Column

10人に1人――正社員の副業実態と企業メリット
萩原牧子

希望者は原則として副業・兼業を行うことができる社会にする――。一億総活躍社会を目指した「働き方改革実行計画」で、政府が掲げている目標の一つである。副業・兼業を推進していくことで、働く人がその専門性や能力を柔軟に発揮できる機会を増やし、生産性の高い社会を実現していくことを目指す。

労働人口が減少する社会において、これまでひとつの企業内に留まっていた人材の活用を、副業・兼業によって外に開放し、社会全体での生産性を高めるという政府の狙いは理解できる。しかし、これまで、従業員に本業に専念することを求め、彼彼女らの専門性や能力を抱え込むことができた企業にとって、副業・兼業を推進することのメリットは何だろうか。

近年、一部の企業による副業・兼業を推奨する動きが注目されている。なぜ、副業・兼業を認めるのか、共通してあげられる企業メリットのひとつは「人材育成の機会」である。自社内だけでは提供できない仕事機会を、組織を越境して与えることで、従業員を育成できるというものだ。一方で、副業・兼業を認めることで、従業員の転職が増えることを懸念する声もある。これらの企業のメリット、デメリットを「全国就業実態パネル調査2017」(リクルートワークス研究所)で検証してみよう。

正社員の約10人に1人は、副業・兼業経験あり
まずは、正社員の副業・兼業の実態を確認しておきたい(図表1)。1年間に労働を伴う副業・兼業を経験した者は、正社員の10.8%にのぼり、約10人に1人は副業・兼業の経験をもつ。多くの企業が副業・兼業を就業規則により制限していることを考慮すると、本業には隠れて副業・兼業をしている人がいるかもしれない。副業・兼業の労働時間は「週単位では答えられない」が51.9%と、不規則な副業・兼業が多い一方で、週20時間以上という割合も8.6%いる。また、副業・兼業の年収は20万円未満が過半数を占めるが、100万円以上稼ぐ人も1割を超えている。雇用されて働く正社員といえども、気軽なものから、規則的に働いて高い収入を得るものまで、幅広い副業・兼業がなされている。

図表1 正社員の副業・兼業実態 %hagihara2017_01

データで検証する企業メリット・デメリット
続いて、副業・兼業により、従業員が成長機会を得られているのかを、仕事を通じた成長実感の違いで検証してみる。図表2をみると、副業・兼業を行っている方が33.7%と、副業・兼業をしていない人(27.6%)と比べて仕事を通じた成長実感が高い。企業にとっては、副業・兼業により高まった能力やスキルを、自社で生かせるメリットがある。

図表2 仕事を通じた成長実感あり(計)%hagihara2017_02
一方で、懸念される転職への影響を検証してみると、2016年12月時点で副業・兼業をしていたもののうち、2017年の1年間で転職した人の割合は、副業・兼業をしていた人の方が7.6%と、副業・兼業をしていない人(4.2%)と比べて少しだけ高いことがわかる(図表3)。

 

 

図表3 転職経験(1年間)
hagihara2017_03
従業員が成長機会を得られたとしても、転職する可能性が高まるのであれば、副業・兼業は推進できないという企業もたくさんあるだろう。しかし、個人の副業・兼業意向は、今後確実に高まっていく。その趨勢を無視して、閉鎖的な人事ポリシーを持ち続ける企業には、意欲ある人は集まらなくなるかもしれない。

 

「制限」がなくても、人材が集まる場所にしよう
それならば、「制限」をなくした後も、人材が離れずに活躍できる、もしくは、また、戻ってこれるような仕組みを考えた方がよいのではないか。例えば、離職してしまったとしても、自社のビジネス上で価値を発揮してもらうために、業務委託契約などで新しい関係性を継続したり、いつでも戻りたいと思った人を歓迎して受け入れるという環境を整える。そうして、企業をいつでも集まれる場所にしておくことが重要だと思う。

そんな魅力的な企業には、外から副業・兼業として働きたいという人も集まってくるだろう。副業・兼業が進むことは、人材を失うだけでなく、得るという両面の性質をもつのだ。人材が集まる企業にとっては、囲い込むための「制限」がなくなることは、もはや恐怖ではなく、チャンスになる。

萩原牧子


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2017年07月14日