を観てみよう。図表2は図表1を世代別で観たものだ。

図表2 世代別、職場でのハラスメントの見聞き


(注意)各性別の各年代の行を合計すると100%になる。図表1と同様のサンプル制限をしている。ウェイトバック集計後、サンプル数は男性18954、女性15817。
(出所)全国就業実態パネル調査2018

これを観ると、男女問わず若い世代の方がハラスメントを見聞きすることが多いことがわかる。その理由としてはそもそも若い世代の方がハラスメントを受ける機会が多いことが考えられる。また若い世代がハラスメントを受けていても、それが中高年世代に認識されていないこともわかる。若年世代がハラスメントを受けているとして、そのことを上の世代に報告・相談している場合は、ハラスメントの見聞きの年齢格差はなくなるからだ。特に女性でこの傾向が強く観察される。20、30代を若年世代として、40歳以上を中高年世代とすると、男女共に若年世代の方が、ハラスメントがあると回答した人が有意に多い。他にも50歳以上の方がハラスメントはないと回答する人が多い。ここからもやはり世代ギャップをうかがうことができる。

最後にハラスメントについて、どちらともいえないと回答している人が全ての世代において男性の方が多いことに注目したい。ハラスメントがあると回答している人は女性の方が多い。これは女性は明確にハラスメントだと認識しているが、男性はハラスメントかどうか判断できていない可能性がよりあることを示唆する。同じ言動でも男女によって受け取られ方が異なる、といったことは日常的にもよく散見される。ハラスメントも同種のことが起きている。
多くの調査では対象期間を限定していないため、長く職場にいる中高年者の方が、ハラスメントを見聞きする機会が多いが、JPSEDでは質問項目に「昨年1年間」とあるため、世代別の認識差がより鮮明になったと思う。

 

4、 まずは何がハラスメントかを徹底する
以上の簡単な記述統計からハラスメントは性別・世代において認識の隔たりがある可能性が示唆された。職場においてハラスメントを減らすにはどうすればいいのか。限られた分析結果であるため早急に結論を出すことはできないが、やはりまずはハラスメントに対する認識や意識を徹底することが重要であると筆者は考える。実際、企業調査や事業所調査による各種統計を観ると、ハラスメント予防・解決のための取組を実施している企業の割合は未だ十分とは言えない。例えば2016年度に東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると、取組を実施している企業は52.2%に留まる。また2017年度東京都男女雇用平等参画状況調査によると、ハラスメント(セクハラ・パワハラを含む職場でのハラスメント)に関する研修・講習等を実施している企業は61.6%となっている。
一方でこれらの対策の有効性については疑問も残る。一般的にハラスメント対策は大企業の方が進んでいると考えられる。実際に前述の実態調査報告書によると、中小企業の方が、取組が遅れていることが示されている。しかし下の図表3を見ると、中小企業の方がハラスメントの見聞きがないと回答している人が有意に多い。これは企業による対策の有効性に疑問を投げかける結果とも解釈できる。ハラスメント対策に有効な政策の模索が今後も望まれる。

図表3 従業員規模別、職場でのハラスメントの見聞き


(注意)各性別の各年代の行を合計すると100%になる。図表1と同様のサンプル制限をしている。ウェイトバック集計し、サンプル数は34771名。
(出所)全国就業実態パネル調査2018

 

※1)他にもモラル・ハラスメントやジェンダー・ハラスメントが有り、もちろんこれらも問題である。
※2)他には「性別・年齢・国籍・障がいの有無・雇用形態によって差別を受けた人を見聞きしたことがあった」などがある。
※3)この質問ではパワハラとセクハラを区別することはできない。
※4)なお、全日本自治団体労働組合による「パワー・ハラスメント実態調査(2010)」によると、「過去三年間でパワハラを受けた人」は21.9%となっている(大和田、2018)。
※5)t検定した結果、1%有意だった。以下の分析では全て1%水準で有意である。

 

■参考文献
大和田敢太, 2018, 『職場のハラスメント――なぜ起こり、どう対処すべきか』中公親書.
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社, 2017, 『平成28年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)』
東京都産業労働局, 2017, 『東京都男女雇用平等参画状況調査結果報告書』

 

茂木洋之


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