リクルーティングの未来 ~グローバル人事 最前線~ 毎月更新 全21回

Vol.14 人材サービスのプロの視点 - 人材派遣

国際人材派遣事業団体連合(CIETT) マネージング・ディレクター デニス・ペネル氏 (Denis Pennell)

【団体プロフィール】
国際人材派遣事業団体連合:Confederation Internationale des Entreprises de Travail Temporaire(CIETT) 1967年5月17日にパリに創設された人材派遣業界の国際組織。主に顧客会社の業務に労働者を派遣する人材の就労斡旋をビジネスとする各国事業主団体や世界トップクラスの人材サービス企業を統合。世界48カ国の事業主団体と9つの法人企業が会員となっている。

人材サービス業界のイメージ向上に不可欠な「フレキシキュリティ」

欧州のスタッフィングサービスには、人材派遣、人材紹介、トレーニング、アウトプレースメントなどが含まれますが、各国の労働法が大きく異なり、ビジネスモデルやサービス内容、成熟度など国によって違いがあります。欧州全体での人材派遣浸透率を見てみると、労働人口のおよそ2%と、まだそれほど発展していないとも言えます。これは、日本と同じくらいの規模ではないでしょうか。最も発展しているのは英国で4%。その他の国は0.5%以下のところが多いというのが現状です。このように人材派遣浸透率は低いのですが、労働市場において重要な役割を担っているのは確実です。

この業界が誕生した当初は人材派遣が中心でしたが、その後、人材紹介、トレーニング、エグゼクティブサーチ、アウトプレースメント、ペイロールなどの新しいサービスが生まれ、現在ではあらゆるHRサービスを企業に提供しています。また、単純技能労働者だけでなくハイエンドの専門職労働者を企業に派遣するなど、内容面でも、企業から期待される役割や認知度が高まっています。

私は、この業界は今後さらに大きく発展するポテンシャルを秘めていると確信しています。なぜなら、労働市場の複雑化や激しい変化によって予測が難しい時代にあって、企業は、より柔軟な人材計画や迅速な採用などの必要に迫られているからです。それはまさに、私たちが担う役割で、我々の業界には大きな未来が待っているといえるでしょう。

また、現在は企業に向けたサービスが中心になっていますが、今後は個人向けのサービスが重要になってくると思います。終身雇用の時代が終わり、2年から5年ごとのジョブチェンジやポスト替え、転職などが必要になっています。そのため、労働者一人ひとりを一生にわたってサポートするキャリアエージェントの役割を担うことも大切だと思います。

こういった役割を担うためには、業界のイメージを改善することが不可欠です。そこで最大の問題となっているのは、労働者の柔軟性とセキュリティをどうすれば同時に実現できるかということ。私たちはそれを「フレキシキュリティ」という言葉で表しています。その実現のために、派遣労働者を保護するための多くのツールや制度も築いてきました。

たとえば、一部の欧州諸国には、スタッフィング業界のための2大機関が存在します。労働組合が運営しているものと、私たち雇用主が運営しているもので、派遣労働者によるトレーニングへのアクセシビリティを促進し、しっかりとした年金制度の整備や職場における安全衛生の確保、医療保険の適用の拡大など、派遣労働者の保護に取り組んでいます。

派遣労働者の保護や生活向上を図るためには、国レベルでの協議が不可欠です。私たちは、そのような活動を積極的に推し進め、無期雇用、有期雇用、臨時雇用、パートタイムなどの雇用契約のいかんにかかわらず、労働者すべての年金等の社会保障や安全衛生などが保護されるように取り組んできました。

ベルギーやフランスでは、それぞれに中央の経済団体(日本ならば経団連のような)に属し、そのなかでの発言権や影響力を高めるように取り組み、政府や労働組合との話し合いに間接的に参加する形をとってきました。また、オランダやドイツ、イタリア、スペインなどでは、業界の規制や派遣労働者の労働条件について労働組合と直接協議しています。

労働組合は実際には派遣労働者の代表ではありませんし、派遣労働者の組合員数は多くはありません。しかし、我々が労働組合との合意をとりつけることによって、業界への規制を緩和するよう政府を説得することができたのです。業界がより受け入れられるようになるためには、労働組合との交渉が必要だと思います。

高失業率の一方で労働力不足が生じ、人材サービス業界のニーズは高まる

欧州の現在の問題は高い失業率で、失業者数は2,300万人に達しています。しかし一方で、埋めることができない求人ポストが400万件存在します。つまり、高失業率と労働力不足が同時に生じているのです。

そのようなマッチングのズレが生じているのには、主に2つの原因が考えられます。1つは、多くの国の経済全体が製造業中心からサービス業中心に移り、製造業で活躍してきた労働者や製造業を目指す人材の需要が減っていること。もう1つは、例えば倉庫作業などの単純労働にもある程度のPC操作スキルを求められるように、スキルや技能が高度化し始めていること。European Training Instituteは、今後20年間で高技能スキルを持った労働者がさらに必要になると予測しています。

また、2050年までに必要とされる労働者数は約3,500万人といわれていますが、日本と同じように人口の高齢化が進み、労働市場に参入する若者が減っています。これは今後、新たな労働力不足を生み出し、採用活動にも影響を与えるでしょう。

だからこそ、単なるリクルーティング会社だけでなく、採用やペイロールなどの研修も含めてトータルにサービスを提供できるHRサービス企業へのニーズが高まると思います。労働者が仕事に求めるものも変わってきています。適材を適所につけるためには、スキルだけでなく、個々人の思いや考え、性格、嗜好など、目に見えない部分も重要になっているので、ますますマッチングは高度化し、専門のアウトソーサーのニーズが高まると考えられます。

グローバル規模の人材不足を解消するための手段や社会制度

今後は、グローバル規模の人材不足や、人口動態の変化における格差にも対応する必要があるでしょう。一部の先進国では労働力不足が生じますが、新興国にはスキルを持った若い労働力が大量に存在します。そのマッチングをいかにしていくか、私たちにとってこれは課題であると同時に、チャンスでもあると考えられます。

そのときに一番の問題となるのは、移民規制です。現在、フィリピンやブラジルから労働者をヨーロッパに派遣することはできません。移民や労働許可証などさまざまな問題が立ちはだかっているのです。労働移動が自由化されている欧州内でも、実際はまだまだ制限があります。出生国と異なる国に住み、働いている欧州市民の割合は平均3%未満にすぎません。つまり、それだけ発展の余地があるということです。

こうしたグローバルな動きに対応して、北欧には、国境を越えて労働者が移動するためのトレーニングを提供し、優れた先進事例を作っている民間企業が数社存在します。

特に、人口動態に関する全般的な傾向として、この先10年は、欧州では高技能労働者の需要が高まると考えられます。だからこそ、企業が求めるスキルを取得できる何らかのトレーニングを提供する役割を担う企業や組織が必要になることでしょう。

そのためには、公共と民間の連携も不可欠になるはずです。英国とオランダ以外のEU加盟国で、公共と民間の連携を促進するPARES(パレス)という制度がありますが、そのような動きも、我々が活動の枠を広げるチャンスだと考えています。

今後10年間に、スタッフィング業界が大幅に発展すると予想できるのはアジアです。ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピンでの事業が活性化するでしょう。そうなると、日本のスタッフィング会社がそれらの地域で重要な役割を担うと、私は考えています。

労働市場の変化が激しいからこそ、サードパーティーの存在が重要になる

変化のスピードが速く、厳しい経済状況が続く欧州では、企業は自社のコアビジネスに注力し、経理やマーケティング、人事といった事業を外注する傾向が強まっています。企業の採用力が落ちているので、RPOの利用が増え、サードパーティーが企業の採用力を補うようになってきたのではないでしょうか。

サードパーティーが台頭する背景には、労働力人口の多様化もあります。欧州では現在、同じ職場に4つの異なる世代が共存しています。また、働く女性や移民、障害者なども増え、労働市場には多様なニーズがあります。

20~30年前はほとんどの人が終身雇用契約を結んでいましたが、現在は、派遣労働者、有期雇用、パートタイム、フリーエージェントなど、雇用関係も多様化しています。フランスやベルギー、イタリアでは、30種類以上の雇用契約があり、労働者は自分に合った契約を選ぶ必要があります。その選択を、仲介業者がサポートすることが大事になるのです。

選考においても、資格や学位よりもコミュニケーション能力などのソフトスキルやコンピテンシーが重要になっています。それだけ複雑化しているからこそ、サードパーティーの存在が大切になってきます。

すでにそれらの変化に即応し始めている人材会社はあちこちにあります。スタッフィング業界がコンピテンシーのアセスメントツールを開発したり、採用候補者を1~2カ月試験雇用する採用前サービスを提供するなど、採用候補者を柔軟に調達するだけでなく、労働市場の変化に素早く対応できるのが、我々の強みだとも考えています。

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