再就業から、本当にやりたい仕事を手にするための3つのカギ

前回までのコラムでは、長期の離職期間を経た女性が、キャリアを再開発する際に直面する問題を整理してきた。就業希望期から就業期への移行では、さまざまな要因から就業希望を喪失する人が少なくないほか、再就業後も仕事に不満を抱えながら停滞したり、就業希望を喪失する問題が生じていた。

一方、長期の離職期間を経て再就業した後、本当にやりたい仕事を見出し、その仕事に就く人、就くためのステップを刻んでいる人は確実にいる。今回のコラムでは、そのような経験を積んでいる3人の事例を紹介しながら、再就業後のキャリア再開発のカギを考えたい。

試行錯誤の末にやりがいのある仕事を見出し、働き方を広げたAさん

遠隔地に住む夫との結婚を機に離職したAさんは、夫の転勤で何度も転居を経験しながらいくつかの仕事を試し、現在は社会保険労務士法人で経営者の右腕として働いている。

実はAさんは結婚を機に離職した後に、社会保険労務士の資格を取得している。しかし、その後の出産を経て再就業を考えた際には資格を活かすことは思いつかず、子育てと両立しやすいことを最優先に、家庭と両立しやすいライティングや添削指導の業務委託の仕事をしていた。夫の転勤でいつ引っ越しがあるか分からない上に、育児の負担も大きかったためだ。

ところが次第に、この仕事では先々につながりにくい、もう少し自分らしいキャリアを作りたい、と思うようになったため、別の道を模索し始める。その一環として社会保険労務士としての立場からブログを立ち上げ、情報発信を始めたところ、同じ立場の人とのつながりができ、個人で開業して業務を受ける道があることを知り、思い切って独立した。

Aさんが本当にやりたい仕事に出会ったのは、次第にタスクとして仕事を受けるだけでは物足りなくなり、現在の社会保険労務士法人に週3日の約束で勤務を始めたあとである。個人で開業した時も、また勤め始めた当初も「できる範囲で、週3日くらい働く」という意識が強かったAさんだが、顧客に質の高いサービスを提供することへの責任感とやりがいを感じたこと、人手不足の職場で奮闘する社長の姿を見て、自分がやらなければと思ったことから、働き方の意識が完全に変わり、フルタイムに転換したのだ。

「お客さんが待っている、お客さんのためにやるべきことがあると思いました。自分の時間を優先したいというより、お客さんに自分のサービスを提供しようと自分の仕事へのスタンスが完全に変わりました」

Aさんは現在、同じ法人で働き続けながら、女性の就業支援に関する分野にも関わっていきたいと希望しており、これに関わる活動も始めている。

いくつかの仕事を試しながら、本当にやりたい仕事を見出したBさん

多忙な職場で育児と仕事の両立の見通しが立たず、出産を機に離職したBさんは、知人から紹介された1日1~2時間の在宅の業務委託(入力業務)で再就業した。仕事は新鮮だったが、しばらくすると家事や育児と働く時間のメリハリがつく家の外での仕事に就きたいと思い始め、知人が働いていたファストフード店や小売店のパートの仕事を始めた。夫も協力的でフルタイムの仕事に就くという選択肢もあったが、いきなり正社員として勤務をすることには不安もあったのだ。
しかし、徐々に夜11時の閉店まで店に出るように求められるなど働き方が希望に合わなくなったことや、もう一度企業に勤めたいと思ったことをきっかけに、Bさんは人材派遣会社で契約社員として働き始めた。派遣スタッフの相談に乗ったり、頼られたりする仕事にはやりがいがあり、人と人をつなぐ仕事での自分の強みを再発見することもできた。

Bさんがこれからの人生で長くやりたい仕事を見出したのは、その後、知人の紹介で小学校での教員補助の仕事に就いてからだ。たくさんの子どもと触れ合うなかで、社会福祉や家庭支援の分野で働いて、困難に直面する親や子どもたちの支援に関わりたいという思いが生じてきた。それまで見ていた自治体の広報から、社会福祉や家庭支援の仕事を把握していたこと、市の家庭支援センター所長の思いに共感していたことが、この道を希望する伏線にもなった。

専門的な知識や経験のない分野で働くために、Bさんが選択したステップは「学び直し」である。まずは働きながら社会福祉士の資格を取得した上で、やりたい仕事により近い、行政の子育て支援拠点での仕事に転職した。現在は、さらなる資格の取得や必要なスキルを習得するための学びを重ねながら、希望にさらに近い仕事に就く機会を模索している。

諦めずに知識と経験を積み、機会を手にしたCさん

Cさんは、夫の海外赴任により7年間働けない期間を経て、週20時間のリサーチ補助のアルバイトで再就職した。最初は新鮮だったが、指示を受けるだけの仕事にやりがいを感じられなかったことと夫の転勤が重なり、転勤先で未経験ながらウェブサイト更新担当の仕事に就く。必死でスキルを身に付けたCさんだが、ふたたび夫の転職に伴う勤務地変更でその仕事を辞めることになる。

新たな土地でCさんは専門学校でウェブデザインを学び直したのち、就職活動を行ったものの、時短の働き方でスキルを活かせる仕事が見つからず苦戦。かといって新しい土地では子どもの預け先が見つからず、仕事にアクセルを踏むこともできなかった。英会話スクールのアルバイトをしながら面接を受けるなかで発見したのは、観光業で自分の英語力が活かせそうだという感触であった。そこで観光業に絞って求職活動を行い、大手企業で営業事務の仕事を得る。Cさんの仕事ぶりは高く評価され、異動も経験した。

しかし、次第にCさんには、職場で自分の判断や提案が必ずしも必要とされていないという実情が見えてきた。また、華やかな職場で働くうちに、子育てや介護など、もう少し人の普段の生活に関わる分野で働きたいとの思いも生まれてきた。ちょうど子どもが小学校高学年になったことをもあり転職活動を行ったところ、これまで積み重ねたウェブのスキルや、独学で身に付けた子育て関連の知識を生かせる職場に巡り合い、正社員として働き始める。現在は、福祉系法人の正社員として子育て支援等の仕事をしながら、仕事に役立つ国家資格の取得に向けた勉強を続けている。

離職期間を経て、キャリアを再開発する女性たちの共通点

3人の再就業後の経験には、共通点が3つある。

1つ目は、3人とも再就業の最初の時点で、必ずしもやりたい仕事や資格を活かせる仕事ではなく、家庭との両立に無理のない仕事を選択していることである。このことは、一般的な転職者が、これまでの経験を活かせる仕事、あるいはやりたい仕事であることを重視し、さらに賃金等の労働条件を優先して転職先を決めるのとは大きく異なる点である。

2つ目は、仕事を試すなかで、次のステップや人生で長くやっていきたい仕事を見出している点である。Aさんは、今の仕事では先が見通せないという思いが情報発信への一歩となり、勤務先で感じた顧客への責任感が意識転換のきっかけとなった。一方Bさんは、派遣社員へのサポートを通じて人と接する仕事での強みを、教員補助の仕事を通じて社会福祉や家庭支援の仕事への希望を見出した。またCさんは、さまざまな学びや職場での経験が、子育て支援など普段の生活に関わる分野で働きたいという思いの源泉となった。

3つ目は、次のステップに進むために、新たなコミュニティへの参加や、足りない経験を補う学び直しを行っている点である。Aさんは、ブログでの発信を通じてネットワークを形成し、資格を活かして働く道を見出した。Bさん、Cさんも希望の仕事に近づくため、あるいは希望の資格で専門性を発揮するための学びを続けている。

最初から大きな目標を設定すると動けなくなる

計画的偶発性理論で知られるジョン・D・クランボルツは、成功している人のキャリアの多くは偶然によって形成されており、偶然に出会うための行動を積極的に行っていることを指摘した。クランボルツは、人は最初から大きな目標を設定してしまうと動けなくなるため、小さな行動を通じて検証を繰り返し、理想と現実のギャップを埋めながら、キャリアを形成することが必要だと強調している。
離職期間のある女性は家事・育児の制約のため、小さな一歩から始めざるを得ないことが多い。その一歩は、離職期間がない人がキャリアチェンジする際の一歩よりも小さいものになるかもしれない。しかし、それを卑下したり、否定的に見る必要はない。むしろ小さくても最初の一歩を早目に踏み出し、そこで発見を重ねていくことが、ブランクからのキャリア再開発のカギになるように思われる。

好奇心を持って自分の可能性を試すことの重要性

また、第2回のコラムで紹介したマーク・L・サビカスは、自分自身と仕事をめぐる環境の変化をすり合わせながら、自分らしいキャリアを作り上げていく力を「キャリア適応力」と呼んだ。キャリア適応力には4つの次元(「関心」「統制」「好奇心」「自信」)があるが、なかでも「好奇心」(新しい経験を受け入れながら、自己の可能性を試してみる姿勢)は、今回紹介した3人が様々な仕事を試した際の姿勢と共通しているように思われる。
働き方や人が担う仕事が急速に変化していく時代に、再就職のはじめの段階から、市場ニーズがあり、自分が本当にやりたい仕事を見出せる人はごくわずかだろう。そうであるならば、まずは少し興味がある、やってみてもいいと思える仕事を試し、自分の希望や適性を確認してみる。そうして現実の仕事と自分の希望をすり合わせることが、自分が生き生きと働き続けられる仕事を見つける近道なのではないだろうか。

女性がキャリア再開発の3つのカギを持つための支援を

長期の離職期間を経て、現在はやりたい仕事を見出している女性の経験や、キャリアに関わる理論の指摘を踏まえるならば、働き始めてから、本当にやりたい仕事に就くためのカギは、「小さな一歩からまずは始めてみること」「好奇心を持って仕事を試し、自分の強みややりたい仕事を見出していくこと」「学びやコミュニティの力を借りて、やりたい仕事へのステップを刻むこと」にあると考えられる。
それでは、このようなカギを多くの再就業者が手にすることができるように、どのような支援を行うべきなのだろうか。この点については、次回で検討していきたい。

2019年01月15日