人事は『シン・ゴジラ』が教えてくれる

Works誌150号の連載「人事は映画が教えてくれる」で取り上げた『シン・ゴジラ』を題材に、連載のナビゲーターである野田稔氏、カゴメの有沢正人氏、東宝の枇榔浩史氏による座談会を開催。人事が参考にできる同作の見所を語り合う。

『シン・ゴジラ』2016年7 月公開
脚本・編集・総監督 庵野秀明
監督・特技監督 樋口真嗣
キャスト 長谷川博己、竹野内豊ほか

【あらすじ】
東京湾で突然、水蒸気爆発が起こった。前例がない原因不明の事態に政府は対応を急ぐが、議論は迷走し、判断は後手に回る。当初、内閣官房副長官の矢口蘭堂(長谷川博己)だけが、未知の海底生物の可能性を指摘するが、常識外の意見としてあっさり否定される。しかし、テレビ画面に巨大生物の尻尾が映された。首相補佐官・赤坂秀樹(竹野内豊)は「矢口の冗談が現実になってしまっては認めざるを得ないか……」と呟き、第2形態に進化したゴジラは東京・蒲田に上陸。東京はパニックに陥る。

写真左: 枇榔(びろう)浩史氏 東宝取締役 人事担当補佐 兼 人事部長
写真中央: 野田 稔氏(Works誌連載「人事は映画が教えてくれる」ナビゲーター) 明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 リクルートワークス研究所特任研究顧問
写真右: 有沢正人氏 カゴメ常務執行役員 CHO(最高人事責任者)

危機において求められる異能・異才の人材が集まるチーム

野田本日は人事のプロであり、大の映画ファンでもある、有沢さん、枇榔さんにご参加いただいて、『シン・ゴジラ』に見る人事・組織について大いに語り合いたいと思います。枇榔さんは同作の製作・配給元である東宝の方ですから、そのお立場からのお話もぜひお伺いできれば。まず、有沢さんはどんな点に注目されましたか。

有沢この映画は人事関係者同士で話題にすることも多いんです。いろいろな切り口がありますが、1つにはチームマネジメントという点で重要な示唆がある映画ですね。危機においてどういうチームが最強なのか、ということが描かれている。そこでポイントとなるのが、ダイバーシティです。

枇榔内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)を中心にゴジラに立ち向かう巨大不明生物特設災害対策本部(略称 巨災対)ですね。確かに、オタクや学会の異端児など多様なタレント(才能)が集まっています。

有沢非常時には平凡な人たちが集まったチームでは何もできません。むしろ、普段は扱いづらい異能・異才といわれる人たちが集まったほうがクライシスマネジメントには適していると私は常々考えていて、この映画ではまさにそれがわかりやすく描かれているんです。

野田非常時にははみ出し者が力を発揮するというのは、決して映画のなかだけの話ではありませんからね。その際に重要になるのがまとめ役です。

有沢そうなんです。矢口のまとめ方は、管理的ではなく、みんなに自由に議論をさせます。あえて異なった意見をいくつも出させることによって、議論をうまく発展させていく。矢口のような人材がうちにいたら、ぜひプロジェクトマネジャーになってほしいですね。彼のリーダーシップは「個のリーダーシップ」。リーダー対集団の関係ではなく、リーダーとメンバー一人ひとりとの間に関係性が構築されているんです。

野田ダイバーシティマネジメントの重要なポイントですね。対照的なのが、映画の前半に繰り返される政府上層部の会議シーン。あそこには多様性はなく、完全に少数者の影響で議論が進んでいきます。官房長官(柄本明)が「結論を急ぎましょう」という象徴的なセリフを言っていますが、これは非常時においては一番のタブー。拙速な結論に至ってしまいますから。

枇榔前半の上層部の会議と、後半の巨災対を照らし合わせて観ると、非常時に求められるチーム像が浮き彫りになりますね。そこが非常にうまい。

野田大臣たちの迷走ぶりとは反対に、巨災対のメンバーは、何が自分の役割で何がチームの目的なのかをしっかり理解しているんです。

有沢目的を共有しているからこそ、大激論をして不協和が生じても議論が一点に収束していく。そのときにこそチームにものすごいパワーが生まれるんです。

枇榔ゴジラの秘密の鍵を握る重要人物である牧悟郎元教授が残した化学式を、巨災対のメンバーがそれぞれのひらめきを結集させて解明するシーンが象徴的ですよね。

事件は会議室で起きている!? 大臣たちの議論が反面教師に

野田それにしても『シン・ゴジラ』は会議シーンが非常に多い映画ですね。

枇榔確かにゴジラが出てこない時間が長いです。ゴジラが大暴れするのを見に来たお子さんは退屈するかもしれません(笑)。

野田でも、だからこそ大人にはおもしろい。「事件は会議室で起きてるんじゃない」という有名なセリフがありますが、実は、事件は会議室で起きているんです。会議での意思決定が現実に重大な影響を及ぼすわけですから。

枇榔会議というのは映画の題材としても魅力がありますね。

野田しかし、『シン・ゴジラ』は、怪獣映画を会議シーン中心で作るという発想がすごい。私が東宝の社外取締役か何かだったら、この仕上がりを想像できずに、企画書を見た段階でダメ出しをしたかもしれない(苦笑)。

枇榔この映画は総監督の庵野秀明さんに任せて自由に作ってもらったのですが、庵野さん自身は大きな会社組織に属した経歴はないんです。

野田いったいどうやって人事も唸らせるこのテーマを着想できたんでしょうね。前半の会議シーンも、日本の組織人にとっては反面教師としていい教材になります。自衛隊が第2形態に進化したゴジラを攻撃するかどうかを迷い、結局やめるシーンは観ていて大河内総理(大杉漣)が気の毒になりました。

有沢総理が思わず「今決めるのか?」と口走るシーンですね。第3形態、第4形態に進化する前のあの段階で攻撃していたら、ひょっとしたらゴジラを倒せたかもしれない。

野田あの会議で大臣たちは代替案を示すことなく、総理に対して暗に「攻撃する」という選択を迫っている。各々の発言は、代替案どころか単なる責任逃れなんです。「攻撃したらどんな問題が起きるか私は言いましたからね。でも、攻撃するしかありませんよ」と言っているようなものなんです。

有沢あれは汚いですよね。

野田しかし、悲しいかな、日本の会議ではよく見られる光景です。

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