Column

外国人材の受入れに関する3つの決定的な誤解

 

2018年6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太方針)には、次のような記載がある。

『人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている。このため、設備投資、技術革新、働き方改革などによる生産性向上や国内人材の確保(女性・高齢者の就業促進等)を引き続き強力に推進するとともに、従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある』

この骨太方針の文章のとおり、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命に続く、次なる日本のキーポイントとなる重点政策として浮上しているのが、“外国人材”である。深刻化の一途をたどる地方・中小企業を中心とする人手不足のなかで、これまで政府で検討され実行に移されてきた内なる人材の活用策と合わせて、外からの人材受入れ・活用を検討するフェーズに移行しつつある。

この外国人材を議論するうえで、近年の外国人材をとりまく状況の急激な変化を押さえておく必要がある。我々が想像してきた外国人材に対するイメージが、今大きく変わりつつある。今回はその変化による、“誤解”を取り上げたい。

 

第一の誤解:日本の労働市場には外国人材が入ってこない

まず、日本は外国人材、外国人労働者が入ってこない国、という誤解である。

2018年の成人式において、東京23区の新成人の8人に1人が外国人であり、特に新宿区においては約半数が外国人であった(45.8%)という。外国人観光客の急増もあり、都市部・地方部問わず、外国人が増えつつある感触を持っている方が多いのではないだろうか。実は、日本は既に、技能を有して就労ビザで入国する外国人労働者の流入数が世界的に少なくない水準にある。

図表1をご覧いただきたい。外国人労働者の年間流入数は日本4.1万人であり、フランス2.5万人、ドイツ2.7万人より既に多く、また流入数の総人口比率は日本0.033%で、米国0.021%よりも高い。労働力という意味での外国人材については、実は日本は決して欧米と比較して少なくない。

図表1 外国人労働者の年間流入数とその総人口比(2015年)


出所:OECD “International Migration Outlook 2017” 、United Nations“World Population Prospects 2015 REVISION” より作成
注:OECD各国データよりMigration inflows (foreigners) by type permit based statistics (standardised),“Work”の値を集計。総人口比率については、年間流入数を総人口(国連データ中のTABLE S.1. TOTAL POPULATION)にて除したもの。

 

第二の誤解:高度外国人材は欧米から来る

第二に、高度外国人材についてである。日本においても、高度外国人材の受入れを促進するため、学歴、職歴、年収などの項目ごとに付与されるポイントにより出入国管理上の優遇措置を講じる「高度人材ポイント制」が2012年に創設された。このポイント制により、2017年12月末までで、1万572人が認定されている。政府目標は当初「1万人を2020年末までに認定」であったが、期限よりも早期にこの目標が達成される見込みがたったことから、「2万人を2022年末までに認定」と政府目標 ※1引き上げている。

政策目標を超えた受入れが進捗する高度外国人材についても大きな誤解が存在する。それが、「高度外国人材は欧米から来る」という誤解である。そのようなイメージを惹起する原因は、欧米からきた“お雇い外国人”という高度外国人材を受け入れた歴史を有し、欧米列強に追い付き追い越せの記憶を持つ日本社会においてはさまざまに存在するといえるが、現代における一つの例としては、ポイント制の紹介をする法務省のリーフレットがある。この表紙に“日本列島でさまざまな外国人が活躍する”イメージのイラストが掲載されているが、中央の日本人家族と思われるキャラクターをとりかこむ“高度外国人材”は、そのほぼ全員が金色や茶色の髪をした白人系の欧米人風のキャラクターとなっている(図表2)。また、政府のインターネットテレビにおいて高度人材ポイント制を紹介する動画が配信されているが、約10分間の映像のなか、冒頭にインタビューされる外国人5名、そして後半で取り上げられる日系企業で働く高度外国人材1名の計6名は白人の欧米人である※2

図表2 高度人材ポイント制のリーフレット 表紙のイラスト

このように、政府のPRにおいても白人系の欧米人のイメージが先行しているが、こうした日本社会において共有されたイメージと実態は大きく異なる。高度外国人材に認定されているのは国籍・地域別に見れば圧倒的に中国人が多く、実に3分の2を占めている(図表3)。いわゆる欧米人は米国(5%)に加え、その他の内実として含まれるに過ぎない。

今日、インバウンドにおいても中国からの来訪者数の影響はきわめて大きいが、実は高度外国人材においても圧倒的な多数は日本海を挟んだ隣国、中国からの人々だという事実は、押さえておかなくてはならない。

欧米だけでなく中国をはじめとするアジア各国から高度人材を受け入れているのが、現在の日本である。外国人受入れに向けた学校、病院、住環境など、生活面の整備が議論されるが、出身地域が異なれば生活文化も異なる。出身地域の幅広さを踏まえた多様な生活環境の整備が求められる時代に入っているといえよう。

図表3 国籍・地域別の高度外国人材の在留者数(2016年末)

出所:法務省「国籍・地域別高度外国人材の在留者数の推移」(2016年末時点)より作成

 

第三の誤解:外国人留学生は日本の大学に通っている

最後に、外国人留学生についての誤解に触れたい。外国人留学生については、政府が2008年に「留学生30万人計画」を策定、2008年に12万人あまりだった留学生数を2020年に30万人以上とする目標を設定している。直近、2017年5月時点では26.7万人となっており、30万人目標は達成目前のところまで来ているといえよう。「留学生30万人計画」骨子には、その趣旨として、『高度人材受入れとも連携させながら、国・地域・分野などに留意しつつ、優秀な留学生を戦略的に獲得していく。また、引き続き、アジアをはじめとした諸外国に対する知的国際貢献等を果たすことにも努めていく』と明記している。また、その5つの柱の1つとして『大学等のグローバル化の推進~魅力ある大学づくり~』という政策方針が記載されており、国際化の拠点となる大学の選定などが盛り込まれている。

現在においても、外国人留学生といえば、大学や大学院に在学している像が思い浮かび、確かに留学生総数に占める割合はこれまで大学生が最も多かった。しかし、2017年の段階では異なる状況が顕在化してきている。

2017年時点においては、日本語学校などに在籍する学生が大学に在籍する学生数を超え、留学生中最多の在籍機関となっている。また、日本語教育機関、大学に続くのは専修学校(専門課程)、いわゆる専門学校となっている。留学生のなかで、大学や大学院に通学する者は全体の半数弱(全体の約46%)にとどまり、また3人に1人は日本語学校の生徒(全体の約30%)なのである。

推移でみると、昨今の留学生数の急激な伸びは、主として専門学校と日本語学校によるものであることがわかる(図表4)。2011年からの6年間で、専門学校は約2.5万人→約5.9万人へと+3.4万人、日本語教育機関は約2.6万人→約7.9万人へと+5.3万人と合わせて8.7万人ほど増加している一方、大学学部・短大・高専を合計しても、その増加は約7.1万人→約8.0万人と+0.9万人程度である。

なお、日本語教育機関生徒数は2014年調査から、「留学生総数」に含められている。

図表4 留学生数の推移(学校種別)

出所:独立行政法人日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果」


外国人とともに働く時代に向けて

本稿で見たように、外国人受入れが量的に本格的に進捗するなか、質的な変化が本格的に起こりつつある。我々が想起するような外国人像よりも実態の多様性は大きく増しているのである。政策面では、この多様性を踏まえた施策展開が必要になっており、例えば、外国人材が求める生活環境については、宗教に加えた言語レベルやライフスタイルの多様性によるニーズが増してくるものと考えられる。また、高度人材ポイント制における両親・家事使用人等の「帯同ルール」※3については本国における家族構成の幅の広がりを踏まえより緩やかなルールとしていくことが更なる受入れや高度人材の定着に繋がる可能性がある。

日本社会が本格的な人口減少局面を迎えつつあるなかで、企業組織がイノベーションを持続的に起こそうとするならば、外国人をはじめとする多様な人材の活用は最重要要素の1つとなる。日本的就業システムにおける人材活用の均質性から脱出しようとするとき、今、この社会で活躍する外国人について、共有されてきたこれまでのイメージを新たにする必要があるだろう。

 

※1:内閣官房「未来投資戦略2018」
※2:政府インターネットテレビ「企業や研究機関の方必見!優れた人材を海外から 高度人材ポイント制」2016年3月24日公開(2018年6月14日閲覧)https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg13360.html
もちろん、非白人の欧米人も多数おり、そうした多様性も含めて、政府の高度外国人材関係資料では捨象されている。
※3:現在の高度外国人材には、妻・子の帯同とは別に、7歳未満の子を養育している場合などの一定の条件に限定して親の帯同が許可されている。また、一名までに限り家事使用人の帯同が許容される。

 

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中村天江
大嶋寧子
古屋星斗(文責)

次回 「外国人材」は派遣と同規模に? 労働市場政策は新局面へ  8/7公開予定

2018年07月31日