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継続就業者の賃金は大きく増加 坂本貴志

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マクロ統計では、賃金は微増

「毎月勤労統計調査」によると、2017年の名目の現金給与総額は、前年比0.4%の増加となった。近年の現金給与総額の推移をみると、ベースアップによる影響などから賃金は着実に増加しているが、上記の結果をみるとその増加率自体は小さなものであり、物足りなく感じる人もいるだろう。

毎月勤労統計などによるマクロの賃金変化は、日本の平均的な労働者の賃金がどう変化したのかをみるうえで重要な指標である。しかしながら、賃金は、同じ労働者であっても、年齢や就業形態によって大きなばらつきがある。たとえば、従来は再雇用されなかった人が、人手不足の高まりを背景に従来よりも低い賃金水準で同一企業に再雇用されてしまうと、この人が再雇用なく退職していた場合に比して平均賃金は下がってしまう。

このように、個々の労働者の特徴に応じて賃金は大きく異なっている中、平均的な労働者の賃金変化だけをみて賃金の動向を説明しようとすれば、どうしても個々人の実感とずれてしまうのだ。

継続雇用者に限れば、賃金は大幅に上昇している

ここでは、そのような影響を排除して賃金の変化を分析するために、同一個人に継続調査を実施している「全国就業実態パネル調査」を用いることとする。まずは、毎月勤労統計調査と同様に、2016年から2017年にかけての1年間の収入の変化をみてみると、前年比1.5%の増加となった。

図 単純平均の賃金変化と継続就業者の賃金変化

しかし、この数値は、上述のように必ずしも個々人の実感を表しているとはいえない。このため、続いて、継続就業者の収入の変化をみてみよう。継続就業者の中には、2年間同一企業で勤めている人もいれば、その間に転職している人もいるであろうから、同一企業に勤めている者と、転職した者に分けて年収の増減をとって分析する。

結果をみると、2016年と2017年で同一の企業に勤めていた者の年収は前年比+4.0%と、マクロの増加率を大きく上回る結果となっている。正規雇用者と非正規雇用者に分けても、正規雇用者で前年比+3.4%、非正規雇用者で前年比+6.5%といずれも収入が大きく増加した。また、転職を経験した者の年収も、雇用者全体で前年比+8.0%と大きな上昇率を示している。 

賃金上昇という成果はしっかりと表れている

以上の結果をみれば、入退職や年齢構造の変化の影響などが色濃く表れるマクロの賃金変化をみるだけでは、賃金動態の真相に迫ることはできないということがわかるだろう。

現下の経済環境をみると、大企業を中心としたベースアップの広がりや、人手不足による労働需給の逼迫などにより、賃金が上昇しやすい環境が整ってきており、実際にその成果もしっかりと表れているのではないか。日本において働く人の収入がどう変化しているかを総合的に把握するためには、パネル調査による分析結果をもっと活用していく必要がある。

坂本貴志(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)

※本稿は「Works Index 2017」に掲載されているコラムの転載(一部調整)です。

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

2018年08月23日