2014年度研究プロジェクト

開成の特徴、灘の特徴
とはいえ、柳沢氏も「校風に違い」と表現しているように、当然ながら、開成と灘にはそれぞれの特徴というものがある。そして様々な資料を参照する限り、両校それぞれの独自性については、次のように理解することができるように思われる。

まず、開成の場合、その最大の特徴は、ボートレースや運動会といった学校行事にある。新しい制服の袖に腕を通して間もない中学1年生の教室に、突然、強面の高校3年生たちが大きな声を出しながら入ってくる。わけもわからないうちに、ボートレースの応援歌や運動会競技の厳しい指導に突入。インパクトも絶大な行事当日を経験し、「開成の一部」になった新入生たちは、行事終了後、親しくなった先輩たちに憧れながら、今度は全力で翌年の運動会を作り上げていく――実際、卒業生調査の自由記述でも、ボートレースや運動会の意義について言及する開成卒業生はかなり多い。「勉強よりも運動会やボートレースの応援で得るものがたくさんありました。このような風土を是非残して、発展させてください」(開成卒業生,50代,サービス業勤務)。「開成生活の意味は運動会等の課外活動にあると思います」(開成卒業生,40代,官公庁勤務)。開成の教育の大きな柱を学校行事が担っているという側面は、多分にあるようだ。

灘の場合は、いま少し違う様相をみせる。毎年2万人の来客がある文化祭なども盛り上がるようだが、灘関連の記述でむしろ目立つのは、その個性的な教育や生徒個人の秀でた能力に関するものである。「灘には6つの学校がある」(同じ教員メンバーが中高6年間の教育を担当するため、学年によってカラーや指導方針がまったく異なっていること)、「机椅子」(旧制中学時代から使われている机と椅子がセットになったもの)、「銀の匙」(橋本武元教諭による超スローリーディング授業)、「幾何の徹底指導」、「国際科学オリンピック各賞受賞」といったところが主要なフレーズになろうか。

また、灘に関しては、創設者である酒屋の嘉納家、つまり商人の目的合理的な考え方が根強く影響しているという声も聞く。商人は利益を得ることが本分。生徒は学業に取り組み、結果を出すことが本分。卒業生のなかには、「(生徒に与えられる自由も)勉強がある程度できることが必要条件」だと自由記述で指摘する者もいた(灘校卒業生,50代,サービス業)。

柳沢氏は、開成を「個人としてだけでなく、集団の中でたくましさを発揮できる大人に育つ学校」だという(『名門校とは何か?』おおたとしまさ著,朝日新書,2015年,70‐71頁)。それに対して和田氏は、「ひとりひとりが持つ個性を大事に」するのが灘の特徴だという(『「開成×灘式」思春期男子を伸ばすコツ』206頁)。認知能力の高い生徒たちが集まり、その自主性が尊重されるという共通点はありながらも、集団や個性に対する意識の強さ、あるいは学校行事と勉強への向き合い方に、それぞれの「独自性」がある。このように両校の距離を捉えることができるように思われる。

今回のコラムでは、こうした両校の距離を前提としたうえで、リーダーとして働く卒業生たちの比較分析を行うことにしたい。同じリーダーとしての素質を有する者であっても、開成卒リーダーと灘卒リーダーとのあいだには、育った環境が違うがゆえの相違点のようなものがあるのではないか。そして、学校の特徴と相違点との関係はどのように解釈されるのか。その答えを調査データから探っていくことにしよう。

2015年04月28日