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50代の学び、リカレント教育は真の解か?

 

50代はキャリアの「最終コーナー」から「折り返し地点」へ

一昔前の50代といえば、組織のなかでのキャリアの到達点は既に見えており、60歳の定年を前に、職業キャリアの最終コーナーを回る時期だった。しかし健康寿命が長くなり、100年キャリアの時代に移り変わるなかで、50代はあと15年、あるいは20年働き続けるための足掛かりをつくるべき「折り返し地点」へと変化している。

組織の立場からも、従業員全体に占める50代のウェイトは今後さらに高まっていく。中高年以降の人材が、いかに能力開発に取り組み、働く能力をバージョンアップしていけるかは、組織が変化をキャッチし、次の機会に踏み出していくエネルギーを左右するといえる。

ところが、50代の能力開発は低調である。図表1は、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」を用いて、20~50代の正社員男性のうち能力開発の機会があった人の割合を示している※1

これによると、OJT(仕事を通じた能力開発)やOFF-JT(座学など仕事を離れて行われる能力開発)を行った人の割合は年齢とともに低下し、50代でそれぞれ41%、35%となる。また、「40代男性、学んでいない人はなぜ学ばないのか?」で見たのと同様に、年齢とともに自己啓発の活動量も低下し、50代で35%となる。

より問題が大きいのは、能力開発の機会が一切なかった人の割合である。同じ調査を用いて過去1年間にOJT、OFF‐JT、自己啓発のいずれも行わなかった人の割合を見ると、20代では約2割から年齢とともに上昇し、50代で約4割を占めるようになる。「全く学んでいない」人が増えるのが50代なのである

図表1 能力開発を行った割合(正社員男性)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」

 

リカレント教育は能力開発の真の解か

社会人の学びをいかに促進するのかは、政策上も大きな関心事項となっている。安倍総理は「人づくり革命」を掲げており、2018年夏に政府が打ち出す人生100年時代を見据えた「基本構想」でも、柱の一つとしてリカレント教育(学び直し)が盛り込まれる方針だ。例えば、より多くの人が学び直しの機会を手にできるよう、産学連携での教育プログラムの開発や、実践的な教育を担う人材の確保、成果が分かりやすく、費用も安価な学びの機会の整備といった具体策が盛り込まれる方向とされる。

しかし、リカレント教育の充実が、50代の能力開発の起爆剤となることは難しそうだ。50代の正社員男性について見ると、昨年1年間に職場で能力開発の機会があった人(OJTとOFF-JTのいずれかを行った人)のうち、自己啓発を行った人は約5割に上る。しかし、職場で能力開発の機会がなかった人(OJTとOFF-JTのいずれも行わなかった人)のうち、自己啓発を行った人は1割程度しかいない(図表2)。

つまり、職場で学ぶ機会のある人は職場の外でも自ら学んでいるが、職場で学ぶ機会がない人は、組織の外でも学んでいないという二極化が生じているのである。

ここから推察されるのは、リカレント教育の推進は職場で能力開発の機会がない50代が、会社の外で学ぶ行動を期待するほどには増やさない可能性である。

図表2 OJT/OFF-JTの機会別に見た自己啓発を行った人の割合(50代)


※50代の既卒男性正社員
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」


「学ぶ必要」があれば50代でも学んでいる

50代の能力開発を促進するヒントは、「学んでいる人」にある。図表3は50代の男性正社員に限定し、仕事の性質やキャリアの展望の有無別に、能力開発の機会がなかった人の割合を見たものだ。

これによると、仕事について「単調ではなくさまざまな仕事を担当した」「自分で仕事のやり方を決めることができた」「今後のキャリアの見通しが開けていた」という質問に対して、「当てはまる」と回答した人 ※2では、能力開発の機会がなかった人の割合はより低い

仕事が単調ではなく、新しいことを覚える必要があること、自分で考えて臨機応変に対応する必要があること、キャリアの先行きが見えていることと50代における能力開発の機会はプラスの結びつきがあるようだ。

図表3 能力開発の機会がなかった人の割合

 注:50代の既卒男性正社員。
能力開発の機会がなかった人とは、昨年1年間にOJT、OFF-JT、自己啓発のいずれも行っていない人を指す。

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」

 

50代の能力開発機会を増やすために、組織がこの年齢階級の人材に、戦略的に「学ぶ必要」を分配することが必要だ。

たとえば、より高度な専門能力の発揮が必要な業務を兼務させる、手挙げ制などで部署異動できる機会を増やす、社員とコミュニケーションを取りながら配置転換の機会を設けるといった方法があり得る。ほかにも、定年時点でより高い専門知識を身に付けている人を評価し再雇用時の処遇を上げる、65歳以降のキャリアを展望・設計するセミナーを開催するなどの方法が考えられる。

実際、「シニアのキャリア形成もチャレンジングに ソニーの『Career Canvas Program』」で紹介したように、兼務案件での公募に応募して採用されると、現部署の仕事を続けながら、2割から3割程度、他の部署の業務に携わることが出来る制度や、上司の了承のもとで登録した自分の経歴がマネジメント層に共有され、必要としている部署があればスカウトされる仕組みを導入するなど、組織が50代の知識と経験の広がりを支え、社員自身が未来を描きやすくするための仕組みを導入するケースも出てきている。

もちろん、そうした機会を組織内で提供できない場合もあるだろう。そのような場合には、副業を解禁・推奨し、組織の外に学ぶ機会と必要をつくり出すという方策がある。実際、副業を行った人と行っていない人に分けて能力開発の状況を比べると、副業を行っている人では能力開発をまったく行っていない人の割合が低い。

 

ステレオタイプ一掃という政策アシスト

ただしここには1つ落とし穴がある。組織や労働者が、50代は新しいことを学ぶことが難しいと認識している場合、組織が学ぶ必要を分配することや、50代がそうした分配に応じるハードルが高くなる。

しかしながら、中高年期に新しいことが学べないという認識は誤りだ。いくつもの研究が、中高年期の人材が新しいスキルを習得することは十分可能であること、ただし中高年期にフィットした能力開発の方法論があることを指摘している※3 。「中高年になると物覚えが悪くて」というのはある程度正しいかもしれないが、きちんとした方法を取ることで学びは確実にその人の力になり、その先のキャリアを支え得るのである。

このような状況を考えると、50代以降も組織が能力開発の機会を配分し、働く人もその機会に手を伸ばせるようにするための政策は、企業の「外側」に能力開発の機会を作ることだけでは十分ではない。むしろ、会社や中高年期に入った人が年齢の壁を感じずに、学び続ける自信を持てるような能力開発のスタイルを解明すること、そうしたスタイルを社会に普及させることが重要である※4

年齢によらない学びのスタイルの解明は、50代の能力開発の機会を増やすことだけでなく、超高齢化と技術進歩が同時進行する時代に、すべての人が自信を持って次のステップを模索するためのインフラとなるだろう。

 

※1 なお、以下では正社員として働く男性に焦点を合わせている。性別や雇用形態を絞りこむのは、それらの差がもたらす環境の違いを一旦外して状況を確認するためである。
※2「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」の合計。
※3 Picchio(2015)は中高年以降の人材の学習に関する既存研究に基づいて、中高年期以降の人材が新たなスキルを学ぶことは十分可能であり、訓練はスキルの陳腐化を回避して、技術ベースの職業に対応することを可能にすると指摘している(Matteo Picchio, “Is training effective for older workers? Training programs that meet the learning needs of older workers can improve their employability” IZA World of Labor 2015: 121)
※4 日本でも職業能力開発総合大学(2002)で、中高年期の能力開発には個別性が高く、反復を重視した訓練、訓練意欲を継続しやすい指導、作業補助具の活用などが有効であることが明らかにされているが、16年後の今日においても同じ状況が該当するかは不明である(職業能力開発総合大学校能力開発研究センター<2002年>「平成13年度厚生労働省受託ミレニアム・プロジェクト:高齢者に対する訓練及び訓練手法のあり方についての調査研究報告書」)。

 

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労働政策センター

中村天江
大嶋寧子(文責)
古屋星斗

次回 「「学ぶコスト」は個人が組織から獲得する時代へ」 5/25公開予定

2018年05月18日