Column

障害者の雇用から職場の在り方を見直す
湊美和

先日、聴覚障害者(ろう者)ではじめて薬剤師となった早瀬久美氏の講演を聞いた。早瀬氏は幼いころより薬剤師をめざし、1998年、大学卒業と同時に国家試験に合格するが、「耳の聞こえない者には免許を与えない」という薬剤師法の欠格条項により免許申請を却下される。その後、欠格条項撤廃運動に尽力し、2001年の法改正によって、薬剤師免許を交付された。現在は、昭和大学病院の薬剤部に勤務する傍ら、聴覚障害者外来で薬の効能や副作用の説明をしており、講演ではろう者が医療現場で抱える困難について経験をもとに語った。

増える、企業で働く障害者。問われる働き方の質
薬剤師や医師、看護士といった専門職にかかわらず、近年まで、ろう者の職業は限定されていた。手話では、「仕事」を両手で紙をさばく様子で表すが、これはろう者の多くが印刷工として働いていたからだ。現在では、ろう者の職業選択の範囲は広がってきたが、障害者全体でみれば、活躍の場はまだまだ少ない。

確かに、民間企業に雇用される障害者数は増えている。2014年6月1日現在43.1万人で、11年連続で過去最高を更新した。これは、障害者雇用促進法における割当雇用制度(障害者雇用率制度)のもと、企業が積極的に取り組んだ成果であり、民間企業の障害者雇用は着実に進展しているといえる。今後新たな焦点となるのは、雇用した障害者に能力を発揮してもらうための環境づくりやマネジメントだろう。まさに人事の手腕が問われることになる。

法改正を機に職場の在り方を見直す
2013年の改正で、障害者雇用促進法は差別禁止義務と合理的配慮の提供義務を定め、この改正部分は,2016年4月1日から施行されることになった。2つとも障害者差別の文脈における義務であり、企業は、割当の数以上の障害者を雇用するのは当然のこととして、差別禁止義務では直接差別の禁止、つまり障害を理由に採用を拒否することや低い賃金を設定すること、教育の機会を与えないことなどが禁じられる。また、合理的配慮の提供義務では、費用や労力などにおいて企業に過度な負担を及ぼすことがない範囲で、障害者が働くにあたっての支障を改善することが義務付けられる。どちらも義務を果たさない場合は、厚生労働大臣から事業主に対し、助言、指導または勧告が実施される。

差別禁止義務は男女雇用機会均等法の枠組みと類似しており、比較的、企業の理解を得やすいと思われるが、合理的配慮の提供は、この概念がこれまで日本に存在しなかったことから、人事のなかには不安を抱く方もいるかもしれない。だが、『平成 25年度障害者雇用実態調査』(回収企業数8673社、厚生労働省)によれば、身体障害者については73.8%、知的障害者については68.4%、精神障害者については66.0%が何らかの「雇用上の配慮をしている」と答えている。また、配慮している内容については、身体障害者に対しては「配置転換等人事管理面」、知的障害者に対しては「工程の単純化等職務内容」、精神障害者に対しては「通院・服薬管理等雇用管理」が、最も多くなっている。つまり、合理的配慮の提供は、これまでも企業は行ってきており、殊更不安を抱く必要はないと思われる。

とはいえ、差別禁止の文脈上の義務であることから、障害者だけが不利な状況に置かれたり、やりたいことが制限されないかといった視点はあらゆる場面において求められる。また、合理的配慮は「個々の事情を有する障害者と企業の相互理解のなかで提供されるべき性質のもの」とされていることから、個々の障害者との対話によって配慮の内容について合意形成を行い、その内容は記録しておく必要がある。つまり、何か1つの施策を講じればいいというものではなく、上司や同僚といった職場の理解を進めることが何より大切になるだろう。

手話では、「会社」は、両手の人差し指と中指を伸ばし、顔の横で交互に前後させることで示す。これが人差し指だけになると「遊び」となる。成り立ちの経緯はそれぞれ異なるが、この2つが似ているのは、ろう者にとってはどちらもある意味「別天地」であり、「心をときめかせる」ものだからではないか、と私は捉えている。障害の有無にかかわらず、誰にとっても、「心をときめかせて働く」会社、職場であるために、人事は何をすべきなのか。このたびの障害者雇用促進法改正を機に考えてみてはいかがだろうか。

湊美和


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