リクルーティングの未来 ~グローバル人事 最前線~ 毎月更新 全21回

Vol.6 グローバル企業の採用戦略 - エクスペリスの場合

エクスペリス リクルーティング部門長 トム・ベッカー氏(Tom Becker)

【企業プロフィール】
エクスペリス(Experis) 世界80カ国に拠点を置くマンパワーグループで、IT、金融、エンジニアリング分野を扱う専門職系スタッフィング部門。「経験(Experience)」と、高い「専門知識(Expert)」を兼ね備えたエンジニア集団という意味が込められている。

大企業のリクルーターに、改めて求められる専門力と人間関係構築力

エクスペリスは年商約40億ドル。米国やEMEA(欧州、中東、アフリカ)を中心に事業を展開し、南米やアジア太平洋にも拠点を持つグローバルな組織です。

私は主に、北米にいる280人ほどのリクルーターのマネジメントと、インドのニューデリーにある人材調達サポートチームのマネジメントをしています。世界中に大規模な採用センターを展開する事業の責任者として、私の仕事も非常にグローバルになりました。

エクスペリスのHRではグローバル・グループを設け、コンピテンシーや人材トレーニング、オンボーディング(採用から定着させるまでのプロセス)などを、世界中で画一化するための基準づくりを試みています。国による規制の違いはありますが、どこまで基準を展開できるかがポイントになると考えています。

リクルーティングはそもそも人間関係から生まれたもので、ネットワーキングやコミュニケーションに関する高いコンピテンシーが必要でした。そのかわり、あまりプロセスは重視されていなかったように思います。

それが、インターネットや最適化ツールの台頭に伴い、大企業を中心としたリクルーターの仕事は業務処理のようになりました。必要とされたのは、対人要素というより、箱を素早く動かせるというような採用業務の処理でした。

ところがトレンドが逆戻りして、人間関係を構築できる人、プロセスを理解できる人が求められていると思います。

最近の大企業のほとんどは、面接の手配などのアドミ業務を完全に別の機能(部門)に切り離しています。そのため、リクルーターには、人間関係を構築できる力とタクソノミー(彼らのスキルセット)とフォークソノミー(他者の好み)の理解が不可欠になっています。

さらに、大企業のリクルーターの役割はより専門化していくと思います。ソーシングからリテンションまで、ハンティングなど社外人材の採用や社内の異動など、異なるスキルセットが望まれるため、採用プロセスのいずれかに特化して専念していくことになるでしょう。一方、小さな企業のリクルーターはオールラウンド型で、それは今後も変わらないでしょう。

ジョブボードからリンクトインなどによるタレントコミュニティづくりへ

リクルーティングの世界における大きな変化の1つは、候補者へのアクセスやネットワークづくりの方法です。インターネットサイトやジョブボード(モンスターやキャリアビルダーなどの求人・求職サイト)はますますグローバル化が進み、リンクトイン※1も大きく変化し、弊社もこれに深く関与していきたいところです。

特に、リンクトインはとても良いデータや分析(アナリティクス)を提供し始めていて、今後積極的にジョブボードと張り合うようになるでしょう。

個人的な予想ですが、従来のジョブボードのモデルが10~20年先も持続可能かどうかはわからないと考えています。そういった業務処理的(トランザクション的)なリクルーティングは不可欠ですが、先ほども少し触れましたが、企業はタレントコミュニティの形成に重点を置くようになっています。

そのためウェブサイトやテクノロジーを通じた候補者との交流がより重視されるようになり、インターネット上のイメージ(印象)やソーシャルグラフが重要になってくると思います。

全球的な人材活用(人材のグローバルヒートマップ)

また、弊社の顧客企業にとっての大きなトレンドは、いかにして必要な人材をグローバルに調達・調整できるかです。

たとえば、スペインの失業率は20%以上ですが、それらの人材をどのように活用すべきなのか?彼らのスキルセットに基づいて英国や米国のポートランドなどより失業率の低い地域で活用できないのか?

実際に、カナダでは一時期、鉱業の人材が非常に不足していました。一方、メキシコは失業率が高かったので、弊社では移民受け入れに積極的なカナダへ、メキシコの鉱山労働者を大量に送りこみました。これはグローバルな人材プールを活用した調達だったと思います。今後は、このようなことがもっと普及すると思います。

人材に関しては、人口動態に基づいて、各国間で輸入したり輸出したりすることが可能かもしれません。

たとえばリンクトイン、フェイスブック、ツイッターなどのデータが一元化されて、1カ所でアップデートされたデータが自動的に反映されるようになると、より活用が深まると考えています。

ただし、一元化にあたり、プライバシーの部分をどう処理するかが問題になります。また、グローバルに人材を扱いたいときに問題になるのは、各国間の規制や法律です。

たとえば、インドに駐在している米国人が母国に帰ってくる、あるいはその逆の場合、彼らのデータを見たくても、両国の法律によってできません。英国人を南アフリカでの仕事で採用したくても、その人物に関する記録は英国のデータベースに置かなければならないのが課題です。

複数のデータを持つか、あるいは2つデータを統合するといったようなことが必要になるでしょう。

今後10年でRPOは成長するのか

エクスペリスは常時100万人ものコンサルタントを抱える世界最大のRPOです。オーストラリア軍部は、兵士から管理職にいたるまですべてをマンパワーにアウトソーシングしています。これは世界最大のRPO契約です。

その一方で、大規模(wholesale)のRPOというよりも、たとえばイーライリリー・アンド・カンパニー(製薬会社)が営業職の採用のみを弊社に依頼してくるなど、より専門的なRPOが求められる傾向にあります。

顧客企業は、非常に専門的な多くのデータやパフォーマンスを要求します。弊社のサービスを利用することにより、将来の目標地点に成長するまでの成熟度モデルを見せてくれ、と言うのです。

また、今後の課題はグローバル人材のミスマッチへの対応で、高スキル・低スキル人材両者のマネジメントが必要です。

そのようなパフォーマンスの改善は、今後ますます求められるようになるでしょう。そうした要望に応えるためにも、より深く業界や産業、地域の予測分析ができる方法を検討しています。

現在、グローバルな規格として各国でMEOS(マンパワー雇用アウトルック調査)を利用していますが、業界・産業、地域予測分析など、もっと深く掘り下げていく予定です。

たとえば、米国オハイオ州コロンバスの産業ごとの採用予測や、どの企業が採用活動を行い、どのようなスキルセットの人材を採用するのかなど、6~8カ月先のトレンド予測をします。そのうえで、事前に必要となるだろう人材を調整し、企業に提案します。

例を挙げると、住宅ローンに関する規制緩和から、ある金融機関が500名の人員増が必要になるだろうと予測したとします。弊社では住宅ローンのスペシャリスト500名をパッケージ化し、「御社では近い将来、住宅ローンスのペシャリストが必要になります。それを当社が提供しましょう」とオファーできるわけです。

顧客の将来的な問題を把握し、顧客が人材を採用する前に解決策を提示する。これは我々にとって「至高の目標」といえるでしょう。

※1 リンクトイン
2003年に始まったビジネスに特化したソーシャルネットワーキングサービス。日本でのサービス提供は2011年から始まった。

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